2016年は「ラジオ」がApple Musicを活性化する鍵?

Appleラジオの世界展開は、現実的な流れではない?
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6月に開始した、アップルの定額制音楽ストリーミングサービス「Apple Music」。Spotify、YouTube越えを目指し始まった音楽サービスの24時間ラジオステーション「Beats 1」が、近い将来拡大する可能性が浮上してきました。

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アップルは「B2」「B3」「B4」「B5」および関連するロゴの商標登録を11月に申請していたことがフランスのウェブサイトConsomacのレポートで明らかになりました。申請は現在審査段階に入っています。

全ての商標登録の申請は「Beats Electronics, LLC」によって行われ、音楽ストリーミングの放送および送信のカテゴリーに分けられています。

8月にThe Vergeが報じたレポートによれば、アップルはメジャーレーベルと締結したApple Musicに関するライセンス契約において、レーベルとの交渉無しにBeats 1に新たなステーションを追加できる条項が盛り込まれていることになっています。The Vergeはまた、アップルがBeats 1の放送でレーベルや権利関係者に支払うロイヤリティは、アメリカ最大のネットラジオPandoraが支払うロイヤリティよりも高いと報じていることから、Beats 1の拡大はレーベルにとっても収益源として美味しい話になりそうです。

定額制音楽ストリーミングでSpotifyを追いかける立場のアップルにとって、Beats 1は戦略的にも重要な差別化要素ですが、一方で拡大戦略は諸刃の剣となる恐れもあります。

Beatsステーションは海外展開するのか?

Beats 1は音楽ストリーミングの領域では、他社が真似できない画期的なメディアと言えます。レギュラーDJを務めるゼイン・ロウ(Zane Lowe)、エブロ・ダーデン(Ebro Darden)、ジュリー・アデヌガ(Julie Adenuga)がLA、ニューヨーク、ロンドンから交互に放送している番組に加えて、ドクター・ドレーやファレル・ウィリアムス、ドレイク、Major Lazer、St. Vincent、Q-Tipなど、あらゆるジャンルのアーティストたちがラジオ番組を制作放送しています。

この24時間運営のアーティスト中心型のステーションは、選曲にヒューマンタッチを融合するアップルのキュレーション哲学を体現した形で、検索やレコメンデーションなどアルゴリズムでは補えない音楽との出会いや発見を促すアプローチとしてアップルがチカラを入れています。

SpotifyやGoogle Play Music、YouTubeなども音楽の専門家によるキュレーションに基づいたプレイリストや新曲のレコメンデーションに注力しています。しかし、音楽ファンに大きな世界の大物アーティストたちによるキュレーションを実現できているサービスは、現在ではアップルのみです。

さらに言えば、Beats 1は月額980円のApple Musicにおいて、唯一フリーで使える機能です。つまりBeats 1はApple Musicの音楽の世界観を知ってもらい、有料会員を集めるための役割も果たしています。

しかしBeats 1のデメリットは、英語のみの配信に限られているということです。選曲からゲスト、DJのパーソナリティに至るまで洋楽(アップルにとってはアメリカ)のカルチャーとリスナーをターゲットにしたブランドとコンテンツ作りに徹底しているため、アメリカの音楽シーンに関心が低いリスナーや英語のトークに抵抗を感じるリスナーにとって、今のBeats 1はグローバルなサービスとは言えないでしょう。

となれば想定されるのが、Beats 2-5での世界展開でしょう。しかし自分はこれも現実的な流れではないと考えています。

理由は二つ。一つ目は、Beats 1が作ってきた世界観とコンテンツ力を世界各地で作るには、時間もリソースも必要だからです。特に翻訳コンテンツと違って、その国や地域の音楽シーンを先読みして、全てがDJたちやアーティストによるオリジナルコンテンツをゼロから制作するには、アップルにとってもリスクが大きすぎるはずです。

ましてや生放送型のサービスに新規参入するならば、例えば日本ならばツイキャスやLINE LIVE、ニコ生などとも競う必要があり、音楽ストリーミングの競争がより激しさを極めるリスクを負ってまで攻めるかどうかを考えれば、リスクを高くしてしまう恐れがあると考えられます。

二つ目の理由は、言語の問題。Beats 2-5を他言語で展開すれば、これまでカバーしきれなかった地域のリスナーまでリーチできるでしょう。しかし言語的な壁のためカバーしきれない地域が生まれてしまうため、アップルのサービスの質だけでなく、ブランドイメージを損なう可能性も出てきます。

また変動の早いデジタル音楽の世界で、メディアを地道に育てる余裕が果たして許されるかも、疑問です。他国のBeats ステーションを編集し普及させる間にも、Spotifyやグーグルは別の戦略で世界展開を行いユーザー獲得を狙うはずです。

そのような理由で、アップルがBeatsステーションを海外に展開する戦略は難しくリスクが大きいと予測しています。

ラジオのバーティカルメディア式展開

ではBeatsステーションで今後どのような展開が予想されるか? それはジャンルに特化したバーティカルメディアのアプローチでステーションではないでしょうか?ダンスミュージックやロック、ヒップホップやソウルなど、ジャンル別の音楽を軸にすることで、よりセグメントされた世界観、リスナーのテイスト、編集チームのコンセプトが統一されたコンテンツ作りができるはずです。特化型ステーションであればターゲットの明確化も実現性が高まるでしょう。例えば10-20代(ミレニアル世代)をセグメントにした世界観で音楽がキュレーションされたステーション、30代を狙ったステーション、40代を狙ったステーションが生まれるかもしれません。

コンテンツが絞れるなら、アップルが得意とする作品の独占配信の戦略も他ジャンルにわたり展開することができるようになり、ユーザー獲得への強みを広げられそうです。

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近いアプローチで考えられるメディアは、イギリスのラジオ局BBCのRadio 1、1xtra、Radio 2などのラジオネットワークが参考になります。BBCのラジオはDJや選曲のテイストが細かく異なり、コンテンツ制作や編集力、キュレーションが徹底されたオリジナルコンテンツを数多く作っています。アプローチが若者向き過ぎ、ラジオDJに冷たいなど批判される時もありますが、大型フェスの配信から新人アーティストの発掘まで深くコンテンツ作りにコミットしているスタイルは、まさにアップルがBeats 1で体現したかったことのように感じます。

差別化が難しい音楽ストリーミングサービスの領域で、Beats 1はApple Musicのブランドや世界観を示すアイデンティティと言えるかもしれません。

現在、音楽ストリーミングの中でDJによるラジオスタイルでコンテンツを作っているのはアップルだけで、その力の入れようにはサービス開始当時からアップルの本気度を感じます。ストリーミングのプラットフォームに加えて、バーティカルのラジオステーションを展開する環境が、アーティストやコンテンツの強みを活かして深い展開ができるアップル独自の強みが発揮するアプローチとしてのモデルの一つとなって、音楽ストリーミングサービスで議論される付加価値の独自性を進化させてくれることに期待したいです。

これまでは音楽ストリーミングの配信機能やコンテンツの充実さに注目が置かれてきましたが、2016年はラジオ放送やDJなどの個性を融合させて、どのようにサービスの世界観を拡げるかに注目が集まるかもしれませんね。

ソース

(2016年1月1日「デジタル音楽ブログ All Digital Music」より転載)