「土用の丑の日」とは? なぜ、うなぎを食べるのか ⇒ あの人の広告に騙されている可能性

日本では「土用の丑の日には、ウナギを食べる」という習慣が根付いていますが、なぜなのでしょうか。というか、そもそも「土用の丑」とは何なのでしょうか。
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時事通信社

うだるような蒸し暑さに覆われた7月25日の東京都心、巷のスーパーや百貨店の鮮魚コーナーにはウナギの蒲焼きがズラリ。街を歩けば、ウナギ専門店の前には多くの人が列をなしています。そして、そこには「土用の丑」と書かれたポスターが貼られています。

そう、7月25日は「土用の丑の日」です。

日本では「土用の丑の日には、ウナギを食べる」という習慣が根付いていますが、なぜなのでしょうか。というか、そもそも「土用の丑」とは何なのでしょうか。

■そもそも「土用の丑」ってなに?

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日本橋いづもやのうな重

幼いころ、私は「土用の丑の日」を「土曜の牛の日」と勘違いし、「夏は土曜日に牛肉を食べるのか!」とトンチンカンなことを考えていたことがありましたが、実際は全く違いました。

「土用の丑の日」は、日本人の生活と関係の深い「暦」と関係があります。

まず「土用」。これは暦の上で「立春」「立夏」「立秋」「立冬」のそれぞれ直前18日間のことです。現代で「土用」と言えば、立秋(8月8日ごろ)前の18日間の「夏の土用」を指すことが多いです。

陰陽道と関わりの深い思想「五行説」では、世の中の万物は木・火・金(金属)・水・土の5つの元素から成り立つと考えられています。五行説は季節とも結び付けられ、「木」は春、「火」は夏、「金」は秋、「水」は冬、そして「土」はそれぞれの季節の変わり目を象徴するとされています。

また、毎年の「干支」があるように、暦の上では日付に十二支が割り当てられています。つまり、立秋の直前である「土用」の期間のうち「丑」の日にあたるのが「土用の丑の日」となります。

2017年の「土用の丑の日」は7月25日と8月6日の2回となります。

さて、ここまで「土用の丑の日」について解説してきましたが、一つ気になることがあります。

それは…

「ウナギぜんぜん関係ないじゃん!!!」

ということです。

では、なぜ「土用の丑の日」に、ウナギを食べる習慣が根付いたのでしょうか。

■「土用の丑の日はウナギを食べよう」は江戸時代から?

「『う』のつくものを食べると夏バテしない」という言い伝えがあったなど諸説ありますが、最も有名なものは江戸時代の発明家・平賀源内が、うなぎ屋の広告PR案として考えたという説です。

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平賀源内肖像

とある江戸のウナギ屋が、平賀源内に「商いがうまくいっていきません。どうやったら夏にうなぎが売れるでしょうか」と相談したそうな。

すると源内先生、「けふ(きょう)は丑の日」と書いた張り紙を書いて、宣伝しなさいとアドバイス。おかげで店は繁盛したそうです。でもって、これを他のウナギ屋も真似をして、風習として根付いた…というものです。

■日本人にとって、ウナギは身近な食べ物だった

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縄文時代の遺跡「浦尻貝塚」(福島県南相馬市にある)からは、魚の骨や貝殻などと一緒にウナギの骨も見つかっています。どうやら、ウナギは日本人にとって昔から身近な食べ物だったようです。

「万葉集」の中にも、大伴家持が詠んだこんな歌があります。

「石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻とりめせ」

(現代語訳「私は石麻呂に言ったのです。夏バテにはウナギが良いらしいから、取ってきて食べなさいと」)

古典落語の「しわい屋(始末の極意)」には、ウナギの蒲焼きを焼く匂いをおかずにご飯を食べるというケチな男が登場します。日本人の食文化として、ウナギが根付いていたことが伺えます。

ウナギといえば、最近では「将棋界のレジェンド」として知られる加藤一二三九段が、対局時の食事に「昼も夜も、うな重」を食べるというエピソードに注目が集まりました

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加藤九段がよく出前をとった「ふじもと」のうな重(松)

■ニホンウナギは絶滅危惧種

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ウナギの稚魚(シラスウナギ)

「土用の丑」の日に多くの人が舌鼓を打つウナギですが、資源の枯渇が心配されていることは知っておかなくてはなりません。

近年はウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁獲量が減少し、価格が高騰。密漁も跡を絶ちません

2014年には国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを「絶滅危惧種」に指定しました

いまのところ輸出入の規制はかけられていませんが、仮に輸入がゼロになった場合、水産庁は「流通量は2割程度に減ると試算」しています(朝日新聞・2016年07月30日夕刊)。

ウナギを供する専門店の中には、仕入れ価格の高騰で値上げを強いられる店、なかには廃業する店も出ています。

一方で、中には資源の保護を訴える専門店も。東京都八王子市の「うなぎ高瀬」は、店内に「土用の丑の日は休業します」「資源を大切に守り、日本の食文化『鰻』を未来に残したい」という張り紙を掲示。それをお客さんがTwitterに投稿し、多く支持を集めました。

資源保護の取り組みとして、代替品の開発も進んでいます。2016年には近畿大学が「ウナギ風味のナマズ」を手がけました。いまではスーパーでもナマズが売られています

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「近大ナマズ」

またニホンウナギにかわって、東南アジア産の「ビカーラ種」のウナギを養殖し、安値での販売を目指している業者もいます

また、難しいとされる「ウナギの完全養殖」を目指す試みもはじまっています。2010年には国立研究開発法人「水産研究・教育機構」が完全養殖に成功。天然のシラスウナギに依存せず大量生産を可能にするため、技術開発が進められています。

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銀座・竹葉亭のうな重

暑さが本格的になってきた日本列島、「暑い、暑い」と嘆いたところで、いまだ秋風には程遠い…。となれば、たまにはうなぎ屋の暖簾をくぐって、粋な時間を過ごしてみたいと思ったりもします。

一方で、資源枯渇の現状を鑑みると「食べたいけど、守りたい」「守りたいけど、食べたい」と、そんな葛藤に頭を抱えてしまいます。日本人が最もウナギを食べるとされる「土用の丑の日」ですが、ならばせめて私一人ぐらいはウナギを食べずに過ごしてみようかと思います。

あ、最後に一つだけ。食通で知られた北大路魯山人は、こんな事を言っています。

「うなぎはいつ頃がほんとうに美味いかというと、およそ暑さとは対照的な一月寒中の頃のようである」

(北大路魯山人『鰻の話』)

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