チーズタッカルビでにぎわう新大久保 韓流の街では「脱・政治的な日韓関係」が進んでいる

「年配世代は周りの視線を意識してしまうけど、若い子は関係ない。政治は政治。おいしいものはおいしいもので楽しんでくれるから」
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韓流の街と言われる東京・新大久保。ゴールデンウィークの連休中、JR新大久保駅前から延びる大久保通りは連日ごった返していました。10~20代の女性が中心です。

女性たちを引き寄せるのが、2016年秋ごろから人気の料理「チーズタッカルビ」。至る所に看板が出て、行列になっています。

連休初日の5月3日のお昼時、チーズタッカルビの元祖を自任する大久保通り沿いの韓国料理店「市場(シジャン)タッカルビ」をのぞくと、45席のうち男性客は1人だけでした。女性に圧倒的な人気があるのが分かります。

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「3時間待ってやっと入れた」とテーブルを囲んでいた、同じ都立高校1年生の横山優月さん、館林夏歩さん、宝田美乃理さん。チーズを伸ばして動画を撮り、Instagramにアップしながら「辛~い!」「おいしい」と叫んでいました。

3人とも初めての新大久保。美容・化粧品を買ったり、屋台スイーツ「ホットク」(蜜を入れて焼いた餅)を食べたりして町歩きを楽しんだそうです。

ところで、新大久保といえば韓流。ちょっと意地悪ですが「日韓関係についてどう思う?」と尋ねると、3人とも一瞬黙ってしまいました。

「私、政治に関心はないです」

「とりあえず戦争は嫌だ。ミサイルは嫌だ」

「戦争って、北朝鮮でしょ」

では韓国は? 今度、大統領選挙があるんだけど。

「へーっ、あれだよね、パクさん?」

「焼き肉とかたまに食べるけど、普段あんまり行かないよね」

「私、俳優のイ・ジョンソク大好き。韓国ドラマよく見るんで。めっちゃイケメンだと思いません?」

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タッカルビは鶏肉や野菜を甘辛く炒めた韓国料理の定番。しかしチーズとあえるのは新大久保のオリジナルです。「私が生みの親」と言う、市場タッカルビの姜光植(カン・グァンシク)さん(48)は、日本に住んで20年以上。その話を聞くと、新大久保、そして日韓関係の浮き沈みが見えてきます。

姜さんはこれまで日韓の外食産業などで働いてきましたが、「韓国料理店を建て直してほしい」と今の会社に雇われたのが2015年秋。韓流ブームで一時的ににぎわった店も、人出の落ち込みで閑古鳥が鳴いていました。

倉庫に残っていたのは、イベントで使っていた大量の鉄板。「鉄板で出せる料理ってタッカルビぐらいしかなかった。やってみたら満席にはなったけど、行列はできない。200店近い競合店がひしめく新大久保で生き残るためには、若い女性の心をつかまないといけないと思ったんです」。

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「2016年1月から約3カ月、店頭でタッカルビを焼いて通行人に試食してもらい、意見を聞き続けました。『辛い』という声が多かったので、まろやかな味にしようとチーズを載せたら、女子高生たちが『おじさん、これ何?』と興味津々で声をかけてくるんですよ。さらに、ちょっと単価は高いけど、糸を引くモッツァレラチーズやゴーダチーズに変えてみたら、見ている人から拍手が上がったんです」

「6月に看板を出したら、あっという間に火が点きました。10月にはランチで2時間、夜は3時間待ちになりました。ちょうどInstagramがはやり始めた頃で、お客さんがみんな写真を撮ってアップしてくれたんです。『ブームはすぐ終わる』と冷めた声もあったけど、1年近くたった今も開店から閉店までずっと満席です」

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(2012年、韓国の李明博大統領(当時)は竹島に上陸した)

新大久保の人出は、良くも悪くも外交関係に大きく左右されてきました。2003年にドラマ「冬のソナタ」が始まり韓流ブームが起きると、もともと韓国料理店の多かった新大久保には韓流タレントのショップなどが並び、40~50代の女性で賑わいました。地方からのバスツアーも盛況でした。

しかし2012年、李明博・前大統領の竹島上陸で日本人の対韓感情が悪化。2013年ごろからは、韓国人を狙い撃ちにしたヘイトスピーチ(差別扇動)のデモの標的にされるようになり、客足は遠のきます。「新宿韓国商人連合会」の鄭在旭理事によれば、ピークだった2012年に約640店あった韓国系の店は、現在は約400店まで減り「客足も、ここ4年ぐらいずっと落ち続けていました」。

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(写真は2013年4月21日、新大久保周辺で起きた排外デモ)

しかし、最近はぎくしゃくしている外交関係に関係なく、客足が大きく戻っているといいます。鄭理事は「最近も慰安婦問題が大きく報じられて心配していたけど、周辺駅の利用者数などから推計した最近の人出は、4~5年前と変わらないか、むしろ増えたぐらい。客層が年配の女性から若い層に変わってきましたね。K-POPやチーズタッカルビの影響はものすごく大きいと思います」。

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市場タッカルビの姜さんも「去年暮れの時点では、ピークの半分も戻っていなかったけど、今は同じかそれ以上。年配世代は周りの視線を意識してしまうけど、若い子は関係ない。政治は政治。おいしいものはおいしいもので楽しんでくれるから」と勝因を分析しています。

「『韓流は終わった』とテレビで報じられ続けた頃は傷ついたけど、お世話になった多くの日本人に恩返しができたかな」。ブームが本当に去ったときに備えて、次の手もいろいろ考案中。でも今の目標は「まだまだ知られていないから、チーズタッカルビを全国に広めること」だそうです。