メキシコとの「壁」で「不法移民」を撲滅することはできない

米大統領のトランプ氏は、選挙中に声高に叫んでいた「メキシコとの壁」建設に着手するという。しかし実際には、そのような壁で「不法移民」を撲滅することはできない。

米大統領のトランプ氏は、選挙中に声高に叫んでいた「メキシコとの壁」建設に着手するという。しかし実際には、そのような壁では「不法移民」を完全に撲滅することはできない。

「壁」建設に固執する背景には、「不法移民はその多くがメキシコから歩いて米国に不法入国している」というイメージがあることが伺われるが、それは必ずしも事実に基づかないイメージである。

いわゆる「不法移民」の60%は確かに不法に入国した者と推測されているが、残りの40%は合法的に入国した後に超過滞在(いわゆる「オーバーステイ」)した者である。しかも前者の割合は国境管理の強化に伴い最近さらに減ってきているという。従って「壁」は、仮に不法入国者全員がメキシコから陸路で来たと仮定しても、約半数程度の新規「不法移民」しか防ぐことができない。

また実際、不法移民の全員がメキシコ経由で来ている訳ではない。1100万人いると見做されている「不法移民」のうち、確かに約半数の550万人程度はメキシコ生まれと推察されているが、残りの550万人は、他の中南米諸国、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、カリブ諸国等の出身とされている。 当然メキシコとの「壁」では、空路や海路経由で来る人たちの入国を防ぐことはできない。

よって「壁建設」は、「不法移民」対策に全力を尽くしているという政治的パフォーマンスにはなるだろうが、「不法移民」の新規入国を実際に防止する上での実質的効果は、上記の事実からどんなに多く見積もっても半分程度となるだろう。

更に、壁建設はメキシコから陸路で新規に不法入国を試みる者に対するだけで、既に米国内にいる1100万人の「不法滞在者」については一切効果がない。そしてそれらの不法滞在者を一掃することが容易ではないことは、以前のブログで述べた。

「壁建設」にかかる費用は(既に建設済みの部分にかかったコストを除いても)150億ドル~250億ドル(約1兆7000億円~2兆8300億円)、毎年かかる維持費が7億ドル(約800億円)と見積もられている

半分以下の実質的効果しか期待できない政治パフォーマンスに費やす税金としては、あまりにも巨額ではないだろうか。今後しばらく米政権の施策に、従来の合理性やロジックが通じなくなる単なる一例なのかもしれないが。