2016年、Virtual Reality はキャズムを超える

この業界で働いていると、新しい技術がでてくるたびに「今年は〜〜元年だ」という言葉を見ます。スマフォ元年、IPTV元年、VR元年、自動運転車元年、などです。
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この業界で働いていると、新しい技術がでてくるたびに「今年は〜〜元年だ」という言葉を見ます。スマフォ元年、IPTV元年、VR元年、自動運転車元年、などです。

新しい技術を使った商品やサービスが初めて市場に導入された年を指す言葉ですが、導入されたばかりの技術が、市場や私たちのライフスタイルに大きなインパクトを持つことはほぼありません。

ほとんどの場合、初期に投入された製品やサービスは、値段が高い、使い勝手が悪い、価値が理解されないなどの理由で、ごく一部のアーリーアダプターと呼ばれる人たちだけに使われる、ニッチな成功しか収められないのが普通です。

アーリーアダプターにしか受け入れられなかったものが、一般の人にまで普及するまでの間の「生みの苦しみ」の期間のことを「キャズム」と呼びますが、数多くの商品やサービスがキャズムを超えられずに消えてしまうし、多くの場合「キャズム越え」をするのは一番手ではなく、二番手や三番手です。

典型的なのは、スマートフォン市場です。世界で最初にスマートフォンと呼ばれた携帯電話は、2002年に発売された Nokia 7650 という機種でした。その意味では、2002年は「スマートフォン元年」だったわけですが、7650 は OS も CPU も非力だった上に、使い勝手が悪く、ヨーロッパのごく一部のファンにしか受け入れられないニッチな商品にしかなれませんでした。

Nokia に代わって「キャズム越え」をしたのは、2007年に iPhone を発売した Apple でした。十分なパワーを持つ CPU と GPU、先進的な OS、タッチスクリーンを駆使した圧倒的な使いやすさで、あっという間に、スマートフォンを私たちにとって「なくてはならない」ものにしてしまったのです。

この例を見ても分かる通り、新しい技術が導入された瞬間よりも、それがキャズムを超えて一般の人たちに普及する瞬間をきちんと捉えるほうがはるかに重要だと言えるのです。

その意味では、来年はVR(Virtual Reality)がキャズムを超える年だと私は見ています。ハードウェアとして、Oculus Rift や Sony の Playstation VR (Morpheus) がリリースされるというのもありますが、すでに2015年の時点で Facebook と Youtube が360度 Video のビューアーをサービスとしてリリースしている点は、見逃してはいけない重要な要素です。

また、リコーの THETA に代表される高性能な360度カメラが比較的安価に購入できるようになった、というのも大きな意味を持ちます。

ちなみに、今年の末に私がたまたま参加したインディー・アーティストのライブで THETA を使ってステージビデオの撮影が行われていましたが、IT業界とは関係のない、ごく普通のシンガー・ソングライターのスタッフたちが THETA を使いこなして、臨場感溢れる360度ビデオが撮影できてしまうところが、まさに「VR のキャズム越え」を感じさせる瞬間でした。

(ちなみに、そのビデオは「オクツマリリ『魔法をかけてあげるよ』MV(360VR)」で見ることができますが、Google の Chrome ブラウザー、もしくは、スマートフォン用の Youtube アプリでないと360度ビデオを楽しめないので注意してください)

これがまさに、アーリーアダプターだけのものであった Virtual Reality が、キャズムを超えて一般の人々にも普及していく瞬間なのだと思います。こんな映像をごく普通の人たちが撮影し、それをより多くの人たちが日常的に楽しむ時代が、まさに始まろうとしているのです。