「#就活の真実」はこれだ。ワンキャリアが2年連続で企業に煙たがれるキャンペーンを仕掛ける理由【就活解禁】

「ドラゴンボールの一巻で、いきなり魔人ブウを倒せるのか、フリーザを倒せるのかっていう話です」ーー。キャンペーンの仕掛け人、ワンキャリアの寺口浩大さんに聞いた。
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渋谷に登場した巨大広告。備え付けのラックに入れられた号外は誰でも手に取れる。
ワンキャリア提供

2021年卒対象の就職活動が3月1日に解禁されたのに合わせ、ワンキャリアが「#就活の真実」と題したキャンペーンで就活のあり方に一石を投じている。

この日、渋谷には「就活の真実、公開中。」と書かれた大きな広告が登場した。

東京、名古屋、大阪、福岡ーーと地域に合わせた「就活生新聞」も用意。30万件を超えるデータをもとに作成された“本当の”人気企業ランキングや、学生の選考体験による本当の就活スケジュールが掲載されたオリジナル新聞の号外を、電子版と紙面版とで学生たちに届けるという。

就活のクチコミサイトを運営するワンキャリアは、1年前にも「#ES公開中」と題したキャンペーンを展開。

渋谷駅に巨大な壁面広告を掲げて人気企業の内定者のエントリーシート(ES)を配布し、「エントリーシートを大量に書く時間より大切なことがあるのでは?」という根源的な問いを道ゆく人に投げかけた。

 

なぜ、こんなことをするのか。

企業側には煙たがられそうなキャンペーンを連発する同社の寺口浩大さんに、真意を聞いた。

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ワンキャリアの寺口浩大さん
Kasane Nakamura

人生の一部を投資している学生に、「お祈りメール」の不誠実さ

 ES、SPI、意地悪な面接…。

「ホンネ」よりも「タテマエ」を優先し、“内定”というゴールを目指して頑張る現在の就活は、誰もが不毛だと思いながらも、社会人になるための通過儀礼のように立ちはだかってきた。

ワンキャリアが挑むのは、こうした就活のあり方そのもの。武器は、学生たちのクチコミというデータだ。

今回の「号外」にも、選考を受けた学生たちの実際の就活スケジュールを掲載。

どんな業界の企業で、採用プロセスがどう進むのか。就活の選考が解禁される6月1日よりも前に「内定」をもらっているケースがどれくらいあるか。つまびらかに公開した。

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号外「就活生新聞」
ワンキャリア提供

ーー内定者のESや採用プロセスの実例など、企業が公開していない情報をゲリラ的に公開していくのは、なぜですか?

現在の就活は、あまりに学生と企業の関係が不平等だと思うんですよ。今も多くの学生が不確かな情報のなかで不安を抱えて就活を進めています。

たとえば、エントリーシートにしても、面接にしても、学生はものすごくパーソナルな情報を企業に開示して、自分のコアな部分をさらけ出すわけです。なのに、定型文の「お祈りメール」1本でお断りされる。あまりにも、自己開示した学生へのリターンが少ないと思いませんか?

大学受験ですら過去問と解答例が開示されているのに、就活には過去問すら与えられていなかったんです。

 

ーーたしかに企業と学生の関係は対等ではありませんね。お互いに、選び、選ばれる関係のはずなのに…

企業のIR(インベスター・リレーションズ)活動を考えてみてください。企業は投資家に対しては丁寧に誠実にデータを開示してコミュニケーションをとりますよね。

採用活動はどうでしょうか。採用広告と会社案内に、学生が本当に知りたい情報、真実があるでしょうか。ESや面接で落ちた時に、納得ができるでしょうか。

学生にとっての就活は、自分の人生の一部を投資するに等しい。いわば時間の投資家です。そういう相手に対して、今の情報開示の在り方はあまりに不誠実です。

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リクルートスーツに身を包み、合同説明会で企業担当者の話を聞く学生たち(2019年3月)
時事通信社

約束の前提は崩れたのに、なぜ就活は変わらないのか?

寺口さんが言う「学生と企業の不平等な関係」を長らく支えてきたのは、終身雇用と年功序列に代表される日本型の雇用システムだ。

入社さえできればリターンが確約されていたからこそ、理不尽な就職活動でも成立してきた。

だが、共働き世帯と専業主婦世帯の数は1997年に逆転し、21世紀に入ってからは女性活躍やダイバーシティなどの言葉も広く浸透するようになった。男性社員の育児休業や、パラレルワークなど、多様な働き方も広がっている。

2018年10月には、日本経済団体連合会(経団連)が新卒一括採用の見直しを発表。

2020年1月には、年功型賃金と終身雇用を柱とする日本型雇用慣行を見直す必要性を提起した。

学生側のマインドも変化してきている。

マイナビが2019年に行なった調査では、新卒で入社した会社で「定年まで働き続ける」と思っている新入社員は約2割にとどまった。

 

ーー旧来型の雇用システムは崩れているのに、なぜ今でも不平等な就職活動、採用活動が成り立っているのでしょう。

約束の前提が崩れたのに、企業側の姿勢や開示される情報は何も変わっていない。でも、学生はそこに気づかないんです。それは、ほとんどの学生にとって、就活は初めてだから…。

さらに言えば、社会の変化を知識として知ってはいても、自分ごととしてリアルに感じにくい。

今の時代に沿ったキャリア観を持つことが必要だと分かってはいても、それができるだけのキャリア教育は受けていない。なのに、大学3年生の後半になると、自分のキャリア観や人生観が醸成されていないのに、キャリアの選択を迫られるんです。

 

三井物産の「めちゃくちゃ大きな一歩」

ただ、企業にも変化がないわけではない。

採用担当者がSNSで日ごろから情報発信し、学生などと積極的にフラットなコミュニケーションをとるスタートアップ企業もある。

IT企業のガイアックスでは、大学群ごとの応募者数、内定者数、内定時期、など採用データを赤裸々に公表している。

インターネット広告のサイバーエージェントは、2017年からいち早くオンラインでの会社説明会を導入。狙いは、地方と東京の情報格差の解消だ。

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寺口浩大さん
Kasane Nakamura

ーー企業側の変化はどう見ていますか?

進めている企業はどんどん進めているけれど、日本社会を牽引してきた重厚長大な産業のリーディングカンパニーが変わらないと…。

でも、嬉しい変化もありました。

三井物産が会社説明会で、学生たちにスライドを撮影していいと伝えていたんです。しかも、スライドでは、商社を志望する学生が気になっているけどなかなか聞けない「配属」についてのデータを開示していました。

これはめちゃめちゃ大きな一歩です! 企業説明会って、勝手に撮影してはいけない雰囲気あり、スライドの内容をメモしている学生が多いんですよね。

三井物産は「#ES公開中」のキャンペーンを知っていてくれたみたいでした。企業にとっても、学生にとっても、情報開示を積極的にすることは良いマッチングにつながります。

ーー変わらない、変われない企業は、どこに要因があるのでしょう。

人事と採用の距離がどれだけ近いか、というところに起因すると思っています。

「変えたい」という思いがあっても、なかなかアクション起こせない採用現場の人も多い。アクションが起こせないのは、権限がないからです。経営と近くないと、採用でこのように何かを変えるような大きな意思決定はできません。

 

オワハラは「1秒先の1円を稼ぐために、数年先の1億円を失うようなもの」

「僕自身、学生に対してオワハラをやったことがあるんです」

寺口さんは、そう告白する。

大企業の営業担当として自身のキャリアをスタートした寺口さんは、リクルーターとしての経験も持つ。

オワハラをする側だった時の苦い経験が、今、寺口さんが日本の就活のあり方を変えたいと突き進む理由になっているのだという。

恥ずかしい話ですが、個人で違和感を感じていても、ルールに逆らう勇気はありませんでした。最終面接の前に他の企業を全部断るように言ったら、ある学生に言われたんです。『ダサいっすね』って…。『寺口さんも会社も、自信がないんですね』と。あれは堪えました」

「オワハラの噂は、今はワンキャリアのクチコミであっという間に広がります。学生による企業評価のレーティングも下がっていきますよ。そのあたりも『#就活の真実』では公開しています」

「オワハラなんて、1秒先の1円を稼ぐために、数年先の1億円を失うようなものです」

 

「ドラゴンボールの一巻で、いきなり魔人ブウを倒せるわけがない」 

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渋谷駅の「#ES公開中」の壁面広告(2019年3月3日)
Kasane Nakamura

ーーーー「#ES公開中」も「#就活の真実」も、企業側には許可を得ていないと聞きました。嫌がられませんか?

「#ES公開中」の時には、賛同してくださる企業も多い一方で、一部からは「やめろ」「何で勝手にこんなことをやるんだ」というクレームもありました。でも、学生からもらった情報を学生に返しているだけなんです。

クレームをいただいた会社には、行脚して意図や趣旨を説明しました。理解してもらって、今では仕事をご一緒している企業もあります。もう、そういう時代なんです。人に時間を投資してもらうためには、情報を透明化していく他ないと思います。

 

ーー「#ES公開中」のキャンペーンは、Twitterのトレンド入りするなど大きな話題になりました。

でも、1年前のあれは単なる「きっかけ」でしかなく、キャンペーン全体の布石の意味しかないんです。

だってそうでしょう?エントリーシートをばらまいただけで、就活という大きな固まったものが変えられるわけないじゃないですか。ドラゴンボールの一巻で、いきなり魔人ブウを倒せるのか、フリーザを倒せるのかっていう話です。

「地方と東京の情報格差を解消したい、と言いながらなぜ渋谷でやったのか」と聞かれることもありますが、渋谷でやれば話題になるからです。注目されて初めて、広く届けることができます。

でも、注目されることは手段であって、目的は別にある。

情報を透明化することによって、地域格差、企業と学生の格差、構造的に生まれている格差を埋めていくのが僕らのアイデンティティなんです。

 

『やめない』ということだけは決めている

「#就活の真実」のキャンペーンで配布する号外「就活生新聞」は、8ページに及ぶ力作で、地域面(東京、大阪、名古屋、福岡)も用意した。

当初は、各地で開催される予定だった合同企業説明会などで、手渡しで配布する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で変更を余儀なくされた。

かわりに、YouTubeで企業説明会をライブ配信する。平日午後6時から毎日、賛同企業と連携しながら配信を行い、学生もオンラインで質問できるようにするという。企業側の費用負担は無料にした。

今、相次ぐ就活イベントの中止で企業の説明を聞けなくなって不安を抱えている学生がたくさんいます。すべての学生に、平等な機会を提供したい。新聞は、賛同いただける大学関係者の方々と連携しながら、確かな情報を学生に届けていければと思っています」

 

学生のクチコミによって真実に光を当て、就活をめぐる情報の透明性を高めるーー。このキャンペーンが進む先には、何があるのだろうか。

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3月1日午前10時に配り始めた号外は、すぐに手に取られ、スタッフたちが次々と補充していた。
Kasane Nakamura

ーーキャンペーンが目指す最終ゴールはどこにあるんでしょう? 

採用の透明化から、経営への透明化、雇用の透明化につなげていきたいし、そうなると思います。

そして、その先には、個人と企業の新しい関係性が浮かび上がると思う。雇用主と非雇用主という関係、「働く」という概念が変わっていくのではないでしょうか。

 

ーーでは、今回の「#就活の真実」も大きなキャンペーンの一つのステップに過ぎないということですね。

「今の就活は前時代的だ」「透明化が必要だ」というのは、ずっと言われてきたことなんです。

言うだけでは変わりません。超各論でもいいから、まずは行動しないと。小さくてもいいから、アクションする。それも、みんなでやる。キレイゴトは誰でも言えます。行動する主語をたくさん作らないと、大きなムーブメントにはならない。

だから、小さな一歩を踏み出してくれた人たちのことを全力で後押しします。エントリーシートや新聞を配るのは小さなアクションだけど、大きなうねりにしたいんです。

どうなるか分からないけれど、アクションを「やめない」ということだけは決めています。