「JAPAN、ありがとう」 第4戦 観客席は、まるで感謝祭のようだった

素晴らしい戦いをここまで見せてくれた「勇敢な桜(JAPAN)」への感謝祭。

10月11日、日本のラグビーワールドカップの試合はすべて終わった。

すでに報道されているとおり、4試合中3勝という成績を収めながらも、決勝リーグには進めないという非情な結果であった。そんな世界中の人々の予想を大きく覆した彼らの最終戦がどんな雰囲気だったのか。今回も観客席からの視点でお届けする。

どんな試合であっても、もちろん1戦1戦が選手にとっては勝利のための死闘であることを理解した上で観客席の雰囲気をあえて伝えるなら、この第4戦は「感謝祭」だった。

素晴らしい戦いをここまで見せてくれた「勇敢な桜(JAPAN)への」感謝祭。

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:試合前にはこんな夕焼けが、両チームを歓迎していた。思えば南ア戦のあとの空もこんなふうに赤く焼けていた

★★

日曜日の夜の試合スタートということもあり、日中から、スタジアムの近くへ行き、先に行われる試合を「ファンゾーン」と呼ばれるパブリックビューイングで観る人が多かったように思う。グロスターはかつて貿易で栄えた歴史を持つが、そのころの倉庫群がグロスター・ドッグと呼ばれる観光地として整えられている。

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レンガ作りの倉庫に囲まれたファンゾーンは夕暮れ時とても雰囲気があった

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エリア内ではビールやハンバーガ―が売られており、子供連れなども交え、楽しい雰囲気で盛り上がる

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スピーカーからは現場の観客の声も流れており、遠くの「傍観者」ではなく一緒にいる「参加者」として楽しめる雰囲気が十分にあった。

試合開始時刻が近付き、スタジアムへ向かった。スコットランド戦の時と同じキングスホルム・スタジアムであったが、対戦相手や状況が違うとその場所は全く違うものに見えた。

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和太鼓のパフォーマンスをしているチームがいた。スコットランドがあれだけの、文化的雰囲気を作っていたことを考えると、この日、日本としてもなにかやりたかった。

改めて説明を加えると、日本はこの試合まで2勝1敗であり、この日のアメリカ戦に勝利をし、3勝1敗になっても次のトーナメントに進めないということが、前日のサモアVSスコットランドの結果ですでに分かっていた。このことにより、スタジアムへ詰めかけるファンの心境はこれまでよりか幾分落ちついたものであったはずだ。実際ファンの動きは正直で、スタジアムが観客で埋まるまでに少々時間がかかり、盛り上がらない試合になってしまうのではと心配もした。

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試合1時間前はまだこんな感じであった

しかし、その不安は杞憂に終わる。最終的には、ほぼ満席での試合スタート。

ただし、漂う空気はこれまでと少し違っていた。

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なにが違っていたのか?

この日は選手達の表情を見ようとあえてスタンディングゾーンで観戦した。それにより、いつも以上に前後左右の人の様子も感じ取ることができた。そしてその様子はこれまであったような勝利を切望する「熱い応援」というよりも「感謝」や「尊敬」、また「惜しむ様子」が感じられたのだ。これが冒頭で私が本試合を「感謝際」と表現した理由である。

スタジアムの進行を仕切っていたアナウンサーも、マイクを通じて日本のことばかりを話し、惜しみない賞賛の言葉を送った。ITV(イギリスの放送局)の放送でもハーフタイムには、「あと40分でこの桜がみられなくなるとは残念」とはっきりと日本を惜しむ言葉を口にしたという。

やりすぎとも思えるくらい、会場は日本の応援で溢れ、試合中に大きなアメリカ国旗を持って移動するファン(おそらくわざとだ)が前を通るだけでブーイングが起きたほど。

一方で1割程度しかいなかったであろうアメリカファンだが、3割程度はいたように錯覚するくらい、彼らの応援と存在感もまた大きかったことを付け加えておく。

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派手ではないながら、日本を応援するアイテムを持っている人が目立つ。

スタジアムにいるファンはもちろん、テレビで観戦している人も、これでJAPANの戦いをしばらく見られなくなるのかと思うと、本格的に寒くなりはじめたイギリスの季節的寂しさとも相まって、高揚感だけではないどこか感傷的な思いが混じっていたように感じた。

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この試合は応援コールが面白かった。

南ア戦の際は、日本人がスタートさせたと思われる、バレーボール式「ニッポン チャチャチャ」を変化させた「ジャッパン チャチャチャ」が生まれたと伝えたが、4戦目となる本戦では、本家「ニッポン チャチャチャ」がすでに浸透していた。後ろにいた2人組の男性の方が、「ニッポンっていうのはね。JAPANって意味なんだよ!」と得意げに彼女へ説明しているのが聞こえたが、こうしたやりとりが無数に行われた結果、完璧に「ニッポン」に揃うに至ったのだろう。

また今回はこの感謝祭的な雰囲気の中、あと2つ新たなコールが生まれていたのでご紹介する。

1つは、「チャチャチャ」の3拍子にうまく「USA」をあてはめたもの。かなり大きな声だったのでTV放送にものっかったかもしれないが、「ニッポン!USA!」「ニッポン!USA!」という掛け合いを皆で楽しんだ感があった。

「ニッポン!USA!」コールの様子はこちら。(YouTube)

また、それ以外にも日本人発ではない、現地で生み出されたと思われる新しいコールも耳にした。第2戦の後半の「スコーートランド」「スコーートランド」という応援を覚えている人もいるかもしれないが、それに近いリズムで、「にーーっぽん」「にーーっぽん」という力強い声が選手を後押しした。

現地版コールのリズムを聞いてみたい方はこちら。(YouTube)

どちらも試合に夢中だったため、画質については勘弁いただきたい。

上記の動画にも出てくるひときわ大きな声で、ジャパンコールを繰り返す若い男性5人組は、自作の日の丸ハチマキをしていた。白い布を自分達で切って、赤いインクで丸を書いたシンプルなものだ。スタジアムで歌舞伎の仮装などをしている場合、内輪の盛り上がりを期待した遊びという要素も多分にあるだろう。しかし、この自作のあまり格好良くはないハチマキは、この試合で「自分達はJAPANを応援しているのだ」いうことをきちんと証明しながら身を置きたかったということの現れなのではないだろうか。そのほか、さほどラグビーに詳しくはなさそうに見える家族連れも皆日本を応援していることが分かるアイテムをなにか身に着けてきていたのが印象的だった。

ハーフタイム中。

私の前にふとピンクのアーモンドチョコが差し出された。隣を見ると、中年の男性。シャイなのか、こちらを向いてはくれない。お礼を言って一粒もらうと、正面を向いたまま「南ア戦も見たのかい?」と男性。「はい、それはもう素晴らしかったです」と答えると、心底羨ましそうに、「いいなぁ」と一言。前の席からは、奥様と思われる女性が、「愛想なくてごめんなさいね」とばかりに片目をつぶって笑った。

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決勝進出がかかっておらず、また夜の試合でもあったため、ビール片手に応援する人がいつも以上に多かった。

試合運びについては、点差だけ追うと危ない局面もあったように見えるかもしれない。しかし、ここまでスタジアムで彼らを見てきたものとして不思議と全く不安にならなかったというのがあの場にいた人の共通意見だと思う。

試合中、靴紐を何度も結び直す藤田選手の様子から、彼の心持ちが透けて見えて気がした。

20時スタートの試合は深夜まで及ぶ。ロンドンから電車で2時間以上離れた場所での戦い、

都心で翌日に仕事がある人は、交通事情の関係で試合をラストまで見るのが難しく、終了ほんの数分前から、少しずつ人が動き出す。実は私自身も苦渋の選択でそうせざるを得ないひとりであった。

皆後ろを振り返り振り返り、もうスタジアムが見えなくなっても、すっかり暗くなったグロスターの街にぽかりと浮かぶ明るいスタジアムの光をときどき見つめながら、駅までの道のりを急いだ。途中、「わぁ!」と歓声が上がった気がした。勝ったのだな、終わったのだなと思った。そんなスタジアムの光の筋を見つめながら、なぜかこのタイミングで2019年の日本開催に強く思いを馳せた。

スタジアムから駅までの10分程度の道のりには、夜遅いにも関わらずたくさんのボランティアの方が立っていた。試合終了直前でまだ本格的に込み合ってはいない。

彼らにとっても最後の仕事を目の前に、やはりここでもみんなで日本の頑張りを称えてくれた。笑顔のボランティアと、お互いへの労いの言葉を交換し続けながら、最終に近い電車へと滑りこんだ。

ここで1つ小話を入れると、サモアVSスコットランドが行われ、彼らの決勝リーグ進出が放送される前までは、日本が決勝リーグへすすむものだと勘違いしているファンが実は結構いた。ある報道陣によるとトゥイッケナムでは、「決勝リーグ進出おめでとう!」とファンのみならず、他国の撮影クルーからまで声がかかったそう。これには理由があって、これまでのワールドカップ史において3勝したにも関わらず決勝リーグへ進めなかったチームはいなかったのである。

この件に関して、メディアから、そして身近なロンドナーから「もっとJAPANを見たかった」「ここで敗退させてしまうのはなんとも惜しい」という声が本当に多く聞かれた。

もう一つ、このワールドカップ関連でよく耳にしたのが、「にわかファン」という言葉。

10月13日に行われた帰国後記者会見で畠山 健介選手も「ルールが全然分からなくてもいいから、(僕らだって全部は分からない、という冗談も交え)是非スタジアムにプレーを見に来てほしい」と訴えていた。あえてこの言葉を使うが、現在のにわかファンの存在が4年後の日本開催を盛り上げるのだと私は思う。誰でもはじめは知識が少ないながらプレーに魅了されている初心者ファンだ。

この原稿を読んでくれている人にもライトなファンは多いと思う。そのことを本当に嬉しく思い、そうした方にこそラグビーの感動を伝えたいと思って書いてきた。どうか心配しないで欲しい。今回の大会で関わってきたたくさんのラガー、そしてその周囲にいるラグビーが好きな仲間からの反応から、ラグビー界は今猛烈に初心者ファンを歓迎している。今はルールが分からなくても、観戦をしたことがこれまでほとんどなくっても、選手の1プレーに魅了されればそれでいいのだ。

個人的にラグビーは気軽に見に行きやすいスポーツの1つだと思っている。選手達も口にしていたが、日本代表はこれで解散するが、トップリーグはまだこれから。さらにトップリーグの下にはトップイースト、トップウエスト、トップキュウシュウがあり、地元での観戦も叶う。彼らの中には仕事との本格的な両立をしている人も多く、知れば知るほどそんなラグビーらしい魅力と出会えるに違いない。

お住まいの近所でラグビーを観たい方はこちら

もし、ここまで記事を4つ通して読んでくれた方がいれば、もう魅了の入り口まできている。もっとラグビーを知りたい人のために動き始めている団体も多くあり、(参考:みんなのジャパンウェイ https://www.facebook.com/minragu?notif_t=page_fan)今はラグビーを観始める絶好のチャンスといえよう。2019年の日本開催をより楽しむためという個人的な企みで全く構わないと思う。これからもラグビーで楽しんでくれたなら、こんなにうれしいことはない。そのきっかけとして本記事が少しでも役に立っていたのなら、心より嬉しく思う。

今後も何かに機会に、ラグビーの、また他のスポーツのリポートもお届けしたい。

また、大会前に企画制作した、「ラグビーW杯イングランド大会を楽しもう 4年後の日本大会に向けて」の続編として大会を振り返る書籍の制作も決定している。ここまで書いてきた観戦記もすべて写真やコメントを増やして掲載予定だ。

大会の興奮を振り返りたい方は是非とも手に取ってみてほしい。

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グロスターへ向かう玄関口、パディントン駅にいたマスコット。