色が味覚に与えるマジック

あなたは、綺麗な色のテーブルクロスが敷かれた机の上にあるご飯と、ただ机の上に置かれたご飯では、どちらの方に食欲をそそられますか?
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色は人の味覚に影響を与えるのか?!

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あなたは、綺麗な色のテーブルクロスが敷かれた机の上にあるご飯と、ただ机の上に置かれたご飯では、どちらの方に食欲をそそられますか?

普段行けないようなおしゃれで雰囲気のあるレストランに行ってみたと例えてみましょう。おそらく、料理自体が美味しいのに加えて、お店の内装や料理そのものの色使いが新鮮で、普段よりも何倍も特別に感じるのではないでしょうか。

一方、病院や施設の食事を想像してみてください。

味よりも栄養を重視して作られたものであり、料理自体がその人にとって好みではなく決して良いものではなかったり、病院の内装や料理の色使いが美味しそうに見えなかったりするのではないでしょうか。看護学生である私は実習中に、患者さんに食事の介助をした時に「こんなの食べたくない。」「美味しくない。」と言われたことが多々ありました。

患者さんに美味しくご飯を食べてもらうためには?

そこで、ある看護師が患者さんに食事介助を行った際の成功体験をご紹介します。

ある老健施設で、ある看護師がいつも通りある高齢者の方に焼き魚をほぐして配膳したところ、まったく口にしてもらえませんでした。そこで看護師は、木目の重箱に魚をふっくらと盛り付け、オーバーテーブルには赤いテーブルクロスをかけ、庭の花を一輪飾って出し直しました。すると、それはその人に美味しさを連想させ食べてくれました。

このエピソードから、ある看護師がテーブルクロスや花の色がその人の味覚に影響を与えたのだと思い、「看護師の色彩センスが患者さんに影響を与えるのかどうか」について研究しようと考えました。その看護学研究の内容を解説したいと思います。

対象は、味覚閾値に影響を及ぼす要因(空腹感、肥満、喫煙習慣、妊娠、睡眠不足、口腔乾燥、疲労など)をコントロールした29名の健康な成人女性。ランチョンマットの色を変え、味覚閾値(味を感じるのに必要な最小の刺激の量)の変化を実験しました。

実験のスペースは白壁で、病院個室の基準の広さを6.3m²とし、味覚閾値に影響を及ぼす因子である室温、湿度、照度、騒音を設定しました。対象者には、食器を置いたオーバーテーブルを前に椅子に腰をかけてもらい、オーバーテーブルから目の高さまでを40m、目から食器の中心までは50mに調整しました。

食器の下には、ランチョンマットに見立てた42㎝×31.5㎝の色画用紙を置きました。マットの大きさはアイマークレコーダーで、視線範囲が100%カバーできる大きさとし、給食トレイの大きさを考慮して決定しました。マットに用いた色は、基本色としての白と、三原色の赤・緑・青の3つとし、提示はランダムに行い、食事に要する最初の時間を想定して、味覚閾値の変化を観察しました。

その結果、なんと色によって味覚の閾値に変化がみられました!

赤は塩味、青は甘味、緑は甘味と塩味に有意な変化がみられました。酸味と苦味では差がありませんでした。

つまり、色の好みに配慮しながら、塩味を感じさせたければ赤や緑のマットを用い、甘味を感じさせたければ青または緑のマットを用いると良いということです。

これを看護の現場で応用するならば、塩分制限によって美味しさを感じられない人の塩味の味覚を敏感にするために 緑や赤のマットの活用を検討したり、カロリー制限によって甘味を制限されている人の甘味の味覚を敏感にするために 青や緑のテーブルクロスやマットを使用することで甘味を感じやすくさせることができるのです。

さらに、主観評価では、4色のうち白が最も空腹や不快を感じさせましたが、色の好みに関係なく甘味、塩味、酸味、苦味のいずれの指標にも有意な差はありませんでした。POMS(注1)では、青と緑が「活気」を有意に変化させ、赤は「怒り―敵意」、青は「緊張―不安」「抑うつ」「混乱」をそれぞれ有意に変化させました(p<0.05)。これは、味覚閾値の変化が色による直接的な影響によるだけではなく、心理的影響を伴う間接的な影響によるものであることを示しました。

なぜ色が味覚に影響を与えるのでしょうか?そのメカニズムとして、まず視覚情報として眼から入力された色の刺激は、脳幹部の視床下部という部位に達し、ホルモンの産生を誘発します。そして、抑制すつ内分泌システムに刺激を与え、何らかの情報を引き起こすのです。

その情動が一つのストレス反応として、味覚閾値の変化だけではなく消化・吸収なども変化させ様々な生体反応を引き起こします。なので、ランチョンマット一枚を用いることで、食のQOL (生活の質)の向上に影響する可能性は十二分に考えられるのです!

色彩の持つ可能性を最大限に利用しよう!

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このように、年齢や性別・色の好みも結果に関係すると思われますが、色による情動の変化も食事の満足度や味覚の変化、消化や吸収にまで関与する可能性が十分に考えられているため、看護師が色彩感性を食事の場面で生かしていくことが大いに期待されています。

実は、看護師の看護記録で使用する専門用語や生活用語には、241種類もの表現を使いこなしていると言われるほど、色に対する感性が豊かだと言われています。

また、あなたが看護師ではなくても、あなたや周りの人で好きなものが食べられない人がいたとしたら、食べ物そのものではなく、食べ物を取り巻く環境を色を使ってコーディネートしてみてください。きっと、その人の生活の質を高めることにつながることでしょう。

(注1)POMS:「緊張」「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」の6つの尺度から気分や感情の状態をより確実に測定する心理検査。

文責:聖路加国際大学看護学部4年 松井晴菜

引用・参考 文献/URL:

・菱沼典子・川島みどり編集(2013) , 看護技術の科学と検証 第2版―研究から実践へ、実践から研究へ―,株式会社 日本看護協会出版, p161-p164

・劉書函(2011) ,食環境にケアにおける色提示が味覚閾値に及ぼす影響,お茶の水医学雑誌,59(1),p35-41

・サラヤ株式会社「栄養士 すぐに役立つ栄養士のためのサイト」