東シナ海タンカー事故によるオイル漂着調査

海岸調査活動とWWFの今後の対応
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Handout . / Reuters

2018年1月に、東シナ海でイランのタンカーが沈没する事故が発生。このタンカーのものと考えられる油類の流出は、国内外のメディアでも大きく報道されました。WWFではこの事故を受け、国に対し早急な対策を講じるよう、体制の整備や生態系への影響調査を継続して行なうことなどを求めた要望書を提出。一方で、油の漂着が確認され、その汚染による影響を受ける可能性のある離島地域での活動として、奄美群島・徳之島での調査・監視活動へ支援を行なっています。現時点までに届いている現地の調査状況を報告します。

徳之島で行なわれるオイル漂着状況の調査と除去作業

2018年1月6日、上海の東約300kmの海上で、パナマ船籍のイランのタンカー「サンチ号」が、香港籍の貨物船と衝突、火災を発生する事件が発生しました。 サンチ号はその後、炎上しながら漂流し、日本の排他的経済水域に侵入。1月14日に奄美大島の西方約300kmの海域で沈没しました。 この事故により、タンカーに積まれていた積荷のコンデンセートや、燃料用の重油が流出。 コンデンセートについては毒性ある一方で揮発性が非常に強いため、海面を長時間漂い、漂着する可能性は高くないと考えられていました。 一方、簡単に揮発、分解しないのが重油です。これが浮遊し、また漂着することで、沿岸、海上の野生生物への影響が懸念されました。 その後、実際に奄美群島の海岸では、サンチ号のものと考えられる油類が多数漂着。地域でも大きな問題になりました。 この事態を受け、南西諸島の中でも特に貴重な自然が残る場所として、奄美群島の環境保全に取り組むWWFジャパンでは、政府および関係省庁に対し、本件およびこれに類した問題が生じた場合の緊急対応について提言書を提出。 さらに2018年4月より、奄美群島の徳之島で自然環境の調査や保全活動に実績のあるNPO法人「徳之島虹の会」が実施する、海岸での漂着状況調査の活動に対し、支援を開始しました。 この調査活動では、徳之島の周囲6地点を定点観測の海岸として、2名一組でこれまでに合計6回の調査を実施。 確認されたオイル塊や野生生物の死骸などの地点を、GPS機器を使い詳細な座標を記録しながら、得られた情報を、役場や環境省などと随時共有し、その除去作業に活かされてきました。 なお、これまでの活動の経緯から発生当時と比較して、海岸で確認されるオイル成分やそれがこびり付いた漂着物などはかなり減少し、除去作業の成果が表れてきていることが分かってきました。

地元での漂着物対策と継続する課題

事故後、油類の漂着が始まると、徳之島では自治体や住民ボランティアによる油類の一斉除去作業が行なわれ、その後も天城町、徳之島町、伊仙町の3町が協力して、除去する事業を継続。 毎日、およそ30名の委託を受けたスタッフが、沿岸の漂着物の回収や、高圧洗浄機を使った除去を行うなど、広範囲な島全域の海岸で、地道な活動を続けてきました。 調査によって明らかになった漂着した油類の減少は、こうした取り組みの成果だと考えられます。 しかし、海を漂流する油類は、波にのって岸に打ち寄せられるだけでなく、沖合のサンゴ礁のリーフに付着したり、付近の海底に沈み、堆積することがあります。 今回もそうした例があるとのことですが、こういった油類は除去が難しく、また台風などの強い波を受けると、再度浮上したり、漂着する可能性があります。事故後にイギリスから緊急に現地を訪れた、船舶からのオイル流出対策の専門家によると、自然分解するなどで、ほとんど影響がなくなるまでには2、3年を要するだろう、とのことで、地元の方々が安心して利用できる元の海岸に戻るには、まだ相当の時間がかかりそうです。

地元団体による活動のこれまでの成果

この他にも、WWFが支援するNPO法人「徳之島虹の会」の調査活動により、これまでに確認できたことがいつくかありました。 まず漂着する油分の多くが、島の北および北西側に多いこと。 これは、はるか沖合でのタンカー事故の現場から流出した油が、沿岸の手前を流れる黒潮によって一度流され、その後、奄美大島やトカラ列島方面の北側から流れ着いたためだと考えられます。 また毎年、徳之島では30頭前後のウミガメが上陸しているそうですが、2018年はこれまでのところほとんど上陸が確認されていない事も分かりました。 関係性が立証されたわけではありませんが、徳之島周辺を漂い、また沿岸に流れ着いた油類の影響の可能性も疑われます。 なお、「徳之島虹の会」のメンバーはウミガメの調査も実施しており、今後もウミガメの上陸調査を継続されるとのこと。産卵期に当たる夏のシーズンに向けて、ウミガメが例年同様に上陸することが望まれます。 なお幸いなことに、これまでの海岸での観測では、渡り鳥やウミガメ類などの生き物の死骸が複数見つかったものの、油にまみれたことが原因で死亡したと思われる被害はなかったとのことです。

海岸調査活動とWWFの今後の対応

漂着した油を除去する作業の過程で、徳之島の海岸では漂着ゴミの撤去も進み、海岸の景観も改善されてきています。 しかし、現地の調査ではまだ海岸のあちこちに、重油のシミがこびり付いた岩礁や、固形化した油の破片(オイルボール)が確認されました。 これらは気温が上がる昼過ぎになるとやわらかく溶けだし、指で触れると、中から粘度のある油分が滲みだし、鼻をつく独特のにおいがします。 また指や靴についたこうした油は、石鹸を使ってもなかなか洗い流すことができません。 徳之島をはじめ、奄美大島や周辺の島々は、地元の観光産業にとって重要な夏のシーズンをこれから迎えますが、観光の被害や、海岸の生物への影響は、引き続き懸念されます。 WWFでは現在、国会議員を通じて、このようなタンカー事故発生時における、国や専門機関が適切かつ効率的に対応を図る体制を整えるとともに、地域活動の支援措置を求めています。 そして現在支援している「徳之島虹の会」の調査活動については、夏ごろを目処に結果を取りまとめ、行政や地元紙を通じて住民の方々にも報告する予定です。またこちらのWWFジャパンのウェブサイトでも、この報告内容を発表する予定です。

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