ぶつかって前歯が抜けた!どうしよう…そんなときは牛乳を用意して。歯科医に聞いた対処法

運が良ければくっつけられるかも。欠けた歯は絶対に洗わないで!
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写真はイメージです
artisteer via Getty Images

顔面を打ち付けて、前歯が根元から抜けてしまった。そんなときの意外と知られていない対処法が、Twitter上で話題を呼んでいる。

歯科医の男性が6月9日、部活中に顔を打ち付け、前歯が抜けてしまった患者さんの診察に当たった際の状況をツイート。

来院した患者さんは、抜けた前歯をきれいに洗ってしまっていたといい「抜けた歯は洗っちゃダメ、そのまま牛乳につけて持ってきて」と呼び掛けた。

今日、部活中に顔面強打して前歯が抜けたって子が来院したんだけど、抜けた歯を持ってきてくれたのはいいけど綺麗にピカピカに洗ってあった......

抜けた歯は洗っちゃダメ、そのまま牛乳につけて持ってきてくれたら再植えできる可能性あるから

— 新生姜 (@shinshouga) 2018年6月9日

牛乳につけて歯医者さんに持っていけば、再び歯をくっつけられる可能性がある、というこの投稿は6月13日現在、6万6000リツイートを超える反響を呼んでいる。

「知らなかった」「牛乳?!」という驚きのコメントが続くなか、「なぜ牛乳?」「ヨーグルトじゃダメ?」といった疑問の声や、ほかの投稿者から「牛乳がなければ口の中に入れててもいい」「30分以内がリミット」などのアドバイスが入った。

対処法、日本歯科医師会に聞いてみた

筆者も事故で2017年12月に、前歯など3本を失った身。意識がなかったので治療中の記憶もないが、起きたときにはカピカピになった前歯を渡され、「もう戻らないのか...」と、人生のどん底のような悲しい気持ちになった。

ボールに当たってしまったり、転んで顔を打ってしまったり、まさかの場面は結構ある。

突然の事故で前歯が折れてしまったら、周囲や自分は、どう対処すればいいのか。日本歯科医師会の学術課に聞いた。

ーー前歯が欠けたり抜けたりしたとき、まずは牛乳につける、というのは一般的な方法なのですか。

教科書への記載、国家試験にも出題されているのでかなり一般的です。

基本的な対応として、歯が抜けたり、根元近くから欠けたりした場合は、「歯牙保存液」または「生理食塩水」、「牛乳」に浸漬します。

緊急対応としては、最も日常的に身近にあるものとして「牛乳」が良いと思われます。牛乳がないときは、患者の舌下部に静かに置いて、来院してもらいます。

歯科的には、「歯牙保存液」(ティースキーパー「ネオ」)が最も推奨されます。小学校や中学校の保健室に常備されているところもあるようです。

ーー牛乳につける理由はなんですか。

浸透圧だけでなく、pHも体液に近似しているからです。

ーーこの場合、温度は常温または、体温に近いほうがいいのでしょうか。

常温が望まれますが、脱落歯に付着した微生物の繁殖を抑制するため、気温が高い場合は、保冷剤などで冷やした状態が良いと考えます。

ーー長い時間は持たないと思いますが、最大で何分ほど持ちますでしょうか。

30分以内が望まれます。衛生上というよりも、早ければ早いほど再植できる可能性が高まります。歯根膜(歯を支えている骨と、歯根の間にある薄い膜)の状態によりますが、統計的には60分くらいまでですと予後がいいようです。

ーーこれ以外でも、どのような対応が望ましいのでしょうか。

ポイントは脱落歯の歯根膜を乾燥させないこと。再植までの所用時間です。

ーー歯がばらばらに割れてしまった場合など、再植できない場合はありますか。

牛乳に浸けているからOKということ全くありません。歯根膜のダメージの程度で予後が左右されます。

脱落歯の根が破折してしまった場合、特にタテに割れたときは再植できません。また、歯根膜の乾燥や、感染がある場合は必ずその歯根膜を除去しなければならないため、再植しても正常な経過をたどらず、骨性癒着や歯根の吸収を起こす可能性が高くなります。

要点をまとめると...

1.歯根にはできるだけ触らない。

2.水では洗わない(浸透圧の関係で歯や歯根膜の細胞が傷害されてしまう)。

3.決して消毒薬などには浸けない(歯や歯根膜の細胞が死んでしまう)。

4.砂など汚れがついていても、そのまま保存液や牛乳などに浸ける。

5.根元からきれいに抜けたのではなく、歯が欠けた場合でも、かけらが大きければ使える場合もあるため、欠けた歯も保存液や牛乳などに浸けて持って行く。

6.牛乳もない場合、口腔内の舌下部で保持する。またはビニール袋にそのまま入れるか、手のひらでやさしく持って、歯科医院へ急いで受診。歯が乾燥してしまうので、ティッシュペーパーにはくるまない。

歯の再植の鍵となる歯根膜は乾燥に弱く、保存液や牛乳などに浸けてない場合での生存は30分が限界とされている。できるだけ早く処置を行うことが、再植成功の条件だ。

また、再植や歯の保存が困難になる場合の要因は、次の3点。

1.長時間乾燥状態で放置されたり、歯根を洗ったりして歯根膜の機能が喪失してしまった場合。

歯が根元から抜けた場合に、再植し良好な結果を得るためには、歯根膜が傷害をうけずに生存していることが最も大切。前述のように30分が目安。長時間乾燥状態にあった歯を、その後牛乳などにつけても無効になってしまう。

2.歯根が破折したり亀裂が入っている場合。

歯冠(歯肉の外に出てる白い歯の部分)が破折していても、歯根が形態的に存在すれば歯を残せることは多いが、歯根の形態が壊れている場合は予後不良となる可能性が高い。

3.歯が粉々になってしまった場合。

それでも、可能なかぎりのかけらを集め、牛乳などに浸けて歯科医院へ持参し、歯科医師の判断を仰ぐことが大切。