78%の再生可能エネルギーを運用して見せた日本の技術力

日本でも2012年7月の固定価格買い取り制度開始以降、太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーが急増しています。

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地球温暖化を防ぐ上で欠かせない、太陽光や風力といった、再生可能な自然エネルギーの拡大。日本でも2012年7月の固定価格買い取り制度開始以降、太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーが急増しています。天気によって変動する太陽光や風力を、いかに受け入れ、消費者に届けるのか。

その技術力が試される中、日本でもっとも太陽光発電が急増した九州電力では、2016年5月に再エネ率78%を達成。今回、WWFジャパンではその安定運用の現場を取材しました。

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転機となった「固定価格買い取り制度」

ドイツやスペイン、アメリカのカリフォルニア州など、再生可能な自然エネルギー先進国を横目に、長く低迷してきた日本の再エネ導入。

実際、2011年以前の日本では、天気によって発電量が変化する、太陽光や風力などの再エネ電力を、電力系統に大量に受け入れることは非現実的だ、とする考え方が支配的でした。

しかし2012年7月に日本でも「固定価格買い取り制度」が始まると、その状況は大きく変わりました。

大手電力会社に、決まった価格で再エネを買い取ることを義務付けたこの制度は、新たなビジネスチャンスを創出。太陽光を中心とした発電が急増したのです。

しかし同時に、変動する再エネを受け入れる側である、電力会社の系統部門は、その技術力を試されることになりました。

あまりにも急激な再エネの急増に対応できないとして、2014年9月には自社の電力系統に、外部の発電業者が接続することを保留すると発表した電力会社も相次ぎました。

新たな挑戦を始めた運用の現場

しかし、電力系統の運用現場の技術者は、この新しい課題に対して果敢にチャレンジし、現在では再エネが大量に導入されても、安定した運用を可能なものにし始めています。

その実例が、日本で最も太陽光発電が急増した九州で誕生しました。

2016年5月4日の午後1時、九州電力は需要の78%、太陽光だけで63%という、という大量の再エネの導入を、何の問題もなく受け入れ、安定運用して見せたのです。

しかもこの日は、一日を通しての再エネの比率も38%に達しました。これは今のところ日本一の記録です。

この時、運用の現場では、どのような工夫と挑戦が行なわれ、どのように困難を乗り越えたのか。

日報ビジネス社発行の雑誌「地球温暖化」の取材で、WWFジャパンが九州電力の系統運用担当者に取材させていただきました。

変動する需要と供給のバランスをどう取るか?

そもそも電気の需要は変動します。

朝、社会が動き出し、電気を使い始めると、一気に電力需要が増加。多くの人々が働く昼間にかけて最も電気需要が増えます。

夕方になると、需要は急速に減りますが、夕食の支度時にはまた少し増加するなど、電気の需要は刻一刻と変化していきます。

太陽光や風力などのエネルギーがまだ無かったころは、こうした変化に対し、主に火力発電所の出力を調整することで対応、電気を供給していました。

火力発電は出力を絞ったりあげたり、コントロールできるからです。

一方、太陽光発電や風力は天気次第で出力が変わる上、多く発電できる時間帯も昼間の日照時間内などに限られています。

つまり、大量に発電できたとしても、電気の需要の変化に合わせた供給ができません。

そのため、常に電気の需要と供給を一致させていないと停電してしまう電力システムにとっては、再エネは不都合になるわけです。

気象予測を使った発電

この問題について、海外の再エネの先進国では早くから、天気予報(=気象予測)を使った再エネの出力予測システムを活用してきました。

2012年以降、ようやく日本でも普及し始めたこのシステムを、九州電力が本格的に導入したのは、2013年のこと。

現在は、系統運用を行なう中央給電指令所のモニターに、刻一刻と変わる天気予報も映し出されています。

そしてそのやり方は、前日に気象予測の出力予測を見て、翌日の電気の供給計画を立てるのです。

たとえば、晴れて太陽光発電が多く見込まれる場合には、動かす火力発電を予め減らす計画を立てておきます。

逆に曇りや雨の予想の時には、火力発電を増やす準備をします。

ただここで問題は、火力発電には、石炭やガス、石油など様々な種類がありますが、種類ごとに、火をつけてから実際に発電するまでの時間が違うので、それぞれの特性に合わせた調整計画を立てる必要があるのです。

たとえば、ガスは最も機動力があり、早く出力を増加・抑制できます。一方、最も時間のかかる石炭では、2日前に運転指令を出す必要があるそうです。

通常はガスで調整するのが最もやりやすいのですが、再エネが8割近くも入ってくると、ほとんどすべての火力発電を抑制しなければならなくなりません。そのため今回は石炭火力も最小限に絞ったそうです。

これらの計画は、前日や当日の天気予報だけではなく、数日間見通しを立てて準備計画しておく必要があるわけです。

24時間体制で動く中央給電指令所

気象予測を使い、予測内容の変化に応じて、その都度、供給計画を見直している九州電力中央給電指令所の運用担当者は、気象予測がはずれるのが一番対応に苦慮すると話していました。

予測が外れた場合、時には、太陽光発電の発電量が、予測よりも100万キロワット(火力発電所2基分)も多かったり、少なかったりすることがあります。

そんな時は、スタンバイしている火力発電に出力増加や抑制の指令を出して調整し、準備が整うまでの間は、すぐに発電量を調整できる揚水発電を使ってしのぐと言います。

揚水発電とは、水力発電の一種で、電気が余っている時に高い場所にある上池に水を上げて貯めて置き、電気が足りない時に上池から下池に水を落として発電する、巨大な蓄電システムです。 これはそもそも原発の電気が余る夜間に、其の電力を使って水を上にくみ上げ、電気が足りなくなる昼間に発電する、という運用が主流でした。

それをここでは、太陽光発電が多く電気を供給する昼間に水をくみ上げ、急速に太陽光発電が減少する夕方に、主に水を落として発電して補う、という方法を編み出し、利用しています。

くみ上げる池にも水を落とす池にも容量に限りがあるので、それぞれ発電が持続できる時間は、5時間程度とのことですが、それを考慮し、3日間くらいの天気予報を見て、晴れる日が続くときには、なるべく夜間に水を落としておき、昼間に水をくみ上げる余地を作る、などの日をまたいだ運用も行なっていると言います。

そうした運用でも、電気が不足したり、過剰供給になる場合には、地域と地域の間にある連系線を使って、隣の電力エリアと融通します。

九州電力では、この一連の運用を3人編成の技術者のチームが担当し、24時間3交代で携わっています。

担当者たちは、中央給電指令所にあるモニターに、契約している気象会社から刻一刻と送られてくる天気情報に絶えず気を配り、時には西側に面した窓から外を見て、観天望気も活用した運用を行なっていました。

こうした職人芸ともいえる技術が駆使されて、2016年5月4日の、九州電力による再エネ供給78%が達成されたのです。

見えてきた日本の新しいエネルギーの姿

太陽光発電が急増し始めてから2年。

そのわずかな期間に、電力系統の運用技術をこの水準にまで押し上げたのは、さすがに日本の技術者です。

ほかの電力会社も程度の差こそあれ、こうした気象予測を使った再エネの大量導入に向けた運用を、加速させつつあると考えられます。

これは再エネを主流とした、日本の新しいエネルギー社会実現に向けた、第一歩を築くものといえます。

現在の日本の気象予測を使った出力予測システムの精度は、まだ十分に高いとはいえず、ドイツやスペインの技術に比べても改善の余地が多くあります。

しかし、天気予報の技術については、日本のそれが世界の最高水準にあることは間違いありません。

こうした日本の力に裏うちされた電力系統の運用は、今後もさらにその精度を高めていくことでしょう。

これまでの常識では実現できなかった、新しい再エネの大量導入の時代。

そのために対応が求められる制度的、社会的な変革は、いまだ山積しています。

それでも、新しい再エネというエネルギーの主流化は、否定しがたい大きな潮流となりつつあります。

今回WWFがお聞きした九州電力の担当者は次のように話していました。

「運用にあたっては、夏の明け方に急激に需要があがる時、対応してきた経験などが活かされています。再エネを優先するという給電ルールに従って、これからも努力を重ねていきます」

安全で純粋な国産エネルギーである再生可能エネルギーを柱にした未来の姿が、この日本という国でも、確かに見え始めています。

※このWWFによる九州電力への取材報告については、日報ビジネス社「地球温暖化」1月15日発売号~3月15日発売号に連載しております。ぜひご覧ください。

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