春日部市議「LGBTへの差別は存在しない」「左翼の作戦」発言に波紋

9月には、東京都足立区議の「日本中がLGBTになってしまうと足立区や日本が滅んでしまう」と発言し批判を浴びた。性的少数者に対する政治家の差別発言が繰り返されている
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請願に対して反対意見を述べる春日部市の井上英治議員
春日部市議会の録画動画

埼玉県春日部市の井上英治市議(無所属)が9月議会で、同性カップルの関係を公的に認める「パートナーシップ制度」の創設などを求める請願に対し、「春日部市にLGBTに対する差別がないことは明らか」「左翼の作戦」などと主張した発言をめぐり、波紋が広がっている。

 

どんな発言だった?

請願は、「パートナーシップ制度」の導入や、教育や福祉などの行政活動で、性自認や性的指向に関する正しい理解を広める施策を講ずることを求める内容。春日部市議会9月定例会に提出され、賛成多数で採択された。

井上市議は9月15日の一般質問で、「埼玉県や春日部市はLGBTに関するいじめ相談が過去5年間でゼロ」と言及し、「春日部で差別は起きていないのに、そんな時に小学生にレズビアンだとかゲイだとか教える必要あるんですか。学校は分数とか漢字とかやるべきこといっぱいあるんじゃないですか。LGBTなんかやる必要は全くない」と主張した。

さらに、パートナーシップ制度については「公正証書を作って提出すれば問題は解決する。何もいまさら実害のない春日部でLGBT条例や条例のための規則や要綱を作る必要は全くない」と述べた。また、同制度の創設を求める請願提出の動きを「左翼の作戦」とも表現した。

定例会最終日の18日に請願の採決を取る際、井上市議は反対意見として次のように述べた。

「この請願は差別を解消してほしいと言いながらも、現在ある例えば教育委員会のいじめ相談窓口や法務局の人権相談制度を活用もせず、市内に実際には存在しない差別があると言っています。入院同意を断られるとか、現行の公正証書で解決できる事柄をあたかも大問題かのように掲げ、そのための施策、制度制定を求めています」

「春日部市には(LGBTに対する差別は)存在しないことが明らかになっています。請願の理由は存在していないのです」

「日本の法律制度は同性カップルよりも男女間の婚姻を優遇するのは出産、子育てを考えれば当然のことという認識が国民に浸透している証拠」

 

 「差別がないのは明らか」か

「LGBTに関するいじめ相談がない」ことと「差別が存在しない」ことはイコールではない。
性的少数者へのいじめや差別の問題はこれまで数々の調査からも明らかだ。いじめを経験したり自殺を考えたりする性的少数者も多い。就職や結婚などのライフステージで生きづらさを抱えることも少なくない。
認定NPO法人ReBitが、就職活動を経験したLGBTを対象に行った調査では、4割の当事者が就活の選考時、性自認や性的指向を理由に困難やハラスメントを経験したと回答している

井上市議の発言の中で、「入院同意を断られるとか、現行の公正証書で解決できる事柄をあたかも大問題かのように取り上げて」とあった。だが、実際には同性パートナーや、パートナーの子どもとの関係性を証明する方法がなく、パートナーが血縁関係のない子どもの入院手続きをしようとした際に断られるといった問題も起こっている。異性間であれば婚姻関係を結ぶことで問題にならないことが、同性間の場合のみ費用や手間のかかる公正証書の作成が必要となる不合理が生じているのが現状だ。

 

「悩む当事者を攻撃」と抗議声明も

請願を提出した「レインボーさいたまの会」は公式サイトに抗議声明を掲載。請願の狙いについて「比較的容易に実施できるパートナーシップ制度が、地域社会の意識変革に効果が大きいことから、これを旗印としてまず実施し、広範なLGBT困難の解消や社会へのインクルージョンを目指す政策を春日部市に始めてもらうこと」だと主張した。

さらに「公正証書を作って提出すれば問題は解決する」との井上市議の発言について、「公正証書を利用すれば、同性カップルは契約として権利保障をできる。しかし公的相談の結果で態度意識を改めるのは一部の人々に過ぎず、公正証書では社会の広範な意識を変える事にはならない」と反論している。

同会は抗議声明の中で、井上市議の発言が「日頃周囲との関係に悩む多くの当事者を、さらに攻撃し自己肯定感を傷つけるものである」として、撤回を求めている。

性的少数者に対する政治家の問題発言は相次いでいる。東京都足立区議会の自民党議員が9月、少子化問題に関連して「日本中がLGBTになってしまうと足立区や日本が滅んでしまう」と発言し、批判を浴びた。区議はその後、「認識の甘さによりたくさんの方々の心を傷つけた」として謝罪し、撤回した