トランプ大統領就任演説に見るアメリカ人の限界

聖書に手を置いて、誓いを立てるのがアメリカの大統領就任式だが、この辺りがアメリカ人の限界であり、非キリスト教の日本人である私の理解の限界である。

ドナルド・トランプ新大統領の就任演説で、何をどのように言っているのか、全文を読んでみた。

演説における言葉遣いや品位を問う声もあったが、まぁ、なんと言うか、間違ったことは言っていないかもしれないが方法がアレな、アパホテルの社長が日本の首相になったようなものだし、ここはジャイアンが空き地で演説をかましている場面に脳内変換すると、多少のことは許せるはずだと思う。

ジャイアンはまず、列席者への謝辞を述べたあとに、オバマ前大統領とミシェル夫人に権大統領職の引き継ぎが整然と平和的に行なわれたことに対して感謝を述べている。

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"They have been magnificent. Thank you."

〈のび太、すげーいいやつ。あんがとな!〉

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確かにのび太、いや、オバマ氏は、実行力には甘さが出たが、「崇高で、見事な」大統領であったと歴史に残ると思う。

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"Today's ceremony, however, has very special meaning, because today we are not merely transferring power from one administration to another, or from one party to another, but we're transferring power from Washington D.C., and giving it back to you, the people."

「このセレモニーは特別な意味がある。なぜなら、単なるひとつの政権からもうひとつへの、ひとつの党からつぎの党へ移行ではなく、ワシントンDCからあなた方民衆への権力の移管であるからだ」

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外国人である我々からすれば、これまで米国の、というか世界の権力や富を掌握してきたのは、ワシントンDCの政治家や政府関係者というよりも、トランプ氏のお膝元であるニューヨーク、特に金融街の連中のような印象があるのだが、このあたりには感覚の差異があるのだろうか。

彼は選挙演説の時さながらに、民衆を持ち上げる。

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"This is your day. This is your celebration, and this, the United States of America, is your country."

〈今日はあなた方の日だ。この祝福はあなた方のためだ。そして、この、アメリカ合衆国はあなた方の国だ〉

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そして、自らが分断してしまった国に向けて、統一を呼びかけるのだが、やはり敵は外に求める。

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"For many decades, we've enriched foreign industry at the expense of American industry, subsidized the armies of other countries, while allowing for the very sad depletion of our military."

〈何十年にも間、我々はアメリカの出費によって他国の産業を富ませ、他国の軍隊に助成を与え、その間、自国軍には嘆かわしい消耗を許してきた〉

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この辺りに現状認識と歴史観の雑さがあるように思う。外国企業を富ませてきたのは、主に発注主であるアメリカのグローバル企業の経営陣と、消費者という名の「民衆」の共犯である。

アメリカはこれまで他国に軍事介入もしてきた。日米の戦争だって、直接的な侵略や併呑の危機的な関係にあったわけでもないのに、なぜ殺し合うことになったのか、両国の若い人たちなんかはよーく考えてみたら茫然とするのではないか。

とはいえ、オバマ政権への批判はその外交的弱腰にあったので、軍の消耗については一理くらいはあるかもしれない。が、湾岸戦争あたりから戦争の理由をまともに答えられないような戦闘を繰り返させてきたのはオバマ以前の共和党政権だから、前政権だけに責任を負わせるのはフェアではない。

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"We must protect our borders from the ravages of other countries making our products, stealing our companies, and destroying our jobs."

〈我々は、我々の製品を作り、会社を盗み、仕事をなくす他国による破壊から、国境を守らなくてはならない〉

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アメリカさんにそのまんま返すわ。町の喫茶店はスタバに、商店街はアマゾンに、定食屋はマクドやKFCになったじゃないか。アメリカナイゼイションという社会学の教科書にも載っている現象は、今日や昨日始まったことではないだろうに。

ただし、アメリカ人になったつもりで読むと、もしくはアメリカを日本に置き換えて読むとある種の羨望は感じる。

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"We will seek friendship and goodwill with the nations of the world, but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first."

〈我々は世界中の国々に友好と親善を求めるだろう。しかし、全ての国は自国の利益を最優先にする権利があるという了解の上で、それを行なう〉

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そりゃそうだろう。企業だってそうだ。おそらく交渉の達人と言われるトランプ大統領には釈迦に説法になってしまうが、我が国のそんな当たり前のことが公言しにくい不自由さを思う。「近隣諸国のために」とか「お客様第一」ではないのだ。過去への反省と、未来の国益は別の問題であるからだ。なんでも無料でサービスを追加追加してきた歪さも、日本の閉塞感に繋がっている。アメリカはアメリカ第一で、日本は日本第一で、ドイツはドイツ第一、チャイナは言わんでも過剰にチャイナ第一で、が当たり前なのだ。

さて、ここからが、アメリカ人の限界を露呈するような演説内容だ。

批判の矛先はテロリストへ向かう。

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"We will reinforce old alliances and form new ones, and you unite the civilized world against radical Islamic terrorism, which we will eradicate completely from the face of the Earth."

我々は古い同盟を強化し、新しい同盟を築く。あなた方は、文明化された世界と団結し、イスラム過激派のテロリストたちをこの地球上から完全に殲滅するのだ〉

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異論はない。

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"When you open your heart to patriotism, there is no room for prejudice. The Bible tells us, how good and pleasant it is when God's people live together in unity."

〈心を愛国心に委ねるなら、そこに偏見の入り込む余地はない。聖書は、神の子らがひとつになって暮らすことがいかに幸せで喜ばしいことかを教えてくれる。〉

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日本人の私はここで「ん?」と思ってしまう。

いや、あの、国内のバイブルとか関係ない人たちともユナイトすべき時なんだけど......。

聖書に手を置いて、誓いを立てるのがアメリカの大統領就任式だが、この辺りがアメリカ人の限界であり、非キリスト教の日本人である私の理解の限界である。

アメリカ人というのは反省をしたことがないという、世界でも稀有な人たちだ。

船で大挙して大陸にやってきて、キリスト教の布教という名目で野蛮な先住民を「教化して救ってやる」という大義の下で虐殺をしてきた。これがマニフェスト・ディスティニーという、建国の礎となった考え方だ。原爆投下もそうだった。サダム・フセインの抹殺もそうだった。

なぜアメリカが、今のアメリカの在り方になったのか、誰かのせいにするだけでその反省もほとんど感じられない。

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"Together, we will make America strong again. We will make America wealthy again. We will make America proud again. We will make America safe again. And yes, we will make, we will make America great again."

〈共に、我々は再びアメリカを強くする。アメリカを再び豊かにする。アメリカを再び誇り高くする。アメリカを再び安全にする。そう、アメリカを、アメリカを再び偉大にするのだ〉

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いいんだけどさ。自国の利益を第一に考えるのが当然なのだから。率直なところがトランプ大統領の美点でもあるから。しかし、オバマ氏のあとだけに余計に際立つ、この謙虚さの欠落がとてもアメリカ人らしくて、過剰に謙虚で損をしてきたような日本人からすると、再びちょっと羨ましい。

安倍首相、岸田外相、マジで、この演説は「遠慮はいらないぜ」宣言なので、思い切り図々しくやり合ってきてくださいね、と思うのだ。本気で殴り合った者同士だけが、痛む手でお互いの手を握り合える、ということは去年の広島と真珠湾が教えてくれたことだ。

これにて日米の外交史に新たな章が立てられる可能性もなきにしもあらず、と信じたい。