藤井浩人美濃加茂市長事件 弁護人冒頭陳述

弁護人が、証拠により証明しようとする事実は以下のとおりである。
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時事通信社

弁護人が、証拠により証明しようとする事実は以下のとおりである。

第1 本件公訴事実の不存在に関する事実

1 賄賂授受の現場には同席者が存在し、授受を目撃していない

被告人の知人で、中林を被告人に紹介したBは、本件各公訴事実記載の会食にすべて同席していたこと、その場で席を外しておらず、現金の授受は見ていないことを一貫して供述しており、席を外していない理由についても極めて合理的な説明を行っている。

同人の供述を前提にすると、平成25年4月2日昼のガスト美濃加茂店及び25日夜の山家住吉店での会食の際に被告人に現金を渡した事実は存在し得ないものである。

2 被告人には自由に使える現金があり、金員受領の動機がない

検察官は「同時期の被告人の資金繰りが楽ではなかったこと」ことを、被告人が本件各公訴事実の賄賂を受け取ったことの間接事実として主張しているが、以下に述べるように、被告人の手元には、自由に使える多額の現金があったものであり、検察官の主張は、被告人の金員受領の動機を裏付けるものではなく、また、この時期に被告人が塾の経費支払の銀行口座に現金入金した事実があったとしても、その直前に予定外の現金収入があったことの裏付けとなるものではない。

被告人は、数年前、自動車を購入した際、高校時代に通っていた塾の塾長から100万円程度の借金をしたところ、それを同塾の講師のAが肩代わりしたことから、同Aに60万円程度の借入金があった。

Aは、被告人の市議会議員の給与が安いことを知っていたので、その貸付金の返済は急がないと被告人に伝えていたが、被告人は、返済のための金銭を少しずつ貯めていた。

市議になって1年程度たったころには、その返済のための現金が30万~40万円程度貯まったので、そのころから、被告人は、ときおり借入金の一部を返済しようとしてAに電話やメールで連絡をとっていた。

平成25年春にもその旨を連絡したが、Aから「全額貯まってからでいい」と言われたので、その金はそのまま手元に置いておき、市長選挙に立候補した際の出費に一部流用するなどした。そして、市長に就任した後、給与収入も増えたことから返済資金を貯めることができ、平成26年4月に、Aに全額を返済した。

また、被告人の自宅近くに住む伯父は、被告人が市議会議員に就任した後、急に金が必要になった際に持ち出して使えるように、同人の自宅の冷蔵庫に、被告人が自由に持ち出せるよう20万円~30万円の現金を入れておき、そのことを被告人に伝えていた。被告人は、実際にその金を持ち出すことはなかったが、現金が必要な時はいつでも持ち出して借用することが可能であった。

しかも、毎年、年度当初は、塾の入学金・年会費が入ることから、被告人が使うことができる現金が、他の時期と比較して多かったものである。

これらの事実から、平成25年4月頃、被告人の手元には、緊急に出費する必要があれば、それに充てることができる現金が手元に30~40万円あったことに加え、伯父が自宅に用意してくれていた現金を、必要があればいつでも持ち出して使うことが可能だったこと、年度当初で現金収入が多かったことなどから、被告人の手元には自由に使える多額の現金があったものである。

3 市議会での被告人の質疑に対する市当局の答弁には何ら特異性はない

検察官は、市議会議員が議会の質疑で市当局に何らかの対応を求める発言をすることが、再質問をされることを避けようとする市当局の対応に大きな影響を与えることを前提に、平成25年3月14日の定例市議会での質疑で、当時市議会議員であった被告人が災害対策に関して新技術の導入の検討を求めたことで、同市の関係部局が浄水プラントの導入を検討せざるを得なくなったかのように主張し、被告人の議会での質疑を、中林から被告人への市議会議員の職務に関する請託に基づく行為のように位置付けている。

しかし、美濃加茂市において、市議会議員が一般質問や質疑を行った場合、答弁案の作成や議会での答弁にあたって、関係部署は、美濃加茂市民の代表である議員からの質問であることを十分認識し、真摯に対応するのは当然であるが、議会会期中になされる一般質問や質疑は毎回かなりの数であり、単に、質問がなされたからと言って、これがただちに市政の運営に反映されるものではなく、提案された事業などを実現することを担保するものでもない。また、発言通告書は、議会での質疑予定日のほんの数日前に提出されることが多く、質疑への答弁自体は関係部署の役割であり、市長まで上がっているものではないので、具体的答弁を行う関係部署としても、多くは「研究します。」とか「検討します。」といった答弁にならざるを得ない。

当該質疑について、その後、議会で再質問をされることも多いが、それは、制度上当然に予想されるものであり、関係部署としても、「再質問の可能性」を過度に負担として捉えているわけではない。

上記のような美濃加茂市における市議会での質疑への市の関係部局の一般的対応を踏まえれば、被告人の質疑に対する市当局の答弁が何ら特異なものではないことは明らかであり、被告人の市議会での発言を、中林の請託に基づく市議会議員の職務行為と解する余地はない。

第2 贈賄者供述の信用性の欠如~闇取引の疑い等

1 贈賄者に係る起訴されざる重大な犯罪の嫌疑

中林は、公文書等偽造・同行使、詐欺の事実で勾留中に贈賄の自白を行ったものである。中林が行った融資詐欺は、関係機関の代表者印等を偽造、受注証明書、契約書等の公文書、私文書を偽造して、多くの地方自治体、医療機関等から浄水装置を受注し、その代金が入金予定であるように装い、送金元の名義を偽って受注先から自社の口座に代金が入金されたように仮装するなどして、銀行、信用金庫など10の金融機関から、借り換え分も含め総額3億7850万円を騙取していたものであり、およそ1億4000万円が未返済となっているものである。また、その融資の多くがP信用保証協会、Q信用保証協会等の信用保証付融資であった。

なお、上記3億7850万円というのは、中林が供述調書で事実を概括的に認めている融資詐欺の金額であり、それ以外に、公訴事実第2記載の被告人、中林、Bの3人の会食の直前に、中林が、美濃加茂市からの雨水浄化設備を受注したように偽って「Y」と称する会社経由でZ信用金庫から受けた3000万円が含まれておらず、同融資を含めれば、融資詐欺の総額は4億円を超え、未返済額も1億7000万円に上るものと考えられる。

しかも、上記の融資詐欺には、美濃加茂市の小中学校への雨水浄化設備の設置に関して、真実は、中林が、同市小中学校への設置に向けて営業活動を行っているに過ぎないのに、既に、美濃加茂市において設置が決定され、工事が発注されているように偽って、X銀行今池支店から4000万円(平成25年6月21日に2300万円、8月16日に1700万円)の融資を受けた事件が含まれている。

2 当該嫌疑に係る捜査経緯の不自然さ等

中林は、平成26年2月6日に、1000万円の融資詐欺で逮捕された後、3月5日に、1100万円の融資詐欺で再逮捕されているが、逮捕当日及び翌日に短い調書が作成された後は、同月7日から14日までの8日間は、供述調書が全く作成されておらず、勾留満期の15日から勾留延長後の20日までの間に警察官調書、21日には検察官調書が作成されている。

そして、26日に起訴された後、28日に、3億7850万円の融資詐欺全体を概括的に認める供述調書が作成され、それが詐欺関係の供述調書の最後となっている。

一方、中林は、同月16日と17日に、中林が被告人に対する20万円の賄賂を渡したことを認める上申書を作成し、27日には、平成25年4月上旬に10万円、同月下旬に20万円の賄賂を被告人に渡した事実を具体的に述べる警察官調書が作成されている。

すなわち、中林が総額約4億円の融資詐欺について概括的に自白をしているにもかかわらず、その捜査は、そのうち僅か2100万円の被害額の融資詐欺だけで打ち切られ、そのような捜査の終結とほぼ同時期に中林が本件贈賄の自白を行ったものである。融資詐欺捜査の打ち切りが贈賄自白の重要な動機となったことが合理的に推認できる。

しかも、中林が市議会議員であった被告人に接近して美濃加茂市に雨水浄化設備の導入を働きかけていた事実と、既に設置が決まったかのような偽造書類を提出して融資を受けたこととの間には何らかの関連があるはずであり、贈賄に至る経緯の中で融資に関する話が出てくるのが当然であるにもかかわらず、一切そのような話が出てこないのは明らかに不自然であり、そこには、融資詐欺に関連する事実関係を本件の調書から排除しようとする取調官側の意図が窺われる。

3 中林の贈賄供述の決定的な欠陥

上記のような不合理な捜査経緯によって引き出された中林の贈賄自白は、その内容においても決定的な欠陥がある。

すなわち、上記3月27日の自白調書では、公訴事実第1のガスト美濃加茂店での会食は中林と被告人の二人だけで、Bは同席していなかった旨供述していたが、その後、4月下旬に至り、同店の伝票により、利用人数が2人ではなく3人であったことが判明し、中林の供述が客観的証拠と符合しないことが明らかになった。

しかも、中林は、当初から、「賄賂を渡すのはBには知られたくなかった」と述べていたのであり、賄賂を渡すための同会食に、わざわざBを同席させた理由に加え、Bに見られないように被告人に現金を渡した具体的状況の説明が必要となった。

その時点で、なぜか、中林の取調べは警察官から検察官の手に移り、5月1日に、詳細な検察官調書が作成されるのであるが、ここでは、3月27日の警察官調書での自白内容には触れられておらず、供述の変遷の理由も全く述べていない。

当初の自白では、同会食は、被告人に賄賂を渡すことが目的で、渡す資料は「意味のないもの」だったと述べていたのが、同席者のBに被告人に資料を渡すと説明したと述べたこととの関係で、被告人に渡す資料が「意味のあるもの」でなければならなくなった。その「意味のある資料」が何であるのかについての中林の供述はなく、それが特定されたのは、本件起訴の3日前の7月12日の検察官調書であった。

被告人に現金を渡すのをBに見られないようしたことについての中林の説明も、上記5月1日の検察官調書では、「Bさんが席を外したとき、私は、藤井さんに対し、準備してきた賄賂のお金を差し上げました。」としか記載されておらず、中林が本件で逮捕された後も、その点について具体的に述べる供述はなかった。

結局、7月12日付けの検察官調書で、その点について、「Bが自分と被告人の分の飲み物をドリンクバーに取りに行って席を外した際に、被告人に現金を渡した」と具体的に特定された。

同調書では、被告人に現金を渡した方法について、「被告人とテーブルをはさんで向かい合って座っていた中林が、現金10万円を入れた封筒をテーブルの上に出して、封筒から資料を挟んだクリアファイルを半分くらい引き出し、資料だけが見える表側を見せ、次に、封筒ごと裏返して、資料の後ろ側に挟んだ現金10万円を入れた銀行の封筒を見せたうえで、クリアファイルを封筒の中に戻し、被告人に小声で『これ少ないですけど、足しにしてください』と言いながら現金10万円を入れた封筒を差し出し、被告人が『すみません。助かります』と言って封筒を受け取った。」とされているが、中林、被告人らが着席していたテーブルとドリンクバーは僅か3メートル程度しか離れておらず、仮にBが席を立ったとしても、振り向けば中林と被告人とのやり取りが容易に見える位置だったのであり、Bがドリンクバーに立っている間に、上記のような方法で被告人に現金を渡すことは不可能である。

しかし、そのような現場の状況については、起訴までに実況見分すら行われておらず、公判前整理手続が開始された後に、弁護人の指摘を受けてようやく実況見分が行われ、上記のような現場の状況が初めて客観的に証拠化され、中林供述が現場の状況と整合しないことが明らかになったものである。

4 Bに対する警察・検察の取調経緯

前記のように、その供述内容が本件贈収賄の嫌疑自体に極めて重大な影響を与えるBに対して、警察は、平成26年6月24日午前7時に任意同行を求め愛知県警本部で取調べを開始した。それは、警察が被告人に任意同行を求めて本件の任意取調べを開始したのとほぼ同時刻であった。

取調べ警察官は、最初に、「会食の場で、中林が藤井に金を渡すところを見たか、その話を、中林か藤井から聞いたか」と質問し、Bが否定すると、「それじゃ、席を外していたので金を渡したことはわからなかった、ということで、取りあえずの調書をとっておく」と言ってあたかも、Bが中林と被告人との金のやり取りを見たかどうかが取調べの主目的であるかのように思わせて、「席を外していたので金を渡したことはわからなかった」旨の供述調書を作成し、Bに署名させた。

そして、その後の取調べは「席を外していたこと、又はその可能性」を明確に認めさせることに集中し、朝から夕方まで長時間にわたって、体調も考慮せず、恫喝的な取調べが行われ、Bは、最後には、持病で痙攣を起こし、意識を喪失するまで追い込まれたが、それでも「席を外していない」との供述を維持した。

一方、検察庁での最初の取調べは6月26日に行われ、「中林が藤井に金を渡したという供述をしていると聞きましたが、私はその場面を見た記憶がありません」という内容に加えて、「仮に、中林が藤井にお金を渡しているとするなら、私がトイレや電話などで席を外した際に渡しているのではないかと思います。」と記載した供述調書が作成され、Bに署名させた。この調書の記載は、「『中林がお金を渡していた』と仮定すれば理屈としてはそういうことになる」という意味であることは明らかだったが、この同調書の「私がトイレや電話などで席を外した際に」との記述は、その後、被告人の保釈請求に対する検察官意見等では「Bが検察官の取調べで席を外したことを認めたことを示す調書として用いられ、本件公判でも同趣旨で証拠請求された。

そして、Bが弁護士による抗議文を提出して警察の取調べを拒否し、取調べ検察官の了解を得てインターネット番組に出演し、「会食の場では席を外していない」旨世の中に明言するようになった後は、一転して、基本的にBの供述するとおりの内容の調書が作成されるようになった。

それ以降の検察官調書では、問答形式で、取調べ当初から一貫して述べている「席を外していない」旨の供述と、6月26日の検察官調書での「私がトイレや電話などで席を外した際に渡しているのではないかと思います。」との記載を対比し両者の違いを指摘することで、この点について被告人に有利な方向に供述を変更したように歪曲して、B供述の信用性を否定しようとしている。

第3 本件贈収賄が警察・検察に作り上げられた犯罪であること

弁護人は、上記の各事実を証拠によって立証することにより、本件贈収賄の嫌疑の根拠とされた中林供述が全く信用できないことだけではなく、本件各公訴事実が、警察、検察によって作り上げられた犯罪であることを明らかにする。

中林の贈賄自白は、約4億円にも上る悪質極まりない融資詐欺の捜査が、ごく一部だけの立件、起訴で終結するのとほぼ同時期に行われたものであり、警察・検察の明示的な約束があったか否かはともかく、中林の贈賄自白が、自らの犯罪の捜査・処理に関する有利な取扱いへの期待に動機づけられてして行われたものであることが強く疑われる。

そのような経過で行われた自白については、慎重な裏付け捜査によって信用性についての吟味を行うのが当然であるが、本件で行われたことは、中林に供述内容を変更させ、新たに明らかになった客観的事実との辻褄を合わせることであった。

しかも、中林の供述に基づいて被告人を逮捕するのであれば、中林の贈賄供述の信用性を判断する上で決定的に重要な、会食の場の同席者のBを事前に取調べて、Bの供述内容を確認し、中林供述と相反するのであれば、両者の供述信用性について徹底した裏付け捜査を行うことが不可欠であった。

ところが、Bに対して、警察が行ったのは、被告人の任意同行とほぼ同時に、被疑者のような扱いで任意取調べを開始し、捜査側の意図を隠したまま「席を外していたので金を渡したことはわからなかった」旨の供述調書に署名させることであった。

そして、その後、席を外した状況等について警察の意に沿う調書をとるため連日、長時間にわたって、恫喝的、虐待的な取調べが行われ、その取調べについて抗議を受け、Bの取調べは検察官の手に移った。

しかし、検察官も、B供述を正面から受け止めようとはせず、当初の取調べでB調書の言葉尻をとらえて、同人が一貫して述べている「席を外していない」との供述を、あたかも被告人に有利に変遷したものであるかのような内容の問答形式のB調書を作成することであった。

本件に関して、警察・検察が行ったのは、融資詐欺の勾留中に中林が行った贈賄自白を何とか維持し、被告人の逮捕、起訴に持ち込むための辻褄合せとして、証拠上の体裁を整えようとすることだけであり、そこには、中林供述が果たして真実なのかという点を慎重に判断しようとする姿勢も、中林の融資詐欺も含めて事案の真相を解明しようとする姿勢も全くなかったと言わざるを得ない。

まさに、本件は、警察・検察によって作り上げられた犯罪なのである。