「健康社会の守り神」―改めて考える、予防接種の意義

今回の記事では、さまざまな種類のある個々の接種というよりも、予防接種全体の意義、また法的な規則に関することも含めてまとめたいと思います。
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これまでにメディカルノートは、ポリオ百日咳麻疹(はしか)小児の髄膜炎に及ぶまで、小児科を中心として予防接種の意義や有効性に関する記事を公開させていただきました(国立成育医療研究センター教育研修部部長 石黒精先生監修)。また婦人科領域でも、諸問題から「『積極的』には勧奨しない」と一時的な措置をとられていながら、依然として有効性の高い子宮頸がん予防ワクチンについても記事を出させていただきました(山王病院(東京都) 病院長 堤治先生執筆)。

しかし健康被害などを理由に、予防接種についてよく思われていない方も一定数いらっしゃるのではないでしょうか。今回の記事では、さまざまな種類のある個々の接種というよりも、予防接種全体の意義、また法的な規則に関することも含めてまとめたいと思います。

予防接種とは?

まずはじめに、予防接種とはどういったものなのかについて考えてみましょう。「予防接種法」の第2条によれば、『疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種することをいう。』と定義されています。

この「予防接種法」は昭和23年6月30日に公布されました。伝染のおそれのある病気の発生ならびに蔓延を予防することを目的として、実際に時代時代に合わせて内容を改変しながら、日本国民全体の健康の維持・向上に大きく寄与してきました。この記事のひとつのポイントでもありますが、この法律のもうひとつの目的として、『予防接種による健康被害の迅速な救済を図ること』も挙げられています。

予防接種の2種類、「定期接種」と「任意接種」

日本における予防接種には2種類あり、それが「定期接種」と「任意接種」です。予防接種法で規定されるのが「定期接種」であり、各自治体の法令と合わせて予防接種の対象と時期が定められています。たとえばジフテリア・破傷風ワクチンなどがあります。生まれた年代によって違いはありますが、同世代間で考えれば皆が同じ時期に予防接種を受けたのではないでしょうか。

一方「任意接種」は、予防接種法のような法律に規定されるものではありません。たとえば医療従事者が接種することの多いB型肝炎ウイルスのワクチン、海外渡航する際に接種することのある黄熱病ワクチンや狂犬病ワクチンなどが挙げられます。

定期接種の対象となる病気

「予防接種法」では平成27年の6月現在、以下の疾患をA類疾病と定めており、定期接種の対象となっています。

ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がん予防ワクチン)のケースを除き(理由はリンク先参照)、A類疾病に関する予防接種のキーワードは「接種勧奨」または「努力義務」です。ちなみに、高齢者などを対象に「B類疾病」としてインフルエンザや肺炎球菌感染症が定められていますが、これについては「努力義務」もありません。

あなたは知っている? 予防接種を受ける「義務」はあるか

前述のA類疾患について、「今は予防接種は『義務』ではないらしいから、受けなくてもよい」――と聞いたことのある方、考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし義務でないから受けなくていい、と安直に考えるのは間違いといえるでしょう。

予防接種法において、平成6年までは「義務」とされていたのが、現在は「努力義務」となっていることは確かです。さらにB類疾患に関しては、定期接種である以上接種において自治体より費用の補助等が出るようにこそなっていますが、「努力義務」などすらありません。しかし依然として自治体の首長はA類疾病に関する予防接種を、その対象者(満16歳未満の際は保護者)に「勧奨」するよう明記されていますし、また対象者には予防接種を受ける「努力義務」を課しています。

義務でないなら、ワクチンいらず?

「ワクチンによる健康被害が怖いし、今は予防接種は「義務」ではないらしいから、受けなくてもよい」

こういった誤解は、ワクチン接種による副作用・健康被害の問題が大きく取り上げられたことに加え、何かと「選択する自由」等について論じられることが多くなったご時世も相まって起こったものかもしれません。

ワクチンの効能より『健康被害の実態』に偏ったメディアの報道を全てと思ってしまう。または、そのような健康被害が起こる確率は低いとはわかっていても、自分や自分の子供は受けさせなくていいや、と考えてしまう。選択する自由という言葉が独り歩きする向きもありますが、自由には責任が伴うものです。その責任は自身や自身の子供たちの末長い健康、さらに集団の健康保持にまで及ぶことではないでしょうか。

予防接種のもつ意義、つまり国民個々の健康を担保しつつ集団としての良好な衛生状態・健康を保持するという点において、その役割は不変で、時代が移り変わっても必要不可欠なものです。決してゼロとは言えないワクチン接種による健康被害ではありますが、予防接種法では第1条においてその救済を目的と定めていますし、対策が講じられています。

「予防接種を受けることによるリスクはゼロではないけれど、予防接種を受けないことによるリスクのほうが遥かに大きい」からこそ予防接種が勧奨されていることを忘れないでください。そして、予防接種を受けなかったために健康を害したとき、それは自己責任の範囲にとどまらず、お子さんや家族、そして同じ社会に生きる人びとに対して影響を及ぼすことがあるのだということを、どうか心に留めておいてください。

まとめ

いかがでしたか? 予防接種の意義や、目的を再確認していただけたでしょうか。法に「努力義務」と定められているのは、万が一の健康被害の可能性を考慮に入れたがための表現なのです。しかし、予防接種が「誰もが健康で、幸福な社会を実現する」ための大事な役割の一端を担ってくれていることは間違いないといえるでしょう。

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【執筆/インタビュー】

小林 裕貴 (メディカルノート 編集部)

2012年横浜市立大学医学部卒、横須賀共済病院・横浜市立大学附属市民総合医療センターで研修を終了後、内科医として専攻の循環器領域を中心に臨床経験を積みつつ、横浜市立大学大学院医学研究科でウエアラブルデバイスの医療への応用について研究中。その傍ら、メディカルノートの趣旨に賛同し設立に参画。医療の未来を担う若手医師の視点から、現代社会における医療記事を中心に編集を取りまとめている。