今こそ考えてみたい<9条だけじゃない>憲法

憲法改正が現実味をもって叫ばれる今だからこそ、
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2012年4月、自民党が「日本国憲法改正草案」を発表しました。そのなかに、9条を改正し自衛隊を「国防軍」に改編すると記載されていたことから、国防、自衛隊をめぐる議論を中心に、「憲法」を取り巻く議論が熱気を帯びてきています。

さらに2014年7月、安倍政権は9条を「解釈」し、集団的自衛権の行使容認を閣議決定。それを踏まえて今国会では、自衛隊法などの改正が本格的に審議され、日本はアメリカとともに世界中で戦争ができる国に変貌を遂げようとしています。

このように、「憲法」の話題の中心には、いつも「9条」があります。

9条の価値というのは、第二次世界大戦の甚大な犠牲のもとにあらためて再認識された、人類普遍のものです。その文脈で考えるならば、実際の人ではない憲法の条文に対して、「9条にノーベル賞を」という動きが国内外であることもうなずけます。

今年は、戦後70年の節目の年です。私たちは、先の大戦に思いをはせ、二度と戦争をしてはいけないという誓いを新たにしなければなりません。この70年間、日本が戦争で他国の人を殺さず、日本人が戦死しなかったのは、ひとえに9条があったからにほかなりません。戦争は生活の根本を破壊し、すべての人権を否定する最大悪です。その最大悪を否定する9条は、まさに憲法の顔であり、私たち日本国民の宝なのです。

憲法こそが日々の暮らしを守っているんです

他方、憲法には9条を含め103条の条文があります。しかし、9条についてはある程度知っている人でも、それ以外の条文がどのようなことを規定し、私たちの生活にどのように関わっているのかを知る人はあまり多くないのではないでしょうか。

9条はたしかに私たちの生活の基礎である平和を支える、とても大切な条文です。

ただ、平和の下で生活する私たちの暮らしに目を転じてみると、じつはその他のたくさんの権利が憲法により守られているのです。そして、その憲法の庇護のもとで、私たちは小さな幸せを守りながら、つつがなく日々の生活を送れているのです。その点で、憲法改正が現実味をもって叫ばれる今だからこそ、

今回上梓した『だけじゃない憲法~おはようからおやすみまで暮らしを見つめる最高法規』(5月8日発売)という本は、憲法改正が叫ばれる今だからこそ、あえて9条から離れ、9条だけじゃない憲法の価値を探ってみよう、そのような思いで書いた本です。

日常生活が憲法によって守られているといってもピンとこないかも知れませんので、具体的な例をいくつか見てみましょう。

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もし憲法21条がなければ...

憲法21条は、表現の自由を規定しています。私たちが、毎朝配達されてくる朝刊でニュースをチェックすることができるのも、憲法21条があるからと言っても過言ではありません。

戦前は治安維持法などの法律により、政府の都合の悪い情報は事前に黒く塗りつぶされてしまったり、新聞自体が発行禁止になったりしていた事実があります。正確な情報がなければ、私たち主権者は、選挙で適切な投票もできませんし、政府の暴走を止めることもできません。

この点に関連して、最近、問題報道をしたということで、NHKとテレビ朝日の幹部が自民党に呼び出されたというニュースを見ました。私は、政権与党が報道内容に干渉するような行為自体が、表現の自由、報道の自由に対する大きな侵害行為だと思います。もちろん、表現の自由、報道の自由は憲法21条によって守られてはいますが、ともすれば、時の政権によって侵害されかねません。私たちは、憲法21条の価値を知り、それを政府に守らせていかなければならないことをあらためて感じました。

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もし憲法27条がなければ...

憲法27条は、労働者の権利を保障しています。昼休みに「今日は、どこのお店にランチに行こうかなぁ」なんて悩めるのも、憲法27条が労働条件をそれぞれの会社に任せっきりにせず、労働基準法などの法律で労働者を保護するよう規定しているからなのです。

産業革命のころの児童労働や女工哀史を引き合いに出すまでもなく、使用者と労働者の力関係はそれ自体けっして対等にはなり得ません。力の弱い労働者はいつの時代も劣悪な労働条件を強いられてきたのです。

そこで近代憲法では、労働者の保護を国の責務とし、各種施策をとることが国の使命となりました。日本国憲法では、27条が国に労働者の保護を要請し、それをうけて労働基準法などが整備されました。

その憲法の保護があってはじめて、私たちは昼休みをきちんととることができ、ランチで何を食べようかという悩みも持てるのです。現代の私たちにとっては当たり前でも、過酷な労働条件の下にあった過去の労働者からすれば、ランチの悩みなど考えられないくらい贅沢な悩みと言えるかもしれません。

ただ、最近ではブラック企業にまつわるニュースが世間を騒がせているのと歩調を合わせるように、「残業代ゼロ法案」や「一生派遣法案」と批判されるような法案の審議が進められつつあります。私には、労働者の保護を後退させるような動きが政府の中にあると感じられて仕方ありません。私たち主権者は、日々の生活を守るためにも、政府が憲法27条の責務を守っているか、常に監視していかなければならないのでしょう。

9条は他の条文を生かすための前提条件

このように、憲法は9条だけでなく、他の条文も私たちの生活と密接なかかわりがあり、いずれも大切な条文なのです。そう、

とはいえ、9条がきちんと守られていることは、その他すべての条文と密接に関係していることもまた事実です。どういうことかと言えば、9条によって守られている平和は、すべての人権の基礎であり、前提です。もしも戦争放棄を謳った9条がなく、日本が戦争状態に突入したとすれば、その他の条文に規定された権利もとうてい実現することはできません。逆に、せっかく9条があっても、他のさまざまな権利が保障されていなければ、私たちは安心して生活することができません。

9条以外の条文を知ることで、かえって9条の価値を認識し、憲法全体に貫かれている理念を感じとる......。9条の是非が問われるこのタイミングで必要なのは、むしろそういうことなのだと思います。

冒頭に紹介した自民党改憲草案の眼目はもちろん9条の改正です。ですが9条を変えるということは、それと同時に、9条以外の条文によって守られている私たちの生活を根底から脅かす可能性があるということを忘れてはなりません。

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なお、本書は、「明日の自由を守る若手弁護士の会」(=通称・あすわか)の活動から生まれたご縁でできました。「あすわか」は、「自民党改憲草案」に反対することをきっかけに集い、全国各地で開催している憲法カフェなどを通じて、憲法の本質や「自民党改憲草案」の危険性をわかりやすく伝える活動をしています。私自身も、ライフワークとして、この憲法カフェで日本国憲法の素晴らしさを伝えていくつもりです。