"激震" 英国EU離脱決定 ~崩壊ドミノ阻止のため、世界が為すべき事とは

世界を駆け巡った"激震"は、今も欧州のみならず世界中の人々を、混沌と不安の渦に巻き込み揺れ続けています。
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英国が国民投票で決定した、EUからの「離脱」という選択。

世界を駆け巡った"激震"は、今も欧州のみならず世界中の人々を、混沌と不安の渦に巻き込み揺れ続けています。

金融や経済そして安全保障に至る、これまでの世界秩序。自由や人権、民主主義や多様性を尊重する価値観。

人類が長い時間と多くの犠牲を払って構築してきた、平和と安定そして繁栄の枠組みを根底から崩壊させかねない「パンドラの箱」を、英国のEU離脱は開いてしまったのです。

投票結果が明らかとなった6月24日、英ポンドは急落、対ドルで31年ぶりの安値を付けました。ユーロも大幅に売られる中、比較的安全とされる円や金にマネーが集中。一時、1ドル=99円まで円が急騰する一方、日経平均株価は急落。前日比の下げ幅は1300円超えと16年ぶりの大きさを記録し、1万4000円台まで急落しました。

自動車をはじめとした輸出産業や外国人観光客のインバウンド頼みで景気浮揚をはかろうと、ひたすら円安に誘導してきたアベノミクスなど完全に吹き飛ぶ大激震です。

世界中に株安が連鎖し、24日のたった一日だけで、世界の株式時価総額の約5%に相当する約3.3兆ドル(330兆円強)が消失しました。今回のショックをリーマン・ショック並みと表現しますが、リーマン・ブラザーズが破綻した日の時価総額の減少ですら1.7兆ドル(4%弱)です。英国のEU離脱が、どれだけ世界を深刻な危機に陥れる歴史的大事件であったか、この数値が端的に語っています。

しかもこのショックは、決して一過性のものではありません。むしろ今後、英国のEUからの離脱をめぐって交渉が長引き、その行方が混沌とすればするほど、世界の政治や経済に与えるリスクは増大して行きます。

中でも、最も懸念されるリスクが「離脱ドミノ」です。

既にこのブログで何回も取り上げた通り、欧州では過激で排外的なポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭・拡大して、反移民や反EUを掲げる政治勢力が支持を伸ばしています。そうした政党の党首たちが24日、英国のEU離脱決定を受け、同様の国民投票を自国でも実施するよう相次いで呼びかけました。

フランスの極右政党 FN(国民戦線)のマリーヌ・ル・ペン党首は、ツイッターで「自由の勝利だ!私たちもこのような国民投票をしなければならない」と発信。フランスは来年に大統領選挙を控えていますが、ル・ペン党首は決選投票に進むものと見られています。

欧州統合の創始メンバーであるオランダでは、極右政党である自由党のヘルト・ウィルダース党首が、国民投票の実施を呼びかけました。同党は、欧州議会選挙で第2党、下院選挙で第3党に躍進し、現在は政権入りしており、来年3月の総選挙を前に世論調査で支持率トップとなっています。

この他、イタリア、デンマーク、スェーデンでも極右政党がEU離脱を問う国民投票を要求しています。

来年に総選挙を迎えるドイツでも、極右政党 AfD(ドイツのための選択肢)が今月の州議会選挙で躍進。一方、メルケル首相率いるCDU(キリスト教民主同盟)は歴史的大敗を喫しています。

6月26日に総選挙を迎えたスペインでも、EUに反発する急進左派 ポデモスが二大政党に割って入り、第2党への躍進が予想されていましたが、英国離脱の余波を受け国民の多くが与党に投票し、現状維持の第3党にとどまりました。ただこの結果を受け、離脱ドミノの懸念が払拭されたとは言えません。

英国の投票結果をトリガーとして離脱ドミノが起きれば、戦後世界の平和と安定を目的とした欧州統合は崩壊し、欧州全域は一気に不安定化します。グローバル化の流れが巻き戻されれば、企業の投資は手控えられ経済は委縮、安全保障面でもロシアとのパワーバランスが崩れ、テロや軍事衝突などを誘発するリスクが高まります。

英国は北大西洋条約機構(NATO)に参加する欧州各国の中で最大の部隊を拠出しており、また「007」に象徴される通り情報収集・分析能力でも秀でています。そうした英国の離脱は、ロシアのプーチン大統領の政治的立場を強め、テロ防止にも大きな痛手となるという懸念が広がっています。

2016年6月24日が、世界の"終わりの始まり"として歴史に刻まれることのないよう、今、全世界が手を携えて協調し、不安と恐怖の連鎖による分断を阻止しなければなりません。

そのための施策として、早急に取り組まねばないこと。それは次の4点だと考えます。

第一は、移民・難民問題への世界をあげての協調的取り組みです。

英国でEU離脱に投票した人の多くが、流入する移民によって職を追われ、押し寄せる難民によって平穏な生活を脅かされることに、不安や恐怖を抱いていたことは厳然たる事実です。

人々の善意や良心にも、限界はあります。自分や自分の愛する家族の暮らしや安全を犠牲にしてまでも、際限のない移民・難民の受け入れに賛同できる人はそう多くはないでしょう。

欧州への難民の流入を減少させるため、今、欧州だけでなく全世界が協調し行動することが求められています。具体的には、紛争地域と隣接し難民を受け入れているトルコ、レバノン、ヨルダン、ケニアなどの国々に積極的に支援を行うことです。こうした隣接地域での難民キャンプでの、食料、住居、教育に世界中の人々が支援金を拠出することにより、難民の欧州への流入に歯止めをかけることができ、何より難民自身が命懸けで地中海を渡らずにすみます。

第二は、官僚的とたびたび批判を受けるEU組織の改革です。

28カ国、約5億人という巨大な共同体であるEUを運営する職員は「ユーロクラット」と呼ばれ、短期契約を含め約3万人に上ると言われています。

EU各国での予算の使い方や規制の差配は、現在、EU本部にいるユーロクラットが一手に掌握する中央集権的な統治体制の下で行われています。そのため、各国まちまちである実態を把握しきれず、現場から乖離した政策を一律に強要することにより、EUに帰属することへの懐疑を生み出しています。

その象徴的な例として、EUの「共通漁業政策」により漁に出る機会を奪われた英国の漁業者たちは、その92%が離脱に投票すると回答しました。

第3は、行き過ぎたグローバル化の是正と、その犠牲者になった人々への保護策の実施です。

国家の経済発展のためにグローバル化が推し進められ、安い労働力として移民が大量に流入し、製品や産品の価格が暴落。その結果として、職を失ったり収入が大きく減少したり、自分たちの安全や社会保障が脅かされたりする憂き目にあった庶民の、マグマのような不安と恐怖と怒り。それが一気に爆発したのが、今回の英国EU離脱だったのだと思います。

そのエネルギーは、「自分たちの力を取り戻そう」という単純明快なスローガンや、「EUへの拠出金を医療費に振り向けよう」という分かり易い政策に吸い寄せられ、経済的な国益を説く政治家や知識層の声をかき消し、英国の分裂への不安を忘れさせてしまいました。

英国あるいは欧州に限らず、行き過ぎたグローバル化による格差の拡大が生み出す、行き場のない怒りのマグマの蓄積は世界各地で高まっており、ポピュリズム政党を押し上げています。

第4は、二者択一的な政治選択をできるだけ国民に迫らないことです。

移民・難民問題にしろ、EU離脱問題にしろ、世の中を二分するような課題はおしなべて、様々なファクターが複雑に絡み合い、作用し合って存在しています。ですから、国民にいきなりYESかNOかを問えるほど、単純な問題ではないはずです。

そんな中、無理をして二者択一を迫れば、物事は乱暴に二極化され、選択肢は結局どちらも実態から乖離してしまいます。

日本でも、憲法改正について賛成か反対かという、物事をあまりに単純化した世論調査がよくマスコミによって実施されますが、どんな為政者の下での改憲なのか、そもそもどのような内容についての改憲なのか、その前提条件も示さないまま、いきなり改憲にYESかNOかと聞かれても答えようがありません。

しかも大概の場合、問われた課題について深く理解できている有権者は限られているものです。今回のEU離脱をめぐっても、ネット検索大手の「グーグル」が、英国で検索回数が最も多かった関連ワードが実は、「EUって何?」だったと明らかにしています。

日本でも2005年に、小泉純一郎首相の下で郵政民営化の是非を問う所謂「郵政選挙」が実施されましたが、あの時、郵政民営化が社会にもたらす影響について正しく理解し投票した人は、ごく少数だったと思います。

にもかかわらず、そのような二者択一を乱暴にも国民に迫った結果、今回の英国のように国家の分裂やEUの崩壊という危機を招きかねない事態を引き起こし、果ては世界の運命をも左右するとしたら、こんな不幸なことはありません。

なにしろ英国の国民投票の結果は、EU離脱が51.9%に対し、残留は48.1%と、その差は僅か数%しかありませんでした。こんな不条理な決定の仕方によって、世界が底知れぬ不安定化への闇へと落ちて行くなど、どう考えてもおかしいです。

YESかNOかを国民に問う前に、まずは国民の代表である政治家が、どうしたら意見の異なる人々の間で、双方が折り合えるような妥協点を見いだせるのか、まずは徹底的に議論し問題点を列挙し、その問題点の解決に向け互いに知恵を出し合い、改善すべき点は改善するよう努力を重ねるべきです。

英国政府は国民投票を実施する以前に、もっと真摯かつ謙虚に国民の不安や不満の声に耳を傾け、現実的な解決策を模索し提示すべきでした。

そして、それは英国政府に限ったことではありません。

今回の英国での国民投票を大きな教訓として、世界各国が内向き志向から脱し、腹を据え本気で世界協調をめざすこと。そしてそのためにも、人間や自然の営みをなぎ倒しながら止めどなく加速化し続けるグローバル化に一定の修正を行うこと。

それができない限り2016年6月24日は、やはり"世界の終わりの始まり"の日になってしまうと、私は憂慮してやまないのです。