シンポジウム「希少な生物保全のために-野生生物輸入国、日本の責任」報告

2015年3月21日、東京で環境省主催のシンポジウム「希少な生物保全のために 野生生物輸入国、日本の責任」が開催されました。
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2015年3月21日、東京で環境省主催のシンポジウム「希少な生物保全のために 野生生物輸入国、日本の責任」が開催されました。このシンポジウムは、希少な野生生物の保全に関わる、幅広い分野の専門家をパネリストに招き、野生生物を守るための制度や、象牙の取引などについて考えることを目的としたものです。WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムで、野生生物の国際取引を監視するトラフィックのスタッフも登壇し、野生生物取引に関する日本と世界の動向についてお話しました。

野生生物を脅かす乱獲、そして違法取引

現在、世界で絶滅の危機にあるとされる野生生物の種数は、2万種以上。熱帯を中心に、その危機は年々深刻なものになりつつあります。

野生生物を減少や絶滅に追い込んでいるその大きな要因の一つに挙げられるのが、無秩序な採取や乱獲、さらにそれを助長している国際間での違法取引や、各国国内での売買による影響です。

こうした問題を解決するため、「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約)」では、3万5,000種以上の動植物について、国際間の取引を規制しているほか、各国政府もそれぞれ国内法を整備し、取り締まりにあたっています。

さまざまな形で、多くの野生生物を輸入している日本も、国内での野生生物取引を規制するため、「種の保存法」を整備。トラフィックやWWFも、その強化と拡充を長年にわたり働きかけてきました。

しかし、世界的にはこの野生生物の違法取引問題は、年々深刻化し、その規模は現在、世界で年間190億ドル(約2兆円)に届く規模と推定され、ドラッグや人身売買などに並ぶ五大違法取引のひとつとも言われています。

野生生物の輸入国として、何ができるかを考える

トラフィックのスタッフは、日本と世界の野生生物取引の現状と課題について発表しました。

その中で、まず一つに、さまざまな野生動植物を輸入している日本は、合法で持続可能な利用を行なっていく責任を負っていること。さらに、近年、世界では象牙やサイの角の違法取引を目的としたゾウやサイの密猟が急増している中、かつての一大消費国でもある日本には積極的な国際貢献が期待されていること、などの視点から情報発信を行ないました。

また、他の講演者から提供された話題の中には、ペットを求める個人的な趣味のために犠牲になり、絶滅の危機に瀕している野生のスローロリスの話もありました。

密猟され、違法に取引されて海外に運ばれた結果、本来の生息地には戻れなくなり、保護されたとしても生き延びることは難しい、また、生息地での悲惨な捕獲方法や輸送中の死亡の多さなど、ショッキングな内容が報告されました。

一方、問題解決に向けた前向きな話題提供としては、環境省より、野生生物の保全に関する日本の国内法改正の話がありました。

これは、近年課題が多く指摘される、インターネットを介したペットや象牙などの野生生物取引に関する規制の見直しや、罰則強化などの説明があり、今後も更なる管理体制の整備を検討している、という内容でした。

さらに、現在日本国内では独自の管理規制のもと、合法的な取引が認められている象牙に関しては、東京象牙美術工芸協同組合員の方より、合法的な流通や管理、またゾウ保護に関する協力体制など、その持続的な利用を目指した取り組みの紹介がありました。

シンポジウムの最後には、各演者がパネリストとして参加したディスカッションが行なわれ、会場からの質問へ回答したり、環境省への要望を述べたり、それぞれの活動を通じて見出した「国際希少野生動植物の保全と私達にできること」が語られました。

会場からは多くの質問が寄せられたほか、校内掲示を見て参加したという専門学校の学生の方からは「さまざまな立場の人から野生生物取引や条約、国内法などについて話をきくことができて理解が深まり有意義だった。将来を考える上でも参考にしたい」といった感想も聞かれ、参加者の関心の高さがうかがえました。

WWFとトラフィックでは今後も、さまざまな立場の取り組みや現状、さらに一般の方々の関心を知ることを通じて、「取引」という視点から見た野生生物の保全を考え、取り組んでゆきます。

関連情報

絶滅の危機が迫る、野生ネコ17種
サビイロネコ(01 of17)
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【危急種】インド南部とスリランカに棲息する極小型の猫。体長は35-48cm程度しかない。 (credit:nicknack68/Flickr)
ハイイロネコ(02 of17)
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【危急種】中国西部の森林や乾燥地帯に生息。絶滅が危惧されている。砂漠で保護色となる明るい毛皮を持ち、縞模様の尾が特徴。詳しい生態は未だに分かっていない。 (credit:Wikimedia)
アンデスネコ(03 of17)
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【危急種】南アメリカのアンデス山脈に生息する。標高3000〜5000mにある岩が多く藪の点在するステップで動物を補食している。 (credit:Wikimedia)
クロアシネコ(04 of17)
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【危急種】アフリカ南部に生息する小型の野生の猫である。平均的な体重は1.6kgで、現存する猫の中で最も小さいものの一つだ。 (credit:Wikimedia)
コドコド(05 of17)
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【危急種】南アメリカのアルゼンチン南西部、チリ南部に生息。 (credit:Wikimedia)
ジャガーネコ(06 of17)
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【危急種】中南米に生息。オセロットやマーゲイと分類学的に非常に近く、身体の模様などが類似するが、華奢でより小型である。毛皮が美しいため乱獲され、現在絶滅の危機に瀕している。 (credit:Wikimedia)
ウンピョウ (07 of17)
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【危急種】ネコ科の中でもトップクラスの木登り上手。東アジアの標高2000〜3000mにある森林に生息する。 (credit:MANDY CHENG via Getty Images)
ボルネオウンピョウ(08 of17)
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【危急種】東南アジアのボルネオ島とスマトラ島に生息するウンピョウが、他のウンピョウとは別種であることが、2007年に生物学者らによって確認された。 (credit:Wikimedia)
ボルネオヤマネコ(09 of17)
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【危急種】東南アジアのボルネオ島の固有種。1992年までの間に9頭しか捕獲例がない。開発による生息地の破壊などにより生息数は減少している。 (credit:WIkimedia)
マーブルキャット(10 of17)
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【危急種】ネパールやスマトラ島など、東南アジアに広く生息。外観はウンピョウによく似ているが、はるかに小型でイエネコ大の大きさだ。 (credit:siwild/Flickr)
ライオン(11 of17)
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【危急種】動物園でおなじみだが野生種は減少している。 (credit:Wolfgang Kaehler via Getty Images)
チーター(12 of17)
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【危急種】地上最速の動物とされ、走行してから2秒で時速72キロメートルに達し、最高時速は100キロメートルを超えると言われる。 (credit:Wikimedia)
トラ(13 of17)
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【絶滅危惧】ユーラシア大陸に広く生息。開発による生息地の破壊、薬用や毛皮用の乱獲、人間や家畜を襲って殺して食べる害獣としての駆除などにより生息数は激減している (credit:Wikimedia)
ユキヒョウ(14 of17)
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【絶滅危惧】標高600〜6000mの高地に生息する。大型のネコ科動物として、また、食肉目としては最も高い場所を行動範囲としている。 (credit:Wikimedia)
マレーヤマネコ(15 of17)
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【絶滅寸前】インドネシアのボルネオ島やスマトラ島などの森林や沼地に生息する。生態は謎に包まれている。 (credit:Wikimedia)
スナドリネコ(16 of17)
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【絶滅寸前】英語名は「Fishing Cat」。その名の通り、主に魚を捕獲して食べる珍しい習性を持っている。インドネシアの島々からインドシナ半島、中国南部・インド地域にかけての沼地に生息する。 (credit:Wikimedia)
スペインオオヤマネコ(17 of17)
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【絶滅寸前】イベリア半島の標高400〜900mにある硬葉樹からなる低木林に生息する。開発による生息地の破壊や、食料にしているアナウサギの駆除が進んだことで個体数が減少。現在は250匹ほどと推定されている。 (credit:Wikimedia)