値上げラッシュ、今後どうなる?エコノミストに聞く2022年の日本経済のゆくえ

第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生さんは、緊迫するウクライナ情勢も踏まえ、「コストの上昇が原因で起きる物価上昇は続くだろう」と指摘しています。
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電気料金、小麦粉、カップヌードル、ミスタードーナツ、うまい棒…。

私たちの生活に身近なものの“値上げラッシュ”が、2022年も止まらない。

なぜ値上げが相次いでいるのか。主な理由は、原材料の価格高騰と、原油価格の高騰による物流費や包装資材の価格上昇だ。

一方、私たちの賃金はどうか。厚生労働省が2月8日に発表した2021年12月分の毎月勤労統計調査(速報、事業所規模5人以上)によると、物価変動の影響を差し引いた実質賃金は前年同月比で2.2%減少。4ヶ月連続の減少となった。

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実質賃金の動き(厚生労働省の発表資料を元に作成)
ハフポスト日本版

給料が上がらず、身近なものの値上げが続く今、私たちはどうすればいいのか。第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生さんに聞いた、これからの日本経済の展望と私たちにできること。2回にわたって伝える。

これからの日本経済はどうなる?「“アフターコロナ”はインフレ」

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第一生命経済研究所の首席エコノミスト熊野英生さん
提供写真

ーー値上げはやはり今後も続くのでしょうか?見通しをお伺いしたいです

大きな視点から言うと、「アフターコロナ」の一つの切り口は、新型コロナが収束しても値上げが止まらない「インフレ」だと思います。

物価は上昇し続けるので、どうしても企業は価格転嫁していかないと生き残れない。「ビフォーコロナ」は、値上げが消費者に受け入れられなかったので、どうしても価格ではなく量で何とか稼ぐという状況でした。しかし量で稼ごうとすると、おのずと企業の収益構造としては人件費などの固定費に対して削減プレッシャーがかかるんです。

「アフターコロナ」はおそらく、原材料費などのコストの上昇が続きます。そうすると、商品を差別化でき、値上げしても売り上げが下がらないようにできる企業と、そうでない企業に二分されていくと思います。

海外では成長とともに需要拡大を要因とした物価上昇「ディマンドプルインフレ」が起きるでしょうが、日本では原材費などコストの上昇が原因で起きる物価上昇「コストプッシュインフレ」が続くでしょう。

「ディマンドプル」と「コストプッシュ」は概念上は分かれていますが、「コストプッシュ」が続くと、企業は価格転嫁をしないと生きていけなくなります。そうすると、値上げをしたことによって利益が増える企業も出てくるので、だんだん「コストプッシュ」から「ディマンドブル」に転換していくでしょう。

ーーただ、実感としては賃上げも進まず、景気がよくないのに物価上昇が進む「スタグフレーション」に陥ってしまうのではないかという懸念があります

「コストプッシュ」というのは、仕入れや製造にかかった費用である「売上原価」が増えることです。そこで値上げをすると、売上は増えます。それを維持することによって、粗利益率を確保することができます。

値上げをしても同じようにモノが売れる企業であれば、値上げをすることによって、高利益経営に転換することができるのです。

しかし、商品やサービスの競争力が低い企業は値上げすることができず、淘汰が進むと思います。

これは「格差」と捉えられるかもしれませんが、長い目で見ると「構造変化」とも言えます。利益率を厚くすることができた、競争力のある企業が生き残っていくという、経済の新陳代謝が進むということなのです。

実感としては「スタグフレーション」のリスクを感じるかもしれませんが、事後的には利益を確保した企業が出てきて、スタグフレーションというよりはインフレです。つまり、コストプッシュインフレからディマンドプルインフレが起き、経済は成長していくでしょう。

「痛み止め」だけではなく、中長期的な体力強化を

ーーとはいえ、エネルギー価格の高騰など輸入品の価格上昇に伴う値上げへの対策も政府には求められるのではないでしょうか?

減税や給付金などの「痛み止め」だけで病気を治そうと思っても無理ですよね。人と同じように、痛み止めを打ちつつも、日頃から体力を強化し、免疫力をつけることが大切です。

減税などで本質的に値上げの効果を吸収することは無理で、やはり賃上げの方が重要です。来年、再来年以降の賃上げを達成するためには企業の収益を増やさないといけませんし、従業員も生産性を上げないといけません。政府には短期の痛み止め政策だけではなく、中長期的な視点が大切です。

海外展開している日本企業の中には、国内では価格転嫁しにくいので海外向け商品ではしているところもあると聞きます。そうした輸出先での値上げを通じて、賃上げをしていくことも成長戦略の一つだと思います。

ーー昨年から値上げが相次いでいますが、日本銀行が目標に掲げ続けている「物価上昇率2%」を達成できないのはどうしてなのでしょうか?

やはり、賃金が上がっていないのが一つの理由です。輸入物価指数は上昇しているのに、国内物価が上がらないのはおかしいのです。

物価が上がらないように引き留めているのは賃金なのです。所得が上がらないから、価格転嫁が進まないのです。

海外では、値上げをしたら賃金も上がり、賃金が上がるから、消費者もものを買うという好循環が成り立っていますが、日本企業では売上が少ししか増えなくても賃金を上げなければ、利益を捻出することができるというような発想があるのです。

ただ、業種別に見ると製造業では価格転嫁を進め、グローバル展開している企業では海外での値上げを許容しています。難しいのは国内消費者向けの商品・サービスでしょう。

携帯料金が値下げされたことも影響していますが、消費者物価指数を見るとサービス系はマイナスとなっています。

スイスの大卒の初任給は今、日本円で年収900万円ほどです。2000年代、日本とスイスは、スイスフラン高と円高に苦しんでいました。しかし日本は日銀の金融緩和に依存し、通貨安によって生き残ろうとしました。一方のスイスは、苦しい中でも値上げをして、高付加価値経営を目指しました。

まさにスイスがやったように、日本もこれから構造転換をしていくべきだと考えています。

「起きうること」を想定して備えよう

ーー新型コロナは世界共通の課題ですが、ウクライナ情勢も緊迫しています。今後の世界経済の見通しはどう分析していますか?

新型コロナに関しては、今年の春にかけて日本を含めて海外でも収束に向かうのではないかと思います。

ただ、もしそうなってもバラ色の世界が来るわけではないと思います。たとえば、日本企業の生産拠点があるアジアの国の中には、ワクチンが行き届いていないなどの理由で、新型コロナの収束に時間がかかる可能性があります。工場が停止すると生産量が回復せず、インフレが続く要因になります。

海外でもワクチン接種で飛躍できる国とできない国の差が生まれるため、新しい摩擦を巻き起こしながら世界経済は成長していくことになるでしょう。

ウクライナ情勢や台湾情勢など、どう動くか見通せない問題もあります。緊迫するウクライナ情勢により想定される日本経済への打撃は、まず原油価格の高騰です。また、過剰な物価上昇リスクも警戒されます。「起こらないこと」を予想するのではなく、「起きうること」を想定し、起きても大丈夫なように備えていくことが重要だと思います。

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