【新型コロナ】知らぬ間に、飲酒量が増えていませんか? 専門家「緊張状態が続く今、危ない」

アルコール依存症問題に取り組んできた斉藤章佳さんは、「日常生活が脅かされたストレスへの対処行動として、飲酒量が増える人がいるだろう」と注意を促す。
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新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅勤務になり、外出頻度も減り、人とのつながりが薄くなったと感じている人も多いのではないだろうか。

こういった現状の中、「日常生活が脅かされたストレスへの対処行動として、飲酒量が増える人がいるだろう」と注意を促すのが大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さん(精神保健福祉士・社会福祉士)だ。

2020年3月に「しくじらない飲み方-酒に逃げずに生きるには 」を出版した斉藤さんに、新型コロナウイルス感染拡大の影響でストレスを抱える私たちが、アルコールとどのように付き合えばいいのかを聞いた。

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斉藤章佳さん
斉藤章佳さん提供

 <斉藤章佳 (さいとう・あきよし)>

精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックに約20年間ソーシャルワーカーとして勤め、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病――それは、愛ではない』がある。

 

「今、ストレスを感じていない人はいませんよね?」

ーー新型コロナウイルス対策で、自宅勤務の人が増えています。外出の機会が減り、ストレスを感じながら暮らしている人も多いと思います。アルコール依存症問題に携わってきたご経験から、斉藤さんは懸念されている点があるそうですね。

 

基本的に依存症とは、ストレスへの不適切な対処行動が習慣化することによって起こります。今、ストレスを感じていない人はいませんよね?

自宅で家族とずっと一緒に過ごしたり、一日中話す人がおらず孤独を感じたり、かといって必要があって電車に乗ればマスクしている人ばかりで、咳をしている人がいるだけで気になってしまう…。そういう日常での精神的苦痛を一時的に緩和しようとして、つまりストレスへの対処行動として、いつもより酒量が増える方がいるのは十分に予測できます。リモートワークで生活リズムが崩れますし、自宅でできる仕事が少なくて、手持ち無沙汰で昼間から飲む人もいらっしゃるでしょう。

多くの患者さんと接した経験から言いますと、「居場所を失ったとき」「人と場所へのつながりが途絶えたとき」「大切な人を失う喪失体験をしたとき」「過度な緊張状態が続くとき」に飲酒量が増えてしまう傾向があります。そういう意味で、今は危ない状況だと思っています。

現時点では感染拡大の状況に最も注目が集まっていますが、リーマンショックの時と同じように今後は、失業(ホームレスの増加)や借金問題、自殺、うつ病、アルコール関連問題などがより表面化しやすくなると考えています。

 

飲酒量を記録することは、飲酒量を減らすのに効果的

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e_zebolov via Getty Images

ーー自分や家族のアルコールとの付き合い方が気になった場合、個人や家庭ではどういった行動が取れますか?

 

「減酒外来」では、飲酒量を減らしたい患者さんには減酒薬「セリンクロ」などの薬物療法に加えレコーディング(記録)を重要視しています。

アプリなどを使ってご自身の飲酒量を記録することは、飲酒量を把握したり、減らしたりすることに効果的だと思います。また、紙のカレンダーと三色シール(赤・黄・青)を使う方法もあります。「飲まなかった日(青)」、「飲みかけた日(黄)」、「飲んだ日(赤)」で色を変えて、カレンダーにシールを貼っていくと、ご自身の飲酒パターンが見えてきます。ご家族の見える場所にカレンダーを置くことで、気にかけてもらうこともできます。

なにより、人との「つながり」が重要です。「アディクション(依存症)の反対は、コネクション(つながり)」であるという言葉は有名ですが、「孤独」が身近なアルコールへの耽溺(たんでき)につながることが多いからです。

本当は顔を見て、目と目を見ながら、安全な環境で、信頼できる人と話すのが良いのですが、今はそうもいかないことも多いと思いますので、電話やテレビ通話などを使って親しい人と話す時間を取るように心がけると良いと思います。

(※この記事の最後には、相談窓口に関する情報も掲載しています)

 

新型コロナ、アルコール依存症「治療の場」にも影響が…

ーー新型コロナの問題は、回復に向けて取り組んでいるアルコール依存症患者さんの状況にも影響していますか?

 

影響はすでに出ています。2月末ぐらいから、ご家族から「集団治療の場に行かせるのが不安なので、休ませます」と連絡がきたり、患者さんご本人から「今日はコロナに感染するのが怖いため通院やめます」という連絡が入ったりするようになりました。

しかし、治療の場と離れることで、スリップ(再発)してしまう方もいます。2~3日お休みが続いている方を訪問したところ、泥酔して「連続飲酒」状態になってしまっている方もいました。これは自力では酒を絶つことができず、医療機関などの介入がないと飲酒が止まらない状態といえます。

今後、新型コロナの更なる感染拡大により、患者さんも医療スタッフも外出が難しくなってしまいますと、患者さんによっては「唯一」であるつながりが絶たれてしまう可能性がでてきます。先ほど申したように「アディクションの反対は、コネクション」です。回復とは依存先を増やしていくことです。新型コロナによってつながりが絶たれていくことを非常に危惧しています。

当事者の自助グループにも影響が出ているそうです。アルコール依存症の自助グループには「断酒会」や「AA(Alcoholics Anonymous=無名のアルコール依存症者たち)」があり、相当数の当事者が通っています。ここでは、酒しか信じられなかった人が、他者と経験を分かち合うことで、自分の体験と重ねて共感したり、勇気をもらったりしています。

仲間というつながりを得て、「あの人もシラフで頑張っているから」と今日一日断酒が継続できる。自助グループの存在によって「今日一日」命をつないでいる人がいます。

しかし、新型コロナの影響で、集まりで使っているミーティング会場の貸し出しが中止となり、集まれなくなっているケースが出ています。

こういった「予期せぬ状況」は、患者さんにとって再発リスクが高まる瞬間です。緊急対応として、個別に会って話したり、Zoomやスカイプ、LINEビデオ通話でミーティングをしたりしているグループもあるようです。

 

 「ストロング系チューハイ」の危険性

ーー 3月に出版された「しくじらない飲み方-酒に逃げずに生きるには」は、広くお酒を飲む方に向けた本だと思います。どうして多くの人に呼びかける内容にしようと思われたのでしょうか。

 

2019年末に、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生が、アルコール度数が9%以上のいわゆる「ストロング系チューハイ」の危険性をFacebookに投稿し、話題になったことがありましたよね。

実際に、現場では2年ほど前からその危険性の兆候が出ていました。患者さんの自宅を訪問するとストロング系の500ml缶が散乱している。片付けても、翌日にはゴミ袋にたくさん缶が入っている…。こういった患者さんへのフィールドワークを通じて、この2年ほどの間に飲む酒の種類が確実に変わってきていると感じるに至りました。

以前は、紙パックやカップ酒だったのが、ストロング系に移行している。飲みやすくて、度数もあるので早く酔える。そして何より安いことが、一番の「買う動機」になります。

節度ある適正な飲酒量は1日平均純アルコール量20グラム程度で、チューハイなら7%の350ml缶1本分に相当します。ストロング系500mlを1本飲むだけで36グラムですから、危険な飲酒と言えるのです。

 

「何か変わるかもしれない」と思って最初の一杯に手が出る

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Catherine Falls Commercial via Getty Images

患者さんの「酔いたい」という動機の背景には、自己肯定感が低くなっているケースがあります。売り場に立つと、ストロング系のコーナーはキラキラして見えますよね。輝いて見えるようなパッケージが多いんです。

患者さんは様々な不安や困難を前に、「1杯飲むことで、何か変わるかもしれない」と思って最初の一杯に手を出します。ストロング系はそのデザインと強そうな名称が合わさって、「自分にパワーを与えてくれる」「何かが、変わるんじゃないか」「『男らしさ』を取り戻せる」というような印象を抱かせるんですね。そういった問題が現場で起きていることを伝えたいと思い、本を書きました。

それから本にも書きましたが、私が沖縄でアルコール依存症の方に助けていただいた経験があったことや、キャリアのスタートがアルコール依存症の臨床であったことから、いつか本にまとめたいという気持ちがありました。表紙には、アルコール依存症の患者さんや医療従事者から絶大な支持を受ける、故・吾妻ひでおさんの漫画「失踪日記2 アル中病棟」の絵を使用させていただきました。

 

「アル中イメージ」のアップデートを

ーー私たち自身、そして身近にもアルコール依存症予備軍の人がいると思います。自分や周りの人の変化に気がつくためには、何が必要でしょうか?

 

「アル中イメージ」のアップデートですよね。アルコール依存症患者に対して、「意志が弱い、だらしない」「大声を出す」「暴れる」といった偏ったイメージを持っている方も多いと思いますが、アルコール依存症になるのは意志の問題や性格の問題ではありません。現在は患者層にもかなり変化があって「静かなアルコール依存症者」が増えています。集団では緊張してしまうような人が、家で一人で黙々とお酒を飲んでいたりするんです。根は非常に真面目で几帳面な人も多いです。「アル中イメージ」を更新できていないことで、「自分には関係のない一部の特殊な人がなるもの」ととらえてしまうのだと思います。

ストロング系が人気だとお話ししました通り、流行のお酒の内容も変わってきていますし、時代背景にあった正しい状況を知り、病気に関する知識をアップデートしていく必要があると思います。

 

<「自分が/家族がお酒を飲みすぎている…」と感じた際の相談窓口>

・全国の「精神保健福祉センター」

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/mhcenter.html

・全国の「保健所」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/hokenjo/

・「依存症対策全国センター」

https://www.ncasa-japan.jp/

・「大船榎本クリニック」

http://www.enomoto-clinic.jp/hp-list/ohfuna/

 

※「しくじらない飲み方-酒に逃げずに生きるには」(著・斉藤章佳)より一部抜粋

※新型コロナウイルス感染拡大の影響で運営時間・方法などに影響が出ている可能性があります。

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「しくじらない飲み方-酒に逃げずに生きるには」(著・斉藤章佳)。定価1300円(税別)、集英社