虚偽と報じても、さらに広まる...トランプ氏のツイートを、メディアはどう扱うべきか

大統領選関連のツイートの4分の1程度はボットによるもの、との研究結果が発表されている。

フェイスブックにあふれたデマニュースが、米大統領選に与えた影響については、大きな議論になってきた。

だがツイッターについても、その影響が指摘されている。

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特に注目を集めているのは、自動応答プログラム「ボット」の存在感だ。大統領選関連のツイートの4分の1程度はボットによるもの、との研究結果が発表されている。

中でも目立ったのが、トランプ氏支持のボットツイートだ。

選挙戦ではトランプ氏自身も、虚実取り混ぜた内容で、積極的にツイッターを利用。

ツイッターがトランプ氏勝利の手助けになった――とツイッター社の社外取締役が認めるほどだ。

さらに選挙後も途切れることなく、虚実取り混ぜたツイートは続いている。

トランプ氏のツイート発信を、メディアはどう扱っていくべきなのか。無視しても広まる。虚偽だと断じても、さらに広まる...。

新政権発足に向けて、ジレンマが続く。

●ツイッター取締役が認める

「トランプ氏は明らかにツイッター使いの名人。それが本当に、トランプ氏の大統領選勝利の手助けになったようだ」

米バズフィードが29日朝に開催したイベントで、ツイッターの社外取締役で、黒人向けエンターテイメントチャンネル「BET」CEOのデブラ・リーさんは、そう述べている

トランプ氏の公式ツイッターアカウント(@realDonaldTrump)のフォロワーは1650万を超す。クリントン氏(@HillaryClinton 1150万)の1.5倍近く。

ニューヨーク・タイムズ(@nytimes 3200万)やCNN(@CNN 2990万)には及ばないものの、ウォールストリート・ジャーナルのデジタル版リニューアル(@WSJ 1230万)やワシントン・ポスト(@washingtonpost 800万)といったメディアを上回る。

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そのツイートには、即座に1万前後のリツイートやリプライがつく。

ただ、必ずしもすべてが人間のフォロワーというわけではないようだ。中には、かなりの数のツイッター・ボットが含まれている、という。

●20~25%がボット

オックスフォード大学インターネット研究所のフィリップ・ハワード教授らのプロジェクト「コンピュテーショナル・プロパガンダ」は、大統領選投開票翌週の11月17日、選挙戦におけるツイッターボットの動きについての調査報告を公開した

ツイッターのAPIを使い、11月1日から投開票日翌日の9日まで、大統領選関連のハッシュタグで抽出した1891万件のツイートを調査対象にした。

調査では、1日50回以上、調査期間中の9日間で450回以上ツイートしていたアカウントを、ボットなどの"高度自動化"アカウントと定義した。

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それによると、日中の時間帯では、ツイート全体の20~25%が、ボットによるもの、と認定された。

さらに、ツイート数の多かった上位20アカウントを見ると、それぞれ1日平均1300件、9日間で計23万4000件も送信。

上位100アカウントでは、1日平均500件、計45万件。それだけで全体の2%を占めている。

●ボットの8割がトランプ支持

ツイート全体の中の、トランプ氏支持は55%(1043万件)、クリントン氏支持は19%(362万件)。

その内訳を見ると、トランプ氏は22%、クリントン氏は14%がボットなどの自動化ツイートと認められた。

そして、自動化ツイート全体でのトランプ氏支持のものは、3回の公開討論会では67%でほぼ変化はなかったが、投開票日には82%に急増したという。

そして、ボットツイートには、多くのデマや荒しの内容が含まれていた――投開票日前、ワイアードの取材に対し、ハワード教授はそう述べている

その一つの例が、投票所に行かなくも携帯電話のメッセージ機能で投票ができる、というデマをクリントン氏支持者に向けて流したツイートだ

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●英国のEU離脱でも

ツイッターボットの氾濫は、6月23日に行われたEU離脱をめぐる英国の国民投票をめぐっても、観測されたという。これも、ハワードさんらのチームによる調査だ

国民投票前の6月5日から12日まで、収集した183万ツイート(31万4000アカウント)を分析したところ、分離派が54%、残留派が20%だった。

このうち128万ツイートについて、さらに詳しく見ると、分離派の14.8%、残留派の15.2%が、ボットを含む"高度自動化"アカウントによるものだった。

また、ツイート件数の上位10アカウントのうち、7つがボットだった、という。

ネットセキュリティーのインキャプスラの調査では、2013年にはウェブトラフィックの61.5%がボットによるものだった。2015年には人間によるものが51.5%と、やや逆転したようだ。。

ボットをつくること自体はさほど難しいことではないようだ。

ニューヨーク・マガジンのライター、ソーア・ジャンセンさんは6月、トランプ氏がツイートをしたら、5秒以内にキッドロックのヒット曲「バウィットダバ」の歌詞をリプライ。リプライ一番乗りをする、というボットを自作。

コーディングは3時間足らずで終わった、という。

●ツイッターの反論

ただ、ツイッターにも反論はあるようだ。

ニューヨーク・タイムズの取材に対し、ツイッターのスポークスマン、ニック・パシリオさんは、ボットアカウントのフォロワーがさほど増えることはないし、その存在は特定のハッシュタグ内にとどまる、として影響は限定的との主張をしている。

自動化されたスパムアカウントが米国の選挙についてツイートしたことで、投票者の意見や国内のツイッター上の会話に影響を与えた、と主張する人々は、投票者を過小評価しており、ツイッターの機能を理解できていない。

●メディアが批判される

選挙が終わって、ボットのトラフィックは急激に減少しているようだ。

ただ、変わっていないのは、トランプ氏自身によるツイッター発信だ。その内容が虚実ない交ぜなのも、一貫している。

数百万もの違法投票を除けば、選挙人獲得の地滑り的勝利に加えて、投票総数でも私の勝利だった。

トランプ氏が27日にこんなツイートを投稿した。

緑の党の大統領選候補だったジル・スタインさんが、激戦州の一つ、ウィスコンシン州選挙管理委員会に選挙結果の再集計を求める書面を提出したのが2日前の25日

これに対する牽制の意味合いもあったようだ。

ただ、「数百万の違法投票」という主張は、その2週間ほど前から右派サイトで流布し始めたもので、検証サイト「スノープス」が「無根拠」との認定を公開していたものだ

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トランプ氏のツイートから2時間後、ロイターがそれを報じる。「違法投票がなければ大統領選の得票数でも勝利、とトランプ氏

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だがこれに対し、トランプ氏の主張に検証も加えず、そのまま伝えている、とメディア関係者らから、特にこの見出しに批判がわき起こる。

調査報道NPO「プロパブリカ」の編集局次長、エリック・ウマンスキーさんは、こうツイートした。

ひどい見出しの失敗だ。せめて、"違法投票"と引用符でくくれよ。

見出しがトランプ氏の発言を引用符もなしに使うことで、事実と誤読される危険がある、との指摘だ。

それを受けて、1時間後には、見出しに「証拠を示さず」と加え、2時間後にはさらに「根拠なく」と見出しの文言を変えている。最終的に、この表現で落ち着いたようだ。

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この一件はまさに、虚偽を含むトランプ氏のツイートの扱いについての、メディアの動揺ぶりが見て取れる。

従来のような、価値判断を加えぬ"中立"報道が、成立しない状況なのだ。

●トランプ氏のツイッターの扱い方

メディアは、トランプ氏のツイッターをどう扱っていくべきなのか。

ワシントン・ポストのブロガー、ポール・ウォルドマンさんは、「トランプ氏はすでにニュースメディアを打ち負かした。我々に何ができるのかは不明だ」と題した記事で、その難しさをこう述べる。

まずトランプ氏は、何かとんでもない虚偽を言う。しかし彼の支援者はすでにそれを信じているか、信じるだろう内容だ。次にトランプ氏は、それについてメディアから批判を受ける。支援者はこう言う。「はら、リベラルの反トランプのメディアがまたやってる」。トランプ氏の主張が虚偽だと、全員を納得させることはおろか、その批判はトランプ氏のファンにとって、メディアが言うことは何も信じられないという考えを補強することにしかならない。そして、メディアがいかなる議論でも、中立的な調停者として振る舞いづらくしているのだ。

問題は、事実を示せるかどうかではなく、誰がそれに耳を傾けるのか、だとウォルドマンさん。では、トランプ氏が次に同じような虚偽のツイートをしたら?

一つには、「彼/彼女はこう言った」とだけ意見の相違として報じることが可能だ。これがありがちなケースだが、とても受け入れられない。次には、今ではニュースメディアが多くがやっていることだが、「トランプ氏はこの虚偽の事柄を述べた」とニュースを報じること。これはより正確ではあるが、意図せず、ウソを広めてしまう可能性もある。

この記事に、ニューヨーク大学教授で著名ブロガーのジェイ・ローゼンさんは、ツイッターでこうコメントしている

現時点での解決法:なし

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■ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』全文公開中

(2016年12月4日「新聞紙学的」より転載)