猫と暮らせる住まいを考える-(その2)障害は大家さんの誤解:研究員の眼

猫が飼える住宅であることを付加価値にして顧客に訴えよう、他の競合物件と差別化しよう、という発想が出てこないのが不思議です。
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賃貸住宅で猫の飼育可能物件が少ない大きな理由は、猫の習性や飼育について誤解している大家さんが多いことだと思います。

犬はオーケーでも猫はダメという大家さんに理由を聞くと、だいたい次のような答えが返ってきます。

曰く、猫の爪とぎでふすまや障子、畳、床、ドア、壁紙がボロボロになる、放し飼いをする人が多いので近隣住民とのトラブルになりやすい、オシッコの臭いがきつい、発情期に気味の悪い声で鳴く、二頭以上いれば夜中に大運動会(要するに室内での追いかけっこ)をするので他の住人に迷惑、などです。

もちろん、過去にルーズな住人が内緒で野良猫を出入りさせて部屋をボロボロにし、近隣にも迷惑をかけたうえ、退去や修繕費の支払いなどでもトラブルになったような苦い経験があれば、猫の飼育に不寛容になってしまうのはやむをえないとは思います。

しかし、アパートや賃貸マンションでは、ふすまや畳、壁紙などは傷が付かなくても古くなったら取り替えるのが一般的なルールですから、「ペット飼育可」としたうえでどうしても不安なら、猫の飼育の場合は敷金を多めに取るとか、修繕についてあらかじめ契約をきちんと決めておくなどすれば大きな問題はないのではないでしょうか。

また、猫は犬より尿の臭いがきついといわれますが、基本的に綺麗好きでトイレはいつも決まった場所でするので、驚いて失禁したり病気だったりしない限り、他の場所でお漏らしするようなことはほとんどありません。

トイレに消臭効果のある砂を使い、住人がこまめに掃除や換気をすれば近隣住人は気にならないと思われます。不妊去勢手術を入居の条件にすれば、発情期にオシッコを飛ばすスプレー行為や鳴き声、オス同士のケンカはずいぶん抑制できるはずです。

そもそも古いアパートなどの中には、地主の節税目的で建てられた低コスト・低品質の建物が多く、部屋の壁は薄くて窓の防音性能も低いため、ペットがいなくても隣人や近隣との騒音トラブルが発生しがちです。

また、もともとペット飼育を想定した内装や契約内容、管理ではないので、面倒なことを嫌う保守的な大家さんが、「ペット飼育不可」としたがる理由も理解できなくありません。

さらに、これまでは犬に比べて猫を飼っている世帯が少なかったので、犬の飼育は身近に感じても、猫の飼育経験がなければ猫独特の習性などはよくわかりませんし、昔ながらの室内と屋外を自由に行き来する猫の飼い方しかイメージできない大家さんも多いのだと思います。

このように、猫飼育不可の賃貸住宅が多いのは、過去の市場慣習や猫の飼育に対する先入観に囚われている大家さんに大きな原因があるといえそうです。

しかし、少子高齢化などで競争が激しくなっている賃貸住宅マーケットを展望すれば、猫が飼える住宅であることを付加価値(売り物)にして顧客に訴えよう、他の競合物件と差別化しよう、という発想が出てこないのが不思議です。

これは、賃貸住宅経営が本来の目的ではなく、相続税対策としてアパートや賃貸マンションを建てる地主(大家さん)が多いためだと思われます。

そんな大家さんは、マーケット動向に関心が低く、空き室が徐々に増えていても、そこそこ入居者がいて銀行への借入金返済に滞りがなければ問題ないという感覚でしょうから、愛猫家のために内装や管理のあり方をわざわざ見直すことは考えにくいです。

特に、経営を建設会社などに任せてしまうサブリース(転貸)方式では、所有と経営が完全に別になるだけに、大家さんに経営感覚を求めること自体無理な話かもしれません。

さらに残念なことに、猫の飼育に関する誤解や偏見は、大家さんに限らず住宅の設計者や仲介、管理を行う街の不動産屋さん、分譲マンションを建設・販売する大手不動産会社など不動産・建築関係者でも少なくないように思います。

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(注)このコラムは3回連続で、2015年11月17日発売予定の光文社新書『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス~(山本葉子・松村徹共著)(*1)』の内容の一部を加筆修正したものです。山本葉子は猫カフェ型の開放型シェルターの運営を行う特定非営利活動法人(NPO法人)東京キャットガーディアン代表です。同団体は、設立から7年を迎えた2014年度末時点で里親への譲渡総数は4164頭、2015年9月末では4501頭という実績を上げている動物保護団体です。

(2015年11月9日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 不動産研究部長