「車内のマナーにご協力ください」日本の車内風景ーー浦島花子が見た日本

最近またネット上で公共交通機関でのベビーカーや子供の泣き声に対しての話題が浮上している。
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Kobe, Kinki, Japan, North-East Asia, Asia
Brent Winebrenner via Getty Images

日本での子育ては大変だ。

最近またネット上で公共交通機関でのベビーカーや子供の泣き声に対しての話題が浮上している。

子連れママたちのマナーについて不平不満をぶちまけている、文句タレ夫さんやタレ子さんたちの書き込みを覗いてみたところ、彼等が不満に思っていることは、実は赤ちゃんの泣き声でも、大きなベビーカーでもなく、自分の生活や人生の中にある不満やストレスを、誰か自分よりも弱い立場であろう人たちへ向けて発散しているとしか思わずにはいられなかった。

こんな現象を、英語ではScapegoat(スケイプゴート)という。自分の置かれている状況の中で抱いている不平不満をどうにか解消したいが、根元にある問題に向き合うのは正直怖いし、自分の弱さや負けを認めたくないから、その代わり他人のせいにしたり、全く関係ない人たちを非難することによって、自らを肯定したり慰めたりする。当然、社会的弱者がスケイプゴートとされやすい。

暴力(言葉の暴力や精神的暴力も含む)を振るう人たちは、自分より強いと思う人たちには歯向かわないが、弱いと思う人たちには容赦がない。暴力によって人に恐怖心を植え付け、自分は強いんだということを主張する。そうすることによって自分の恐怖や弱さを隠しているのだ。完全な負け組である。本当に強い人は、暴力など必要ない。

でも人間であれば、そんな情けない部分を、多かれ少なかれ誰もが持っているのではないだろうか。それを表に出すか出さないかは、人それぞれの選択によるのだが、無意識にスケイプゴートを作り出す人は、そんな自分の言動自体が、実は誰にも見られたくない自分の恐怖心や弱さをさらけ出しているのと同じであることに気づいていない。

私の一方的な偏見でいえば、本当にマナーのない人とは、そのような社会的弱者へ寛容になれない人たちの方である。

23年離れてから帰国した日本社会は、少子化による深刻な問題を抱えているにもかかわらず、子供の人権や、次の世代を命をかけて出産したお母さんたちを大切にするどころか、逆に、彼等の生きづらい社会へとまっしぐらに進んでいるように見える。

過去に何度もベビーカーに子供を乗せ、アメリカと日本の往復をした私も、多くの母親たちが感じているように、日本では特にベビーカーが周りの邪魔になっていないかと気にすることが多々あった。

なぜなら、電車やバス、公共の場はベビーカーと一緒に来る人のことを、最初から考慮に入れていないことがよくわかるからだ。多くの駅のエレベーターは、ベビーカーが2つとそのお母さんたちだけできゅうきゅうになる。新しい施設にあるエレベーターは比較的大きくなっているようだが、それでも未だエレベーターや公共交通機関の車内で、ベビーカーを持ち込むママたちに白い目を向ける人がいる。

おかしなことに、この白い目はベビーカーや子連れママだけでなく、障害者やお年寄り、そして妊娠中の女性にも向ける人がいる。

白い目の標的は、携帯の電源を切る必要のある優先席に堂々と座ってスマホにかじりついている人や、電車やバスで小さい子供やお年寄りを相手に、椅子取り合戦並みの勢いで席を取る人たちの方である。こんな人たちに、子連れママのマナーを指摘する資格はない。

「席の譲り合い」もちょっとした難関だ。「どうぞ」と言った相手が「結構です」と言ったらと思っただけで、周りの目を気にして譲る勇気を失う人も多いだろう。

自分はまだ席を譲られるほどの年寄りじゃないと思っていても、譲られた方は遠慮せず、または座りたくなかったとしても、座っていただけないかと思う。譲り合いが成立する光景を目にする機会が増えることで、席を譲ることへのハードルが、多少は低くなるのではないだろうか。

それで思い出すが、アメリカから帰国する前に日本の両親がワシントンにやって来た際、地下鉄に乗る度に両親は席を譲ってくれる人に出くわした。父はさっさとありがたく座らせてもらうのだが、母はその度に「私ってそんなおばあちゃんに見えるのかしら」と私につぶやいていた。

確かに今のおばあちゃんたちはひと昔前のおばあちゃん像より随分見た目も若くて颯爽としている。だからこそ、席を譲られたら気を悪くする人もいるだろう。でもお願いだから、譲られたら「ありがとう」と素敵な笑顔で座って欲しい。

みんなが気持ち良く公共交通機関を利用するためには、女性専用車両のように、優先席オンリー車両を作らざるを得ない時代なのだろうか。 我ながらこの優先席オンリー車両のアイデアはなかなかイケると思う浦島花子であった。

それにしても、日本人のおもてなし精神は、どこへ行ったのだろう。