日本人は英語文法を学ばなくてもいい

たくさん聞き、読み、喋ることによって、自然な英語が自分の頭に入る。
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proofreading text on table in office
Lamaip via Getty Images

顧客の日本人と話していたときのことであった。それはセミナーの後に開催されたディナーの席で、テーブルにはアメリカ人も同席していたので会話は英語で行われていた。テーマはもう忘れたが、みなとても楽しい時間を過ごしていた。

そのとき突然その日本人の彼が話題をさえぎり、「ああ、すみません、先ほどのhad は、have beenにすればよかった」と言い始めた。自分の英語の文法のミスに気づいて、そのことについて話し始めたのだ。そう言われると、確かに彼は文法の間違いをしていたが、正直なところ、彼がそう言うまで、私は彼のその間違いに全く気がついていなかった。それに、文法的に少し間違っていたとしても、彼が言っていたことは十分分かりやすかったので、その訂正は不必要だと思った。

また、彼が話しながら自分の英語のミスをそこまで意識していた、ということも驚きだった。実際問題として、ネイティブ・スピーカーは必ずしも100%正しい文法を使っていないし、ネイティブ・スピーカーだったら相手が言っていることは文法が少し間違っていても、理解できる。普通の会話であれば、話している相手は英語の先生ではないし、あなたの英語の上達の度合いを批評するより、互いにコミュニケーションをすることの方が重要である。しかしながらこの顧客のように、英語の文法を気にしすぎている日本人はとても多いと思う。

とは言え、文法が必要ないと言っているわけではない。もちろん、言語を学ぶ際にある程度文法のことを学んでいないと、その言語でのコミュニケーションに限界がきてしまう。それは私のスペイン語学習の経験にも共通することだ。

社会人になってからスペイン語を学びたいと考えた私は、スペイン語会話クラスを受講した。授業は楽しかったが、すでに会社を経営していたので、基本的な文法、特に動詞の活用をしっかりと勉強する暇がなかったために、なかなか身に付かずにいた。それでも、教室で教えられていたことを耳で覚えていたので、スペイン語を母語とする隣人やメキシコでのホームステイをしていた家族とはかなり会話できるようになった。しかし、文法の基礎ができていなかったため、あるレベル以上には上達できなかった。

日本人を観察するとそれとは反対の問題があると思われる。日本の学校では英語の文法をしっかりと教え、それが入学試験の課題にもなるために、日本人は英語の文法を結構よく知っている。また日本人は英語文法にとても詳しいので、私の頭が痛くなるほど文法に関して難しい質問を私に聞いてくる。日本人から私の文法が直されたことさえあった。そして彼の指摘は正しかった(among を使うべきときに、betweenを使ってしまっていた)ので、私にとって勉強にもなった。

しかし、その人は会話に関しては、ほんの片言のサバイバル・イングリッシュさえできない人であった。私の目から見れば、日本人は文法を知り過ぎていて、英語力に必要な他のスキルが不足しているのでバランスがよくない。日本の本屋さんで置かれている英語関連の本の多くは、文法中心であるが、そんなものばかりを読んでいると英語上達に必要なスキルを身に付けられない。文法以外に、日本人が習うべき英語の側面はいっぱいあると思われるのに残念だ。

時間配分の問題だけではなく、文法に重点を置きすぎるために出てくるほかの問題もある。一つは、文法に重視しすぎると、正しい答えが一つだけあるという考え方が強化されてしまう。日本人は完璧主義になりがちなので、英文法に対しても完璧も追求したがる。しかし、実際の会話は試験とは違い、あることを伝えるには複数の表現があり得る。

英語に対しては、もっと柔軟になるべきであり、どれが唯一の「正解」なのかということばかりについて悩むのはぜひやめてもらいたい。躊躇せず、滑らかなコミュニケーションを目指すことが望ましい。時々間違ってしまうかも知れないが、上で述べたように、相手はその間違いに気づいていないかもしれない。そして、もし自分の言い間違えが混乱や誤解を招いたのであれば、追加説明などをすることによってすぐに解決できるはず。文法への過剰な意識はコミュニケーションの勢いをそいでしまう。

日本人の英語文法におけるもう一つの問題は、左脳を使うことだ。学校での教え方からはじまると思われるが、多くの日本人の英語へのアプローチは数学の場合と似ている。論理的に分析しようとするのだ。そのため、英語における論理的なパターンをいつも探している。

しかし、英語には非論理的な部分が非常に多く、英語を論理でマスターしようとするとうまくいかないことが多々あり、そして同時にとても疲れてしまう。要するに、英語には道理に合わない部分がどうしてもたくさんあるので、そのような部分に対しては「そういうことだ」と受け入れるしかないのだ。

いつも英語を左脳のアプローチで学ぼうとすると、右脳の使用を邪魔してしまう。私が最近の著書『英語の品格』(集英社インターナショナル)で指摘しているように、英語上達にとって重要なのは、実際にたくさんの英語に触れることだ。

たくさん聞き、読み、喋ることによって、自然な英語が自分の頭に入る。それは子供が言語を学ぶときと同じだ。そうすると、何が自然な英語なのかという感覚を育成できる。その感覚があると、何が正しいかを左脳で分析するより、直感で英語の感覚を身につけることができる。英語を話すときに、右脳モードに切り替えることで、日本語から英語に訳したり文法に対して悩みすぎたりすることから脱出できる。英語の上達には、その道しかないと考える。