IUU漁業の撲滅を目指して、メディア向け勉強会を開催

違法、無報告、無規制に行われる「IUU漁業」が、世界の各地で海の自然環境を破壊し、水産資源を脅かす、大きな国際問題となっています。

違法(Illegal)、無報告(Unreported)、無規制(Unregulated)に行なわれる「IUU漁業」。今、このIUU漁業が、世界の各地で海の自然環境を破壊し、水産資源を脅かす、大きな国際問題となっています。

世界第2位の水産物の輸入大国である日本は、この問題にどうかかわり、取り組んでいくべきなのか。WWFジャパンは2017年5月11日、さまざまな見地からIUU漁業問題に取り組むNGO、企業と共同で、対策の方向性を考えるメディア向け勉強会を東京で開催しました。

深刻化するIUU漁業を撲滅するために

IUU漁業とは、違法・無報告・無規制に行なわれる漁業のことで、英語の"Illegal, Unreported and Unregulated"の頭文字を並べたものです。

このIUU漁業が今、世界の各地で、漁業資源の乱獲や違法取引を呼び、海の自然環境を損なう問題として深刻化しています。

さらに、この問題は海で働く人たちの人権問題を引き起こしたり、麻薬や武器の密輸といった他の組織犯罪との関係も指摘されるなど、社会的、国際的な観点からも、対策の強化が求められるようになりました。

IUU漁業への対策に必要なことは、まず各国の漁業が、それぞれの国内法、また国際法を遵守した形で行なわれるよう、法執行を徹底すること。

さらに、漁獲した水産物の流通経路(サプライチェーン)上で、違法なものと、合法的なものが混ざらないよう、管理を徹底することです。

また、環境や社会に配慮して生産される水産物を積極的に取り扱い、流通市場からIUU漁業による水産製品を締め出すといった取り組みにも効果が期待できます。

今回、WWFジャパンは6つの団体、企業と共に開催したメディア向け勉強会の中で、問題の概要と最新の世界的な動向、対策について、各団体の視点から紹介。

世界有数の水産大国である日本が今後、IUU漁業撲滅を目指して、どのような役割を果たすべきなのかを考えるため、メディア関係者の皆さまと情報を共有しました。

今後、注目されることが予想されるIUU漁業に焦点を当てた、この勉強会には、30名近いメディア関係者が参加。その関心の高さがうかがわれました。

発表を行なった各団体および内容の詳細は、下記をご覧ください。

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発表目次

1. WWFジャパン: IUU漁業の問題とPSMA(寄港国措置協定)

2. GR Japan株式会社:欧米のIUU漁業規制と日本の政策の現状

3. 株式会社シーフードレガシー:国内に流通する天然水産物を対象とした「透明性のあるトレーサビリティ」のガイドラインの作成について

4. Ocean Outcomes日本プログラム:漁業改善プロジェクトを通じたトレーサビリティの検証と実践

5. セイラーズフォーザシー日本支局:IUUと一般消費者の意識喚起 ~ウナギを例に

6. グリーンピース・ジャパン:洋上転載が引き起こす人権問題、日本とのつながり

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IUU漁業の問題とPSMA(寄港国措置協定):WWFジャパン 滝本麻耶

WWFジャパン水産担当の滝本麻耶は、IUU漁業がもたらしている世界の水産資源への脅威、日本の実情、その解決の方向性について話しました。

IUU漁業には、国内法や国際法に反する違法操業に加えて、漁獲量の報告がなされていなかったり、過小報告であったりするケースが含まれます。

また、回遊するマグロ類などは、魚種や海域ごとに資源管理を行なう機関として地域漁業管理機関(RFMOs)が設立されていますが、その海域において認められていない漁船が操業する問題があります。

この漁業が問題になっている背景として、1970年代以降、健全な資源状態の魚種の割合が大きく減少していることを指摘し、これは乱獲や獲りすぎが原因とされていると話しました。

なかでも、世界のIUU漁業による漁獲を金銭に置き換えた推定値は年間で100~235億ドル(1兆1400億円~2兆6800億円)にも上るとされ(出典FAO)、日本の年間漁業生産高(1兆5039億円)に匹敵するか、これを上回る規模となっており、極めて深刻な状態です。

IUU漁業は世界の水産資源が減少に向かう中、その資源管理を脅かす存在となっています。

WWFジャパンは、日本でIUU漁業にさらされるリスクが特に高いと見られる10魚種を選定し、詳細なリスクアセスメントを行ない、影響の程度を数値化して公表しました。

その結果、ウナギ類、ヒラメ・カレイ類、ニシン類、アメリカオオアカイカ、タラバガニ類、サバ類、タコ類、サケ・マス類、スメルト(アユ・ワカサギなど)、ズワイガニ類の10魚種のうち、ウナギ類、ヒラメ・カレイ類などが高い数値を示し、IUU漁業による漁獲が多いと見られる現状を報告しました。

そして、IUU漁業を防ぐことのできない要因として、流通経路(サプライチェーン)の問題にふれました。つまり、流通過程が複雑で、透明性が不足しているため、IUU漁業によって漁獲された水産物の動きをたどるのが困難となっており、これを市場から排除することができないのです。

滝本は、今後の日本の進むべき方向性として、2016年に発効した国際協定であるPSMA(寄港国措置協定)への締結を2017年5月の国会で承認されたばかりの日本が、実効性のある運用を行なう必要があることなどを示しました。

PSMAは、IUU漁業の防止・抑制・廃絶を目指した法的拘束力のある初めての国際協定です。

船舶は入港する国へ、積荷についての情報提供を行なわなくてはなりません。また、IUU漁業の疑いがある際には、寄港国は船舶に検査を実施することができます。

こうしたことを通じて、 IUU漁業に関わっている漁船の入港や、IUU漁業由来の水産物の水揚げを拒否する規制的措置を実施できるようになります。つまり、IUU漁業によって漁獲された水産物の流通を防止できるのです。

すべての水産製品について、漁場から消費者まで、透明性のあるサプライチェーンが維持されるとともに、トレーサビリティ(漁場から小売店の売り場まで流通経路をたどれること)が確保されることの重要性を強調して、話を締めくくりました。

欧米のIUU漁業規制と日本の政策の現状:GR Japan株式会社 粂井真氏

環境問題の政策提言に強みのあるGR Japanの粂井真氏は、IUU漁業のおよぼす影響について、水産資源の問題だけにとどまらない根の深さを指摘した上で、EUおよびアメリカの問題解決に向けた政策面の取り組みを紹介しました。そして、こうした国々にまだ後れを取っている日本の現状についても話しました。

IUU漁業のおよぼす影響として、同氏は、以下の問題を指摘しました。まず、IUU漁業は、水産資源管理の取り組みを損ね、水産資源の持続的な利用に深刻な影響をもたらすこと。漁獲が統計に反映されないため、資源管理の前提となる資源評価を困難にするからです。

また、安価な水産物が流通し、ルールを守って操業している漁業者の収入に打撃を与えていることが懸念されます。

さらに、IUU漁業は、麻薬や武器の密輸といった、やはり違法な行為に手を染める組織犯罪にも関係があるとされ、安全保障上の問題も無視できないと述べました。

同時に、漁業の法律を守る意識の低さは、労働法規の遵守意識の低さにも通じ、人身売買や児童労働といった労働法上の問題を抱えているケースがあるとして、IUU漁業の深刻な影響の広がりを概観して見せました。

政策面での取り組みとしては、EUは2010年に規制的措置を導入し、域内でのトレーサビリティを強化するとともに、すべての輸入水産物に正当な漁獲であること(IUU漁業による漁獲でないこと)の証明書を添付することを義務づけました。

これに対応するため、EUに関係する多くの国々が漁業政策を重要な政策課題と位置づけるようになったと言います。これは、国際的にも大きな意味を持ったと粂井氏は評価しています。

アメリカも、2015年3月にIUU漁業の取り締まりに向けたアクションプラン(行動計画)を策定。そして、2018年1月1日からは、「輸入水産物モニタリングプログラム」の法令遵守が求められるようになり、IUU漁業対策が強化されます。

これにより、IUU漁業のリスクの高い特定の魚種については、厳密なトレーサビリティと合法性の証明が担保されることになると話しました。

これに対して、日本では、冷凍マグロ、南極地域のメロ、ロシア産カニになどについては漁獲証明書等が義務づけられてきたものの、そのほかの魚種については、今後、具体的な対策を検討することが課題となります。

2017年4月に策定された水産基本計画ではじめてIUU漁業対策が明記され、具体的には、日本も参加する地域漁業管理機関におけるIUU漁業対策の強化を主導するほか、日本周辺海域での違法操業対策を一層強化することなどが定められています。

国内に流通する天然水産物を対象とした「透明性のあるトレーサビリティ」のガイドラインの作成について:株式会社シーフードレガシー 花岡和佳男氏

株式会社シーフードレガシーの花岡和佳男氏は、水産資源が減少し、絶滅危惧種に指定される海の生物が増加する今日の海洋環境をにらみ、企業による水産物の持続可能な調達をサポートする業務を行なうなどして、課題解決に取り組んでいます。

花岡氏は、アメリカのボストンやベルギーのブリュッセルで開催されたシーフードエキスポで、鮮度や価格だけでなく、サステナビリティ(持続可能性)とトレーサビリティが重視されているのを目の当たりにした経験を踏まえて、株式会社シーフードレガシーとして「国内に流通する天然水産物を対象とした透明性のあるトレーサビリティのガイドライン」を策定し、本勉強会で公表しました。

これは、消費者に直接水産物を提供する小売、飲食業のほか、水産物の流通に関わるすべてのステイクホルダーを対象に策定されたトレーサビリティ確保のための手順を定めたガイドラインです。

これを活用すれば、漁獲から水揚げまで、水揚げから販売店舗までの流通経路の情報が明らかになります。また、トレーサビリティを決められたフォーマットで電子化し、保存したあと、可能な範囲で情報公開すれば透明性が高まります。そして、この情報は第三者機関によって検証されることで、信憑性が担保されます。

このガイドラインを、重要な魚種から適用していくことが望ましいと話し、そのためのサポートとコンサルティングをおこなう用意があると、花岡氏は述べました。

漁業改善プロジェクトを通じたトレーサビリティの検証と実践:Ocean Outcomes日本プログラム 村上春二氏

Ocean Outcomesは、漁業者や流通業者などと協力し、次世代につながる豊かな水産資源と地域の反映を目指し活動しています。Ocean Outcomes日本プログラムの村上春二氏は、漁業の現場に入り込み、トレーサビリティの確立を目指す取り組みを行なっています。

村上氏は、東京湾における持続可能なスズキ漁の実現を目標に、漁業改善プロジェクト(FIP)を漁業者と協力し実施しています。その活動内容には、トレーサビリティの確立も含まれます。大事なことは、漁業者をはじめ、関係者が実践可能なトレーサビリティの方法をまとめることだと言います。

同氏は、そのため、トレーサビリティ審査を通じて現状を把握し、課題を特定、そして、実践的なトレーサビリティを構築するうえで必要な内容を、このスズキ漁を通じて洗い出している最中であると話しました。

特定魚種の流通経路や課題を明らかにできれば、IUU漁業の水産物を排除する手法の構築につながり、同時にその他の魚種に対する応用可能な手法の構築にも役立ちます。

村上氏は、そうした現場レベルでの現状把握と課題の特定、そして実践可能な手法に関して現場関係者と議論を重ねていくことで、持続可能な漁業を目指し、課題解決に取り組む漁業者を守ることのできる道筋にしたい、と話しました。

IUUと一般消費者の意識喚起 ~ウナギを例に:セイラーズフォーザシー日本支局 井植美奈子氏

セイラーズフォーザシーの井植美奈子氏は、消費者の意識向上を通じて、資源量が危機的状況にある魚種の保護を図ろうとする取り組みについて説明しました。

同社は、今年から、IUU漁業について多くの人々に知ってもらう取り組みに力を入れており、現在は、日本の消費者によく知られる魚種であるウナギに注目しています。ウナギは密輸も多いとされることからIUU漁業の問題を抱える典型的な魚種であるということです。

特に、「土用の丑の日」に日本のウナギの年間消費量の54%が消費されるというウナギは、「消費者の意識」によって、その流通や消費が大きく左右される魚種。

つまり、消費者の意識を変革することで、消費量や漁獲量を抑えたり、負荷を分散させることのしやすい魚でもあるということです。

こうした関係性や、IUUの実態、実際の消費の影響について広く認知を高めることは、消費者意識を変えていく上で欠かせないステップであるといえます。

井植氏は、女性誌に連載枠を確保できたため、今後、ふだん水産の話題にふれることが少ない層に向けても、IUU漁業の問題点を分かりやすく伝えて、消費者の意識啓発を進めていきたいと話しました。

洋上転載が引き起こす人権問題、日本とのつながり:グリーンピース・ジャパン 小松原和恵氏

グリーンピースが問題視しているのは、IUU漁業と関係する人権侵害です。

この日、同団体が公表した日本語版報告書『変化の波 ~タイの遠洋漁業における人権侵害と違法漁業~』をもとに、小松原和恵氏は問題提起をしました。

過剰漁業に長年取り組んできたグリーンピースは、海洋においても、過剰漁業の影で起きている人権侵害の問題が大きいことに気づいたと言います。

公海上などで、船から船へと魚が積み替えられる洋上転載には、違法に漁獲された魚が合法的な魚と混入して流通してしまう問題があります。食糧と燃料の補給も洋上で行なわれるため、港に寄ることなく人目に触れずに、ときには1年以上の長期にわたって違法操業を続けることができると言います。

ここに、人権侵害が起きやすくなる土壌があると指摘しました。人身売買で安く連れてこられた労働者が長時間の労働を強制されたり、不当に安い賃金で働かされていたりする例が、タイで確認できたということです。

すべての水産物が人権侵害を伴うわけではないとしつつも、その製品がどのように漁獲されたか、そのサプライチェーンをトレースバック(あとをたどる)できないために、そうした懸念が生じるとしました。また、そうして漁獲された魚や缶詰などの水産製品が日本に入ってきている可能性は否定できないと述べました。

海外では、署名活動を展開するなどして人権問題を啓発した結果、人権侵害が疑われる水産企業からの水産物の調達を中止したスーパーが現れるなど、企業もリスクを認識し、動き始めているということです。

日本でも同様に、消費者から声を上げて、企業が水産物のトレーサビリティを追究するよう後押ししていくことが大切であると小松原氏は語りました。

日本のIUU漁業対策強化を求めて

多くの魚種で水産資源の枯渇が心配される中、IUU漁業対策と、その解決策のひとつとなるトレーサビリティの確立において、現在、日本は立ち後れていることが明らかとなりました。

各話題提供者から報告された海外のIUU漁業対策の動向を踏まえ、日本はこの問題に関わる政策の質を一段と高めていく必要があります。

この勉強会を開催したWWFジャパンをはじめとする各団体、各社は、日本政府に着実なPMSAの実施を求めていきます。また、トレーサビリティの十分な確保と消費者への情報提供による意識喚起などを行なうことも大切であると考えています。

2016年4月の海洋安全保障に関するG7外相声明およびG7新潟農業大臣会合宣言などに示された国際的コミットメントを日本は果たし、最新の水産基本計画に掲げたIUU漁業対策を現実のものにしていかなくてはなりません。

日本市場に入る、すべての水産製品のトレーサビリティを確保することなど、その方向性の多くは、本勉強会で示されました。

司会進行を努めたWWFジャパンの山内愛子は、閉会にあたって、今後の日本国内でのIUU漁業対策の動きに、メディアが注目していくよう求めました。

IUU漁業に関するメディア勉強会の資料

2017年5月11日の発表資料はこちら

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