『爆心 長崎の空』-宿輪純一のシネマ経済学(4)

長崎に原爆が落とされたのは8月9日、終戦の6日前であった。広島と長崎はこの時期、原爆関係の式典が行われる。しかし、それも1945年なので68年も前のことになってしまっている。
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『爆心 長崎の空』2013年(日)

長崎に原爆が落とされたのは8月9日、終戦の6日前であった。広島と長崎はこの時期、原爆関係の式典が行われる。しかし、それも1945年なので68年も前のことになってしまっている。

監督の日向寺太郎氏は、筆者と同年代。不条理な通り魔的な殺人を描いた『誰がために』(2005年)・戦争中の苛酷な運命を描いた『火垂るの墓』(2008年)を手がけ、今や、日本トップクラスの社会派監督となっている。本作品もその人柄を表して、誠実に丁寧に作られている。

個人的な話で恐縮であるが、行ったことはないものの、宿輪家の本家は長崎県五島ということで実際に地名もある。そんなことで、長崎までは何回も訪問したし、親しみも持っている。

その長崎の原爆関連の名作には『TOMORROW 明日』(1988年)があるが、実はこの監督の黒木和雄氏が日向寺監督の師匠であった。

さて、本作についてであるが、長崎原爆資料館館長を務め『聖水』で芥川賞を受賞した青来有一の連作短編集『爆心』の短編を繋いで脚本を作っている。彼氏もいて自由で幸せな生活を送る女子大生門田清水(北乃きい)であるが、ある日、突然、母が他界してしまう。仲違いがあって、母からの電話も無視してしまったが、その直後に母がなくなる。そのことが心の傷となっていた。一方、こちらも、突然、娘を亡くし、その一周忌を迎える高森砂織(稲森いずみ)は、娘をなくしたことが心の傷となっていた。そんなとき、自分が妊娠していることを知り、さらに精神的に参ってくる。やがて清水と砂織は、偶然にも浦上天主堂周辺で巡り合い、お互いに欠けたものを補うように、親しくなり、生きていく希望を見出していく。

キリスト教と深い関係がある長崎が舞台であるが、原爆というものがそのベースとなっており、今でも重く影響を与え、本作でも随所に垣間見られる。

原爆と原子力発電は、その性質は全く違うが、ともに放射能を利用したものである。日本では、東日本大震災のときに原子力発電所の事故があって、原子力発電についてさまざまな議論がなされている。原発全廃の意見すら出ている。

現在は日本の貿易赤字の一因となるような高い価格で資源を輸入し、無理して火力発電を行って電力不足をカバーしている。今後も原子力発電が全廃となると、節電の徹底が必要となるのは自然な流れであろう。薄暗い照明の中で暮らしたり、冷房も自粛したりすることになっていくのであろうか。さらに日本の産業の問題点として電気料金の高さがあるが、さらに上昇し産業力を弱めていく可能性もあるのではないか。

この辺の問題は、白か黒かの単純な判断で決定できるものではない。そこでは様々な関係の"トレードオフ(Trade-off)"が発生する。それは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという関係のことである。このような状況では、選択肢のメリットとデメリットをすべて考慮したうえで決定を行うことが求められる。その結果として、"最適点"を見つけることが、経済学の面からも求められてくるのである。逆にこういった面で経済学が本来役に立つはずなのであるが。

社会的にもこのような"トレードオフ"の問題は多い。例えば、破綻に向かっている日本の財政赤字と社会保障費の問題もあり、TPPもそうである。こういったトレードオフの判断が苦手なのは、日本だけではない。南欧州諸国やデトロイトの財政問題も同じである。

この"最適点"を求めていくことを"冷静に"すすめることが、経済学的観点からも求められているのである。そういうことに、社会的に馴れていかなければならない。現在の様々な問題は、何も決めずに悪化していくだけに見えて仕方ないのは、筆者だけであろうか。

しかし、考えてみれば、人生において我々はトレードオフ的な考え方で様々なことを自然に判断し、行動を選択してきている。また、その結果が現在の自分なのであるが。

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