見通せない再稼働 防潮堤完成の浜岡原発

電力消費者、行政、識者、すべての関係者が当事者として今一度自らに問うべきだ。このまま原発を止め続けていていいのか、と。
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「浜岡原発」。その名前を知っている人はどれだけいるだろうか?

「ああ、菅首相(当時)が3.11後、真っ先に止めた原発か。」とわかった人はかなり記憶力がいいか、関係者だろう。

その浜岡原発(静岡県御前崎市)が、きょう久しぶりに表舞台に返り咲いた。全国ネットで流れたそのニュースの見出しは:

「防潮堤の完成」

そう。中部電力がかねてから南海トラフ巨大地震の津波対策として建設していた防潮堤がついに完成したのだ。その威容は近くに行って見上げた者しかわからない。高さ実に海抜22ートル、全長は2.4キロ。東西の両端は盛り土で補強してある。

あれは、東日本大震災のおよそ2か月後の2011年5月6日の夜だった。菅直人首相は緊急記者会見を開き、静岡県御前崎市にある中部電力浜岡原子力発電所の全ての原子炉の運転を停止するよう要請した、と発表したのだ。

停止要請の理由として菅首相は、「これから30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性は87%と極めて切迫をしている」とした。その根拠として、文部科学省の地震調査研究推進本部の評価を挙げた。

その上で、菅首相は、「想定される東海地震に十分耐えられるよう、防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要」で、「国民の安全と安心を守るためには、こうした中長期対策が完成するまでの間、現在、定期検査中で停止中の3号機のみならず、運転中のものも含めて、すべての原子炉の運転を停止すべき」だとした。

これを受け、中部電力は5月9日、「現在運転中の4号機、5号機を停止する決定をした」、と発表した。また当時、定期検査から停止したままであった3号機についても「当面運転再開を見送る」と発表したのである。

あれから5年。浜岡原発は変貌した。

筆者は、去年の東京電力福島第一原発と柏崎刈羽原発の取材に続いて視察したのだが、他の原発同様、新規制基準に基づき、大規模な安全対策がほぼ完成していた。その最たるものが防潮堤なのだ。まさに万里の長城と呼ぶにふさわしい長大な壁に覆われている。

防潮堤のみならず、他の安全対策も他の原発とほぼ同じだ。原子炉建屋そのものは水の侵入を防ぐ分厚い強化扉で津波から守られ、内部にも数々の水密扉が設置されている。

また、電源喪失に備え、発電所内の高台に非常用ディーゼル発電機、その燃料となる軽油の地下タンク、電源車、熱交換車、ポンプ車などが配備されるなど、考えるうる対策はとられている。また原子炉建屋が水素爆発しないようにフィルターベントも地下に設置されていた。

こうした安全対策に既に中部電力は4000億円を投じている。対策は4号機が今年9月、3号機は来年9月ごろとなる見込みだ。この巨額工事費は受益者の負担である。浜岡原発が再稼働すれば、管内の電気料金は引き下げられ、地域経済にとってメリットがあることは明白だ。しかし、誰も容易に再稼働を早めて欲しい、とは言い出せない。ここに日本の矛盾がある。

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安全対策にいくら巨費を投じても、100%安全にはならないのは自明の理だ。

むしろ天変地異が起きた時、福島第一原発のような最悪の事態を招かない様に、ハード・ソフト両面から対策を取らねばならない。

浜岡原発で興味深かったのは、「失敗に学ぶ回廊」と名付けられた場所だ。過去に起きた事故を研修センター内に展示し、その時得られた技術を伝承しようという試みである。地味な取り組みではあるが、発生状況、原因、対策などをしっかり記録し、その知見を社内に伝えていくことは、事故を未然に防ぐためにも必要なことだと思った。

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震災から5年。少なくとも考えうる対策はほぼ完成している。それでもなお、再稼働を推進できない我が国の矛盾を、電力消費者、行政、識者、すべての関係者が当事者として今一度自らに問うべきだ。

このまま原発を止め続けていていいのか、と。

トップ画像:「防潮堤」

記事中写真: 「 重大事故対策として配備されたポンプ車等」

「 原発建屋の強化扉」 ©Japan In-depth編集部