宜野湾市長選~問われる普天間・辺野古問題の民意~ 

政府が裁判で勝っても、沖縄での選挙に自民系が敗北を続ければ、現地の民意に反する辺野古工事の「正当性」が問われ、民主主義制度そのものへの疑念が増すことになる。
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「世界一危険な飛行場」と言われてきた普天間基地のすぐ隣に、沖縄国際大学がある。

この大学のキャンパスからは、駐機しているオスプレイが目の前に見える。

校舎内部には防音工事が施されているが、屋外で聞くオスプレイの爆音はすさまじい。

11年前、この大学に米軍ヘリが墜落した。

オスプレイの飛行ルートの真下に住む知人は、いつもと違う飛行音が聞こえるとヒヤリとすると語る。

墜落の恐怖は、今も続く。

オスプレイなど40機が常駐する普天間基地は、宜野湾市のど真ん中にある。

その地で、市長選挙が来年1月24日に行われる。

この選挙は、普天間基地のまさに「地元の民意」を問うことになる。

今夏までは、安倍政権は明らかにこの選挙を楽観視していた。

普天間返還には辺野古基地の建設が必要であり、辺野古阻止を叫ぶ翁長知事は基地返還の妨害者だとの論理は、必ず宜野湾市民に支持されると見込んでいたのである。

また、翁長陣営の候補者の人選が難航したことも、政権や自民党の楽観論を広げた。

一時、辺野古反対派内部にさえ、現職市長の自民系、佐喜眞淳氏には勝てないとの悲観論が流れていたほどだ。

だが、翁長陣営に促されて志村恵一郎氏が出馬を発表すると、情勢は一変した。

現在では、むしろ志村氏がリードしているとされている。

この情勢変化の背景には、様々な要因がある。

志村氏は、元県庁土木建築部の幹部で、父親は自民党沖縄県連会長や県議会議長を歴任した大物政治家だった。

その威光は今も残る。

つまり、同氏は、元来共産党や社民党などの革新系が強いとされる宜野湾市で、革新系に加えて、保守系や土建業界一部にも食い込む。

志村氏出馬を演出した選挙のプロ・翁長知事の面目躍如でもある。

カギを握ると言われる公明党は、自民党とともに佐喜眞氏推薦の方向で調整しているが、創価学会婦人部が辺野古移設に反発しており、組織内は一枚岩ではない。

しかも、県民の70~80%が辺野古移設反対であるため、佐喜眞氏が自身の本音である「辺野古容認」を公言できない政治事情もある。

そのため、「辺野古」については、あいまい戦術に徹し、普天間基地の危険性除去、早期返還を唱えるにとどまっている。

辺野古阻止と県外移設を訴える志村氏に比べて、迫力不足は否めない。

佐喜眞氏の苦戦の背景には、官邸主導の辺野古政策もある。

穏健な保守派や無党派層の中には、沖縄県民多数派の民意を無視して、強引に工事を進めてきた安倍政権の姿勢に反発する人も多い。

その実態を、沖縄防衛局などの、在沖縄・政府機関の関係者は認識している。

だが、現場から遠く離れた、超多忙な菅官房長官が「沖縄問題」を一手に引き受けているため、現場からの微妙な情報は見過ごされやすい。

もし、宜野湾市長選挙で志村氏が勝利すると、翁長陣営が勢いづき、6月の県議会選挙と7月の参議院議員選挙でも連勝する可能性が大きくなる。

辺野古の埋め立て承認取り消し問題は、今や法廷に持ち込まれ、政府が勝つ可能性が高いと言われる。

だが、たとえ、裁判で勝っても、沖縄での選挙に自民系が敗北を続ければ、現地の民意に反する辺野古工事の「正当性」が問われ、 民主主義制度そのものへの疑念が増すことになるだろう。

それでもなお、菅官房長官はその剛腕ぶりを発揮して、辺野古工事の強行に突き進むのであろうか。