今市事件、容疑者は偽ブランドで生計

今市事件で逮捕された勝又拓哉容疑者は、偽ブランド品を売るなどして生計を立てていた。
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時事通信社

容疑者宅からビデオ押収、逮捕の決め手に 栃木・今市

栃木県今市市(現日光市)で2005年、市立大沢小学校1年の吉田有希(ゆき)さん(当時7)が下校途中に連れ去られて刺殺された事件で、勝又拓哉容疑者(32)は事件後も栃木県内に住み続け、骨董(こっとう)市で偽ブランド品を売るなどして生計を立てていた。2005年12月の事件当時は23歳。車で関東近辺の骨董市などを転々としていた時期にあたる。

「母親が客に対応し、息子(勝又容疑者)が店番をしていた」。勝又容疑者と母(55)=商標法違反罪で公判中=が十数年前から出入りしていた茨城県内の骨董市の関係者は振り返る。

露店に並んでいたのは偽ルイ・ヴィトンのバッグや財布など。本物なら10万円を超えるものを、2万~3万円で売っていたという。偽ヴィトンのかばんを販売目的で所持していたとして母とともに今年1月、栃木県警に逮捕された。

捜査関係者らによると、母の手伝いで偽ブランドの販売を始めたのは02年ごろ。母が仕入れや販売を手がけ、勝又容疑者は自宅に隣接する保管倉庫から骨董市まで車で運んでいた。自ら中国まで買い付けに行くこともあったという。

有希さんの遺体が見つかった茨城県常陸大宮市の現場付近も骨董市巡りで訪れ、土地勘があったというのが捜査本部の見立てだ。

知人や捜査関係者らによると、勝又容疑者は父の古里の台湾と日本とを行き来して育った。その後、有希さんと同じ栃木県今市市(現日光市)の市立大沢小に転入し、1995年に卒業。宇都宮市内の中学校に転校するまで、連れ去り現場の近くで暮らしていた。

「転入時はほとんど日本語が話せず、絵本を教材に基礎的な言葉を勉強していた」と勝又容疑者を知る元教員。中学卒業後、日光市内のホテルで働いたがすぐに辞めた。その後もコンビニのアルバイトや派遣労働に就いた。いずれも長続きしなかったという。

栃木県警の勝又容疑者宅の家宅捜索では所持が禁じられている刃物が複数、押収された。幼児性愛に関するものや猟奇的なものが映った画像も見つかったという。

事件前後に容疑者が暮らしていたのは、連れ去り現場から数キロの鹿沼市内。近隣住民は「物腰が柔らかく、とても重大な犯罪を起こすようには見えない」と驚きを隠さなかった。知人の男性は「家でゲームをして過ごすことが多く、社交的ではなかった。事件のことは全く心当たりがない」と話した。

■警察「自信を持って逮捕」

「慎重かつ粘り強い捜査を継続し、自信を持って逮捕するに至った」

栃木、茨城両県警の合同捜査本部が置かれている栃木県警今市署で3日午後5時から開かれた会見で、栃木県警の阿部暢夫(のぶお)刑事部長はそう語った。一方で、「逮捕まで長期間を要し、ご遺族にご心労をおかけし、多くの県民の皆様にもご心配をおかけしたことをおわびする」とも述べた。

事件から8年半が過ぎたが、捜査本部は約200人の態勢を維持して捜査を続けてきた。勝又拓哉容疑者(32)が捜査線上に浮かんだのは、事件発生から数カ月後だった。住民から、連れ去り現場の近くに「不審者がいる」との情報が寄せられた。連れ去り現場と遺棄現場に土地勘がある▽平日の日中に車で移動できる▽刃物や幼女などに興味を持つマニア――事件の特徴から犯人像を描く「プロファイリング」の結果とも一致した。

ただ、捜査関係者によると、勝又容疑者から複数回、任意で事情を聴いたが、当時、本人は関与を否定。遺留物なども少なく、逮捕には至らなかった。

転機は今年1月。内偵捜査を続けるなか、偽ブランド品を販売目的で所持していたとして、勝又容疑者を商標法違反容疑で現行犯逮捕。家宅捜索で、多くの画像などを押収した。分析を進めた結果、その中に、有希さんとみられる女児が映ったビデオ画像があることを確認。「容疑性を高める証拠」になると判断し、殺人容疑で逮捕した。

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(朝日新聞社提供)