“うがい薬発言”で殺到した客や問い合わせ。ドラッグストア店長の苦悩「満身創痍な状態が続いている」

「間違った情報が発信され、それを鵜呑みにして用途を間違った形で使用されるのが、医療従事者として一番怖いです」と訴えている。

「満身創痍の従業員のケアをどうすればいいのか...」

『ドラッグストア店員の気持ち』というハッシュタグをつけて投稿されたツイート。

大阪府の吉村洋文知事が、新型コロナウイルス感染予防策として「うがい薬」の使用を推奨した影響を懸念した投稿だった。

投稿したのは、石川県金沢市にあるドラッグストアの店長。ハフポスト日本版のメール取材に応じた。

マスク品薄のころに戻ってしまった...

現場にはどんな影響があったのか。この店長によると、記者会見が開かれた8月4日、大勢の客が来店し、うがい薬コーナーに向かった。

それと同時に「イソジンうがい薬はありますか?」「取り寄せ可能ですか?」といった問い合わせが多くなり、電話対応に追われる時間が増えていったという。

その翌日には、開店を待つ客の姿もあり「一時マスクが品薄状態の頃に戻ってしまった感覚を覚えました」と振り返っている。

新型コロナウイルスの感染拡大し始めた2月ごろ、全国的にマスクや消毒用アルコールスプレーなどの買い占めが起きたのは記憶に新しい。

この店長の店舗でも品薄状態が続き、「まだ入らないのか!」と在庫や入荷時期を問い詰める客や電話に対応する日々が続いたという。

「ようやく落ち着きを取り戻しつつあると思った矢先に、今回のイソジンうがい薬の報道があったため、また対応を迫られる日々が続くのか...」

そんな懸念からツイートしたと明かす。

イソジンの件でも、個数制限や3密防止の徹底という物理的な作業に加えて、従業員の心理的負担も増している。この店長の店舗では「レジに居たくない」と感じている従業員もいる。そのため、こまめにレジを交代したり、店長が代わりにレジに立ったりして対応しているという。

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「ポビドンヨード」を含むうがい薬の品切れを知らせるドラッグストアの看板=8月6日、東京都中央区
時事通信社

ドラッグストア店員の気持ち

ここ数日、ドラッグストア店員の気持ちというハッシュタグをつけた投稿が相次いでる。

横柄な客への怒り。こうした事態を招いた情報発信に対する不満。現場で働く人への感謝や同情。ツイートには、現場で働く人たちの苦労が滲み出ている。

この店長は、店舗の利用者に控えてほしいこととして、こう呼びかける。

「入荷の時期が全く分からない状態の中で、『隠しているのではないか?』『早く入荷しろ!』といった電話や店頭での暴言、実際に倉庫までついて来ようとするお客様もいました」

「過度な買い占めがあると、『本当に必要な人に届かない』ことを負担に感じます。 また、周辺住民の方々にも迷惑になる開店前の入口待機も控えていただきたいです」

医療情報の扱いは難しい。不確かな発表や発信が混乱を招き、最悪の場合は命に関わる危険性もある。吉村知事は5日、全国でうがい薬の品切れが相次いだことについて「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言ってない」と釈明している。

WHO Kobe Centreは公式Twitterで「うがい薬の使用で新型コロナウイルスの感染を予防できるという科学的根拠はありません」と否定。

大阪府歯科保険医協会も、吉村知事に対して「不用意な発言は、医療現場と府民に混乱をもたらし、治療にも支障をきたしている」と抗議する声明を発表した

公的機関の発表の信用性や、メディアの報じ方も問われている。

「現場としては、医学的根拠の無い不用意な発言は控えていただきたいです。 メディアも大々的に煽るような報道をするのではなく、しっかりとした医学的根拠に基づいた情報を発信してほしいです。 間違った情報を発信して、それを鵜呑みにして用途を間違った形で使用されるのが、医療従事者として一番怖いです。薬は毒にもなりますので本当に気をつけていただきたいです」

新型コロナの感染拡大以降、ドラッグストア店員や医療に携わるスタッフが「身体的・精神的に満身創痍な状態が続いている」とも訴える。

続けて、現場で働く人たちへの理解と配慮を呼びかけた。

「理不尽な罵詈雑言などを受けてしまうとモチベーションが本当に下がってしまいます。実際に、うつ病になり辞職してしまった同僚もいます。 ドラッグストア・医療従事の現状を知ってもらいたいです。どうか温和な対応をお願いいたします」