「個人情報は売っていない」ザッカーバーグ氏がビジネスモデルを死守する:10時間100人質問の公聴会

プライバシー騒動には潔く深く頭を下げるが…。
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Aaron Bernstein / Reuters

フェイスブックの8700万人分の個人情報流用問題をめぐり、マーク・ザッカーバーグCEOに対する2日間、公聴会が終わった。

上下両院合わせて質問者は約100人。休憩をはさみながらも計10時間に及んだマラソン公聴会だ。

メディアには、「議会の追及をうまくかわした」との評価も出ており、騒動発覚以来、下落していた株価もやや持ち直すという結果に終わった。

この数日間は、大きなニュースも多かった。トランプ大統領と交際していたポルノ女優に口止め料を渡していたとされる顧問弁護士、マイケル・コーエン氏への家宅捜索(9日)、米国がシリア攻撃の可能性(10日)、ポール・ライアン下院議長の引退表明(11日)。

この偶然も、ザッカーバーグ氏の初めての議会証言の反響を、限定的に抑える役割を果たしたようだ。

マラソン公聴会で新たに判明した事実は多くはない。これまで鬱積していたフェイスブックへの疑問を、一つひとつ問いただしていった10時間だ。

プライバシー騒動には潔く深く頭を下げるが、ビジネスモデルは死守する。

サッカーバーグ氏は、その姿勢を明確に打ち出した2日間だった。

●「大きな過ち」

上下両院の公聴会の冒頭、ザッカーバーグ氏はいずれもケンブリッジ・アナリティカをめぐるユーザーデータ流用問題への謝罪で証言を始めている。

我々は自らの責任を十分な視野で捉えることができていなかった。大きな過ちでした。そしてこれは、私の過ちです。謝罪します。

今回の騒動の大本の原因は、サードバーティーが開発するフェイスブック用アプリのためのインターフェイス「グラフAPI」が、ユーザーの友達まで含めたデータの取得を幅広く可能にしていた点だ。

「グラフAPI」は2010年から運用していたが、2011~12年にアイルランドのデータ保護コミッショナーからの改善勧告を受けたのち、2014年春にデータの取得範囲の制限を表明、2015年春のアップデートで実際にこの制限を実施している

このため、フェイスブックとしては、基本的な対策はすでに2015年に実施済み、"穴"はふさいであり、ケンブリッジ・アナリティカの流用問題はその後のフォローアップに瑕疵があった、という立場をとっている。

つまり、この問題は解決済みのだったはずが、手違いで、不発弾のように今になって爆発したもの、といったことのようだ。

●プライバシーには金を払えと?

フェイスブックのサンドバーグCOOはNBCの「トゥデイショー」で、個人情報を広告に使って欲しくないというユーザーは、保護を受けるためには金を払う必要があるかも知れないと主張していた。金を払えと。

個人情報を使って欲しくないフェイスブックユーザーに金を払わせようと、本当に考えているのか?

10日に開かれた上院司法委員会と商業科学運輸委員会の合同公聴会で、ビル・ネルソン議員(民主)はこう切り込んだ。

上院公聴会の4日前、シェリル・サンドバーグCOOは、トーク番組の中で、ユーザーの個人情報を使ったターゲティング広告にオプトアウトの選択を認めないのか、との質問に対し、こう答えていた。「それだと有料のプロダクトになってしまう

ネルソン議員の質問にザッカーバーグ氏は、適切な広告の表示には個人情報が必要で、ユーザーが個人情報を管理できる仕組みも提供している、と述べ、こう返答している。

シェリルは、広告を全く掲載しないためには、フェイスブックには別のビジネスモデルが必要で、になる、ということを言ったのだと思います。

さらに、ザッカーバーグ氏は、こう付け加えている。

現時点で、広告を非表示にするための課金オプションは提供していません。フェイスブックは、広告サポートのサービスが、世界の人々が結びつくことを手助けする、というミッションに最もかなうもの、と考えています。私たちは、誰もが使える無料サービスを提供したいと思っているのです。

そして、それが数十億の人々にサービスを届ける唯一の方法です。

つまり、ユーザーの個人情報に基づくターゲティング広告を中心とした今のビジネスモデルに、手をつける気はない、と改めて強調しているのだ。

●プライバシーを売り物に?

ジョン・コーニン上院議員は、ユーザーがアカウントを削除した後、個人情報はどうなる、と問いかけた。

特に「ターゲット広告のためにサードパーティーに渡した個人情報はどうなる?」と。

ザッカーバーグ氏は、それは誤解だ、と述べる。

ザッカーバーグ氏:私たちが広告主にユーザーのデータを売っている、というのは、フェイスブックについての極めてよくある誤解です。我々は誰にもデータは売っていない。

コーニン氏:なるほど、では貸している、と。

ザッカーバーグ氏:広告主ができるのは、どんな顧客にリーチしたいか、我々に伝えることだけです。それを受けて、我々はその広告を掲載する。

「貸している」のはデータではなく広告出稿のプラットフォーム、ということだ。

そして、「極めてよくある誤解」とは、特に、今回の問題で「ユーザーをプロダクトとみなす」といった表現でフェイスブック批判を強めているアップルCEO、ティム・クック氏の顔を思い浮かべているのだろう。

プライバシー侵害と絡めたフェイスブックのビジネスモデル批判は、規制強化など、同社の存立基盤を脅かしかねない。このため、クック氏の批判には、ザッカーバーグ氏も「ばかげた話」と即座に強い調子で反論した経緯がある。

その一方で、このビジネスモデルをめぐる防衛線は、深めに引いている。

問題発覚から10日ほどで、対応策として、フェイスブックのターゲティング広告に、外部データブローカーなどの持つデータ連係を禁止するとの方針を表明。外部データ連係による広告ターゲティングを提供するサービス「パートナー・カテゴリ」の廃止を打ち出した。

「個人情報は売っていない」との主張は、この公聴会で、ザッカーバーグ氏が何としても訴えたかった論点のようだ。

質問したコーニン氏はここで、ケンブリッジ・アナリティカで問題になった、アプリ経由でユーザーの友達のデータまで広範にサードパーティーが取得可能だった点には触れていない。

そのデータは、アカウントの削除とは関係なく、回収や削除は困難な状況にある、というのが今回の騒動の根底にある。

ケンブリッジ・アナリティカだけで8700万人分。そして、それ以外にどれほどの個人情報が取得されていたのかは、現時点ではわかっていない。

●シャドープロフィールとは?

フェイスブックの個人情報の集め方にも、議論は及んだ。

取り上げられたのは、フェイスブックの会員ですらない人々のデータまで集めているという「シャドープロフィール」問題だ。

11日の下院エネルギー・商業委員会での議論で、ベン・ルーハン下院議員は、フェイスブックが4日に公表した、電話番号とメールアドレスによってユーザーの友達を検索できる機能が悪用され、20億人を超すユーザーのほとんどが、名前や居住時、プロフィール写真などの公開情報を収集されてされた問題に言及。

この問題はすでに2013年から提起されてきたのに、今回の騒動まで対策が取られていなかったと指摘。

合わせて、フェイスブックがユーザーではない人々のデータまで保有している、いわゆる「シャドープロフィール」問題について、こう尋ねた。

ルーハン氏:フェイスブックは、フェイスブックにサインアップしたことのない人々の詳細なプロフィールを保有している。イエスかノーか?

ザッカーバーグ氏:議員、一般的に、我々はフェイスブックにサインアップしたことのない人々のデータを、セキュリティーの目的で収集しています。それは、まさに議員がお尋ねになった外部からのユーザーデータ収集のような行為を防ぐためのものです。

ルーハン氏:それらはシャドープロフィールと呼ばれているものですか? そのように言われてきたもののことですね?

ザッカーバーグ氏:議員、それについては承知していないのですが...

「シャドープロフィール」とは、2013年に600万人分におよぶフェイスブックのユーザーデータが流出した騒動で明らかになったもので、ユーザーが同意した覚えのないデータや、さらにはその友人の非ユーザーのデータまでも収集されていた問題だ。

ザッカーバーグ氏は、「シャドープロフィール」という呼び名についてはかわしたが、非ユーザーの個人情報を集めていることについては、公式に認めたわけだ。

ルーハン氏はさらに、「フェイスブックはユーザーごとに2万9000項目のデータ、非ユーザーでも1500項目のデータを保有している」と指摘。

2万9000項目のデータ」は、プロパブリカが2016年に報じて、明らかになっている。

ザッカーバーグ氏は、「即答できかねます」として後日、回答するとした。

●フェイスブックはメディアなのか?

あなたはフェイスブックがテクノロジー企業だという。だが、フェイスブックは世界最大のメディア企業だという人もいる。(中略)あなたは、先ほどの証言でコンテンツには責任がある、とも述べている。

フェイスブックはテクノロジー企業なのか、世界最大のメディアなのか、どちらなんだ。規制策や政府の対応を考える上で、これは非常に重要な質問なのだ。

ダン・サリバン上院議員(共和)は、ザッカーバーグ氏に、こんな質問を投げかけた。

これに対し、ザッカーバーグ氏は「我々は自分たちのことをテクノロジー企業だと思っている」としながら、こう答えている。

確かに我々はコンテンツに責任がありますが、コンテンツをつくっているわけではない。我々がメディア企業かどうかと質問される時、それはつまり、フェイスブック上のコンテンツに対して、責任を感じているのか、という趣旨だと思っています。

その答えははっきりと"イエス"です。ただ、それはフェイスブックの根幹がテクノロジー企業だということと矛盾するわけではないと思っています。

フェイスブックは、メディアなのか?

この疑問は、この数年、指摘され続けてきた。

2016年夏、フェイスブックがベトナム戦争を象徴する報道写真「ナパーム弾の少女」を"児童ポルノ"に該当するとして削除した騒動があった。

この時、抗議キャンペーンを展開したノルウェー最大の新聞「アフテンポステン」の編集長は、ザッカーバーグ氏への公開書簡で、「マーク、あなたは世界で最もパワーのある編集長だ」と指摘している。

当初は、「あくまでテクノロジー企業だ」としていたザッカーバーグ氏も、フェイクニュースが氾濫した米大統領選後の逆風の中で立ち位置を変え、2016年末にはこう述べていた

フェイスブックは新種のプラットフォームだ。伝統的なテクノロジー企業ではない。伝統的なメディア企業でもない。我々はテクノロジーを構築するが、合わせてその使われ方への責任は感じている。

ただ状況はそこにとどまってはいない。

英国では、フェイスクニュース対策やネットの安全策が検討されるの中で、フェイスブックをメディアと位置づけて、既存メディアと同等の責任を問うべきではないか、との議論も広がっている。

サリバン氏が"メディア"と絡めて"規制"に言及したのは、こんな背景も踏まえてのことだろう。

●来月に控えた欧州GDPRの余波

ケンブリッジ・アナリティカの問題の中心は、ユーザーのプライバシー侵害だ。

そこで繰り返し取り上げられたのは、2011年に連邦取引委員会(FTC)と結んだ和解条項違反の可能性。さらに、5月25日から施行されるEUの新たなプライバシー保護法制「一般データ保護規則(GDPR)」への対応だ。

リチャード・ブルメンソール上院議員(民主)は、ケンブリッジ・アナリティカ問題で使われたフェイスブック用アプリが、FTCとの和解条項に違反していると追及した。

だがザッカーバーグ氏は、入念に準備したであろう筋立てて、これをかわしている。

ブルメンソール氏:今回の問題で起きたことは、実質的に、アプリを故意に素通りさせたということだ。これは不注意であり、見落としでもあろうが、つまりはFTC和解条項の違反だ。そうでしょう?

ザッカーバーグ氏:いいえ、議員。和解条項違反だとは思っていません。ただ、本日、何度も申し上げているように、現行法で義務づけられている以上に、プライバシーに関する責任について、幅広い視野で見ていくことが必要だと考えています。

IT企業「リアルネットワークス」出身のマリア・キャントウェル上院議員は、「欧州の規制が米国でも適用されるべきだと思いますか」と尋ねている。

GDPRは、まさにユーザーのビッグデータを寡占し、マーケティングに駆使するフェイスブックなどの米国IT企業が大きな標的として想定された新法制だ。

GDPRでは、2000万ユーロ(21億円)か世界での売り上げの4%分の、どちらか高い方を罰金として課せられる規定がある。フェイスブックの2017年の売り上げは400億ドルなので、4%だと16億ドル(1700億円)という巨額の罰金となる可能性もある。

またEUでは2015年秋、フェイスブックへのプライバシー侵害訴訟を契機に、EUの司法裁判所が米EU間で15年続いたプライバシー協定「セーフハーバー協定」を無効とする判決を行っている.。鬼門とも言える手強い相手だ。

キャントウェル議員の質問に対し、ザッカーバーグ氏はこう答えている。

世界中のすべての人々が、きちんとプライバシーを保護される権利があります。(中略)

GDPRでは、顔認識のようなセンシティブなテクノロジーについては、積極的な同意のとりつけと特別なコントロールの提供が要求されており、フェイスブックも実装に取り組んでいます。これについては、全世界で実施予定です。

米国でもGDPRと同様のものが必要かどうかについては、議論の価値はあるだろうと考えます。ただ、その規制がどのようなものになるにしろ、前向きに受け止め、対応していくと、述べておきたいと思います。

政府の規制には従順に。それがザッカーバーグ氏が繰り返し述べたことだ。

リンゼイ・グラハム上院議員(共和)とのやりとりでも、この点は同じだった。

グラハム氏:フェイスブックとして、規制は受け入れますか?

ザッカーバーグ氏:それが"正しい"規制ならば、イエスです。

グラハム氏:ヨーロッパの規制は"正しい"?

ザッカーバーグ氏:そうだと思います。

●フェイスブックはロシアの武器になる

総じて、公聴会2日目、11日の下院エネルギー・商業委員会での議論は、上院の議論とほぼ論点が重なるものだった。

ただ、言葉づかいは、かなりエッジの立っていたという印象だった。

公聴会の冒頭声明を行ったフランク・パロン下院議員(民主)からは「ロシアの武器」という表現が飛び出した。

フェイスブックがあらゆるところに普及していることは、代償も伴う:それによってもたらされる恩恵と引き換えに、フェイスブックは、ロシアやケンブリッジ・アナリティカのような、我々に害をもたらし、我々の民主主義に忍び込もうとする輩の武器にもなり得るのだ。

またザッカーバーグ氏は、カリフォルニア州の下院議員、アンナ・エスホー氏(民主)とのやりとりで、自身のフェイスブックデータも、流用された8700万人分の中に含まれることを初めて明らかにした。

エスホー氏:あなたのデータは、悪意あるサードパーティー(ケンブリッジ・アナリティカ)に売却されたデータの中に含まれていたんですか? あなたの個人データは?

ザッカーバーグ氏:はい。

エスホー氏:そうですか。それで、個人のプライバシーを守るために、フェイスブックのビジネスモデルを変えようとは思わないのですか?

ザッカーバーグ氏:議員、おっしゃっている意味がわかりません。

やはりザッカーバーグ氏は、ビジネスモデルは、堅持したいようだ。

●ザッカーバーグ氏の宿題

ザッカーバーグ氏は、計10時間の公聴会の中で、「後ほど回答します」を連発した。

ボインボイン」によると、その数42回。質問者は100人弱なので、その多さが目立つ。

ワイアードは、その積み残しの「宿題」を一覧表にしている。

この中には、「サードパーティーとの不正なデータ共有で遮断したすべてのフェイスブック用アプリ」など、ケンブリッジ・アナリティカ問題に関わる重要な「宿題」も含まれる。

この問題はなお尾を引きそうだ。

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(2018年4月12日「新聞紙学的」より転載)