岩隈久志の与える四球が少ない理由

前半戦終了時、「1試合=9イニングあたり与四球を1個以下に抑えている投手」が、5人も存在した。いずれも前半終了時の数字なので、少なくとも40イニングを投げた投手だけに限定しているが、それに準えると2013年は「1試合あたり与四球を1個以下に抑えている投手」がわずかに1人、2012年は1人も存在せず、2011年は2人だけだった(注:2012年の上原は、シーズン36イニングで0.75の好成績を残している)。
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SEATTLE, WA - JULY 07: Starting pitcher Hisashi Iwakuma #18 of the Seattle Mariners pitches in the first inning against the Minnesota Twins at Safeco Field on July 7, 2014 in Seattle, Washington. (Photo by Otto Greule Jr/Getty Images)
Otto Greule Jr via Getty Images

前半戦終了時、「1試合=9イニングあたり与四球を1個以下に抑えている投手」が、5人も存在した。

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いずれも前半終了時の数字なので、少なくとも40イニングを投げた投手だけに限定しているが、それに準えると2013年は「1試合あたり与四球を1個以下に抑えている投手」がわずかに1人、2012年は1人も存在せず、2011年は2人だけだった(注:2012年の上原は、シーズン36イニングで0.75の好成績を残している)。

ア・リーグ西地区首位アスレチックスの左腕クローザーのドゥーリトルは、今季43.2イニングを投げてわずか2四球と上記5人の中でも群を抜く制球力を誇っている。昨季は69回を投げて13四球だったが、それでも与四球率は1.70個でメジャー上位だった。

岩隈の制球力は、今ではメジャーでもよく知られた存在になっている。どこかの解説者が「岩隈の成功は他の日本人投手にも希望を与える」と言ったそうだが、ただ制球力があるだけで岩隈がメジャーの強打者を打ち取っている訳ではない。

それは今季序盤、怪我に苦しんだ上原浩治(レッドソックス)のピッチングを見ていても明らかではないか。上原も制球力を武器にしているが、必ずしもキャッチャーミットの構えたところに百発百中という訳ではない。それでも大リーグの強打者を打ち取れるのは「切れのある速球やフォークボールを自由自在に操れる技術」の他に「腕をしっかり振って投げれば、多少コントロールが乱れても打者のタイミングを外せる」からだろう。上原の与四球率は昨季、1試合あたり1.09個で、今季前半も1.24個と持ち味を出している。

因みに田中将大の1試合あたりの与四球率は1.32個、黒田博樹(ともにヤンキース)が1.78個、田澤純一(レッドソックス)は1.89個といずれも制球のいい投手の部類の中に入る。ダルビッシュ有(レンジャーズ)は3.04個と日本人投手では悪い方の部類に入るが、奪三振率が1試合あたり11.08個とメジャー屈指なので「いくら歩かしたって、三振に打ち取りゃいい」ピッチングが出来る。

そう、ダルビッシュの成績からも分かるように、与四球率だけでは投手の実力を測るのは難しい。今季の与四球率の上位につけているフィル・ヒューズ(ツインズ)の防御率は3.92、ヒューズに次ぐ1試合あたりの与四球率1.26個のバートロ・コロン(メッツ)も、防御率3.99と微妙な数字が残っている。中には2011年のケビン・スローウィーのように1試合あたりの与四球率が0.75個だったのに0勝8敗、防御率6.67といい数字を残せなかった投手もいるぐらいだ。与四球率が低いのは良いことには違いないが、奪三振率との兼ね合い(BB/Kという数字で表される)やWHIP(1イニングあたりの与四球と被安打率)、得点圏に走者を置いた時の被打率などと、どのようにリンクするかが好成績を残す鍵を握っているようだ。

前半戦の途中、前出のヒューズと話す機会があった。彼は今季の好調の理由を「今年は健康だからね」と前提しながら、こう続けた。

「ここ(ターゲットフィールド)はヤンキースタジアムほどホームランが出やすい訳じゃないから、インサイドを思い切って攻められるし、インプレーにさえすれば何とかなる」

ヒューズ同様、与四球率の低いドゥーリトルはオークランド、岩隈もシアトルと「打高投低」と言われる広い球場を本拠地としている。だがドゥーリトルや岩隈、さらに冒頭のランキングに入っているロックは、昨季も同じ本拠地でプレーしているのではないか?

かつてダイヤモンドバックスやレッドソックスをワールドシリーズ優勝に導いたカート・シリング(現TV解説者)は、パワーピッチャーでありながらコントロールが良いことで知られていたが、彼がまだフィリーズにいた頃、こんなことを言ってたのを思い出す。

「俺たちは大リーグの選手だからストライクなんて投げられて当然だ。大事なのはその“Quality(質)”なんだ。ファストボールであれ、ブレーキングボール(カーブやスライダー)であれ、質のある球でストライクを投げること。それがきちんと遂行できなきゃ、配球なんて何の意味もない」

ただ単にストライクを投げるだけではなく、質のあるストライクを投げること。ドゥーリトルや岩隈の与四球率が低いのは、球場の広さと、質の高いストライクを投げる技術の共同作業の結果なのかもしれない。

6月30日(現地時間)のタイガース戦でサヨナラ満塁本塁打を許したドゥーリトルは、そのきっかけを作った―今年許した2つの内の―1つの四球について、球団の公式ウェブサイトにこう話している。

「2ストライクを取ってから内へ、外へ、さらに高目にも投げたんだけど、(四球を選ばせる)良い打席にされてしまった」

ドゥーリトルにとっては悪い結果となったが、彼は質のあるストライクをあらゆる場所に投げられる自分の能力をよく知っており、それを思う存分に使える技術と度胸があったからこそ、そういうコメントが残ったのだと思う。

そういう投手が増えるのは好ましい事態だし、それが多数派になればきっと、試合時間も短くなるだろう。少なくとも、ナショナルズのアンソニー・レンドン二塁手のように「時間がかかって退屈だから野球なんて見ないよ」などという言葉を、選手の口から聞かなくて済むのではないかと思う。

ナガオ勝司

1965年京都生まれ。東京、長野を経て、1997年アメリカ合衆国アイオワ州に転居。1998年からマイナーリーグ、2001年からメジャーリーグ取材を本格化。2004年、東海岸ロードアイランド州在住時にレッドソックス86年ぶりの優勝を経験。翌年からはシカゴ郊外に転居して、ホワイトソックス88年ぶりの優勝を目撃。現在カブスの100+?年ぶりの優勝を体験するべく、地元を中心に米野球取材継続中。 訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員。

(2014年7月22日「Do ya love Baseball?」より転載)