スリランカと若き女性リーダー

「その問題と雇用対策については誰よりも詳しいよ。だって、その政策の草案、私が書いたんだもん。」現在、彼女は23歳。草案を書いたときはまだ21歳だった。
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Jayathma Wickramanayake

南アジアに位置する光り輝く島、スリランカ。2009年に長く続いた内戦を終え、最近ではリゾート観光地としても有名になりつつある島国だ。そんなスリランカも若者の高い失業率に悩む国の一つである。元々4%程であった失業率は2010年に17%まで一気に上がったが、現在は10%以下まで下がっている。まだまだ理想の数値とまではいかない。しかし、この四年間の間に大きく改善した。その大きな理由の一つに「Policy of Youth Employment (若者の雇用政策)」が制定された事が挙げられる。

数年前、縁あってスリランカ政府でインターンをしていた私。

インターン先で出会った現地の女の子に、高い失業率とこの雇用対策について聞いた事がある。にっこり微笑んで彼女はこう言った。

「その問題と雇用対策については誰よりも詳しいよ。だって、その政策の草案、私が書いたんだもん。」

現在、彼女は23歳。草案を書いたときはまだ21歳だった。

その子の名前はジャズマ・ウィックナマラヤケ(Jayathma Wickramanayake)。スリランカを代表する若きリーダーである。

失業率と教育のニーズ

若者の高い失業率は高等教育の数が足りない事に加え、大学で学べる事と社会が求める能力がズレている事が大きな原因。小学校から高校まで授業料が無料のスリランカだが、公立の大学も無料だが大学に行けるのはたったの1%だった。圧倒的に大学の数がたりないのである。私立の大学がなかった為、その1%に入るしか方法がなかったのだ。(お金持ちのスリランカ人は国外の大学に留学するというという抜け道もあるのだが)しかも、大学で学んだ事と世間のニーズがずれている為、大学を出ても就職できず、人生の進む道に悩む人も多いとか。Policy of Youth Employmentはその問題を打開する為に私立大学と職業専門学校の設立に重点を置き、社会に出た時に役立つスキルを提供する柔軟なプログラムが豊富に用意された。

その草案をジャズマが起草したというのだから、思わず声を出して驚いてしまった。その時、彼女は役人でもなければ政治家でもない。地元のコロンボ大学でバイオテクノロジーを学んでいた学生だった。更に詳しく聞けば、その草案をする際の委員会は彼女一人だけだったので、ちょっとだけ参加してアイディアを出しました!というわけではないのだ。国際労働機関(ILO)を始めとする国連機関の助けを借りつつ、他国の政策のリサーチから草案までを彼女が行ったのだ。まるで学生が研究して論文を書いて出した、という感じで淡々と語るジャズマ。そんな事がありえるのか。適当すぎないか、スリランカ...と感じてしまったのは事実だが、見方を返れば「国が若者を信頼している事」が現れていると思う。日本や先進諸国で当たり前だと思っている事を基準に物を考えてしまうと、この方法はとんでもないのかもしれないがそれと同時に新しい可能性や方法が生まれるのを妨げているのかもしれない。

ユースの社会参加とスリランカ

一体どうなったら大学生が政策を作る事になるのか。彼女いわく、政府とのつながりは大学の廊下に貼ってあったポスターが始まりらしい。

「ユースリーダーになりませんか?Emerging Youth Leader Award(ユースリーダーアワード)参加者募集中」

まるでどこかのオーディションを受けた、アイドルの話のようじゃないか。

約4000人のスリランカ中の応募者の中からさまざまなテストやプレゼンなどの選考を切り抜け、最後に二人のリーダーが選ばれた。その片方がジャズマであるというのだ。元々激しい競争率の中、地元の公立大学に受かる優秀な彼女だがとんでもなく優秀である。選ばれた二人は別々の政府の委員会に所属し、若者の意見を反映する為にいろいろな事業や政策に携わる事になるのだが、その一つがPolicy of Youth Employmentなのだ。

「でも私がいろいろな政府の活動に携われたのは、若者の意見を反映するシステムが元々スリランカにあったから。そのシステムが確立されてなかったら、今頃DNAの研究でもしてるんじゃないかな。」

スリランカはYouth Ministry(青年省)やユースの議員、地域ごとにユースの議会があったりと青年だけの独立した政府機関が存在しており、元々ユースの活動が活発な国である。ジャズマによると若者が政府に意見を言いたい時は誰でも地方の議会の話し合いに参加できるし、政府が若者の意見を採用したい際もシステムがすでにあるので行動に移しやすいとの事だ。

「すべてがうまくいっている訳ではないけど、たくさんの若者が "自分たちは社会・政治の一部だ"と強く感じる事ができる、だから政治や国への関心はとても高い。」

たくさんの若者が国と協力しつつ、様々な問題を解決するべくプロジェクトを立ち上げ、FacebookやTwitterを含むソーシャルメディア(SNS)を通して伝える努力をしている。 スリランカの急成長の源をここに見つけたような気がした。

成長とこれからのスリランカ

今現在スリランカが新たに取り組むべき事はなんだと思う?と聞くと、間髪入れず「キャリアガイダンスの制度を整える事」と返ってきた。スリランカには大学や外部の就職をサポートしたり、アドバイスをする機関がほとんどない。大学の就職課、リクナビ・マイナビなどの豊富な就職支援サービス、ウェブ上に溢れ返る適正診断や企業情報が簡単にアクセス出来る日本とは大きく違う。

そのため漠然と数学者やエンジニア、医者になる事が一番いいという概念が存在し、たくさんの若者が大学で自然とそれらの分野を専攻するそうだ。ジャズマ自身、バイオサイエンスを選んだのも周りに進められたからだった。しかし、今となってはその選択が悔やまれるという。スリランカ政府や国際機関で働くという選択肢に気づいていれば、経済や政治など違う分野を専攻しただろう。自分は大学生活の中でそれに気づいたが、たくさんの若者が数学などを学ぶ方が為になるという固定概念の基に生活している、と真剣に語ってくれた。

それらの問題に取り組んでいくジャズマに立ちはだかるのは「女性軽視」の問題。この国でもそれは避けられないらしい。今まで様々な活躍をしていたジャズマはことあるごとに心ない中傷や陰口に悩まされてきた。もちろん、人前に出る事は必然的にそのような問題に立ち向かわなければいけないが、女性だからという理由で誹謗中傷を受ける事はおかしいとハッキリと彼女は述べる。国民の60%が女性のスリランカだが、たったの4%しか女性議員がいない事が残念だ、と。

私自身はスリランカは世界初の女性首相を排出したのである程度女性が政治に取り組む事に対して寛容なのかも?と思っていたが、ジャズマによるとそれは首相だった夫が暗殺された後を引き継いだ様なものなので、スリランカ自体が女性のリーダーを持つ事に寛容なわけではないというのだ。

「きっと男性達を含め社会全体が、新しい変化を受け入れるのが怖いんだと思う。一度受け入れちゃうと、彼らが男性という理由だけで優位に立つ事ができなくなるでしょう?そう思えば陰で悪く言われたって全然怖くない。」

スリランカのメディアからのインタビューでも女性蔑視の問題を堂々と語るジャズマ。伝え続ける事、それが変化を起こす一番の道だと強く語る。

なんとも頼もしいとしかいいようがない。

そんな彼女は七月からニューヨークの国連本部に派遣され、スリランカ政府が主体となって進めている活動、ポスト2015開発アジェンダに「ユースが社会や政治に参加する事を高める」という目標を入れるために奮闘する。世界中の若者が自国の社会や政治に参加し、自分たちの意見を反映する事ができる事を願って、彼女は今日も訴え続ける。

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UN Youth Delegate Program 2012にスリランカ代表として参加。国連総理事長Ban Ki Moon氏との一枚。