シャープには強い技術があるのだろうか:特許の側面からの疑問

産業革新機構は12月、液晶や携帯電話向けカメラ部品などで競争力のある技術を持っているとして、シャープの子会社化を検討するという。
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12月2日付の読売新聞が「シャープ子会社化案...革新機構、株式取得を検討」と報じている。液晶や携帯電話向けカメラ部品などで競争力のある技術を持っているとして、産業革新機構はシャープの子会社化を検討するという。

本当にシャープの技術力は高いのだろうか。特許の側面から調べると疑問符が付く。

世界知的所有権機構(WIPO)の枠組みに、特許協力条約(PCT)に基づく出願という制度がある。これを利用すれば、多数の国に一括して特許が出願できる。WIPOは、毎年、PCT利用企業のランキングを発表している。それによれば、シャープの出願件数は2009年が997件で世界10位、2010年は1288件(8位)、2011年は1755件(4位)、2012年は2001件(3位)と件数を増やし、順位を上げていった。経営が深刻化したこの間に、技術陣は国際出願を重ねていたのである。

PCTを用いれば出願は安価だが、審査は各国で実施され、特許と認められれば各国に登録料を払わなければならない。ザクッと費用総額を1件500万円としても、2000件では100億円になる。2013年も1839件で第6位、2014年になって1227件(14位)と、やっと件数と順位を落とした。

これだけ多くのPCT出願をしているのだから、シャープの技術力は高いのだろうか。

特許の場合、経済的価値は活用して始めて得られる。活用方法には、主に三つがある。第一は、特許の壁で市場を独占する方法である。1960年代にゼロックスがコピー機で世界市場を独占した例が有名である。キヤノンがこの壁に挑戦し、独自技術でコピー機を開発した物語は、NHKの「Project X」にも取り上げられた。

第二は、他社に使用許諾して使用料(ロイヤルティ)を稼ぐ方法である。IBMは米国版の有価証券報告書(10-K)で、2014会計年度のロイヤルティ収入が283百万ドルだったと報告している。2014年のPCT出願件数で世界第2位(2409件)となった米国クアルコムの、2015会計年度のロイヤルティ収入は8202百万ドルである。邦貨に換算すれば、およそ1兆円ということになる。

第三は、他社に無償で使用許諾する方法である。ロイヤルティ収入はゼロになってしまうが、トヨタが燃料電池自動車で実践したように、他社からも類似製品が投入されることで市場が拡大していく効果が期待できる。ちなみに、トヨタはPCTの2014年ランキングで1378件、12位であった。

シャープの場合、特許侵害を理由に他社を市場から排除しようとは動いていない。「シャープ」「特許侵害」で記事検索したら、シャープが特許侵害で提訴されたという記事が出てきたくらいだ。シャープの特許使用料収入は、2015年3月期で234億円と、IBM並みで、クアルコムには遠く及ばない。シャープが普及のために技術を無償公開したという話もない。三つの方法以外に、もちろん自社活用という道があるが、それではなぜ大量のPCT出願をしていたのだろうか。IBMのようにPCTランキングに入らないのが当然と思うのだが。

シャープが蓄積していた大量の特許は上手に活用されていない。活用できない特許はいくら蓄積しても無価値である。産業革新機構は今後、シャープの技術力を評価するだろうが、特許については、出願や登録の件数ではなく、ここで説明したように活用度で評価する必要がある。

最後に宣伝。情報通信政策フォーラム(ICPF)では、「特許活用の価値」と題するセミナーシリーズを開始し、議論を深めていくことにした。第1回は、12月9日に「キヤノンの特許活用戦略」と題して開催する。ぜひ、参加していただきたい。