全員が「悪ノリ」を楽しむ「妖怪ウォッチ」プロジェクトチーム――試行錯誤から生まれた徹底した子ども目線

『妖怪ウォッチ』の生みの親、株式会社レベルファイブ 代表取締役社長/CEO日野晃博さんと、同社でゲーム開発チームを率いるディレクター本村健さんにお話を伺いました。
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日々の生活の中で、キャラクターを目にしない日はないくらい、今年の日本を席巻した『妖怪ウォッチ』。そんな『妖怪ウォッチ』の生みの親、株式会社レベルファイブ 代表取締役社長/CEO日野晃博さんと、同社でゲーム開発チームを率いるディレクター本村健さんにお話を伺いました。

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クロスメディアで生まれる相乗効果

―『妖怪ウォッチ』は子どもたちの間で絶大な人気を誇っていますが、その要因はどこにあるのでしょうか。

日野:『妖怪ウォッチ』は、ゲームの面白さはもちろん、テレビアニメやおもちゃ、漫画など、さまざまなポジションの人たちががんばってきました。そのクロスメディアの相乗効果が、すごいパワーになった結果だと思っています。たくさんの人が『妖怪ウォッチ』をヒットさせるために、いろいろアイデアを出したり、試行錯誤したりしながらやってきました。

―『妖怪ウォッチ』では、日野さんはゲームだけでなく、他のメディアにも関わっていらっしゃるのですか?

日野:そうですね。ぼくがテレビアニメやゲームなど全体の企画をまとめて、クロスメディアをしかける総合プロデューサーとして動いています。過去、『イナズマイレブン』と『ダンボール戦記』の2作品でクロスメディアをやってきた実績を認めて頂いたこともあり、ぼくが『妖怪ウォッチ』の企画をした時はとてもスムーズに、それぞれのメディアで新しいチームを作ってくれました。

―では、レベルファイブの中に、アニメや漫画などのチームがあるというわけではないのですね?

日野:はい。レベルファイブはあくまでもキャラクターデザインなどの基礎設定を作ってゲームを開発する役割で、テレビアニメや漫画など他のメディアのチームは社外にあります。

ゲームは子どもたちにとって「最上級の遊び」

―なぜゲームの企画段階からクロスメディアをしかけようと思われたのですか?

日野:子どもたちに向けてモノを作るときに、ゲームを普通に作っても売れません。ゲームソフトはみんな大人から子どもに広がっていくものなので。子どもたちにとって5,000円って、大金じゃないですか。お年玉を貯めたり、親に相当お願いをしたりしないと買えない。子どもたちにそこまでしてでも欲しいと思ってもらうには、ゲームだけでは難しいんです。まずはお金のかからないテレビアニメやお小遣いで買える漫画で『妖怪ウォッチ』を好きになってもらい、最上級の遊びとしてゲームがあるというステップが必要だと思っています。

―ゲームの開発と、アニメや漫画など他のメディアはどのように連携しながら作っていくのでしょうか?

日野:同時進行です。これもクロスメディアの大きな強みだと思うのですが、それぞれでアイデアを交換し合いながら作っています。本村たちがゲームを作りながら、アニメの人たちに提案をすることもあれば、その逆もあったりして。ふだんはまったく異なるコンテンツを作っている人たちがセッションすることで、いろんな分野のアイデアを集結させながら作り上げています。そういった意味では、売るときだけでなく、制作上でも刺激し合う感じがあって、相乗効果が生まれていますね。

―日野さんが最初に企画するときに、気をつけていることはありますか?

日野:ぼくが企画を考えるときは、完成度よりも"強固な発想"というか、絶対にこの作品でここだけは押さえなければいけないというところは大事にしています。もちろんあとでいろんなアイデアを加えていくのですが、最初の骨となる部分だけは、ほぼ誰の意見も聞かずに、かなり時間をかけてやります。そうしないと、だんだんぶれてしまうので。

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明るい"妖怪もの"って、新しい

―本村さんは過去のクロスメディアタイトルにも携わってこられたのですか?

本村:いえ、ぼくは二ノ国とか『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』といった大作系のタイトルを担当してきたので、クロスメディアは初めてです。

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―では、なぜ本村さんをディレクターに抜擢されたのですか?

日野:ぼくはディレクターを選ぶときに、その道でその世界を好きなやつを選ぶっていうのをポリシーにしていて。

本村:ぼくは、もともと妖怪好きなんです(笑)

日野:昔、妖怪ものの企画書をいろいろ出して来ていたんで。

本村:日野が「今度、妖怪ものをやろうと思っている」と言うので、「もちろんぼくがやりますよね?」みたいな感じでやらせてもらいました。

―本村さんは『妖怪ウォッチ』のコンセプトを聞いて、最初どう思われましたか?

本村:一番、衝撃的だったのが、妖怪ものって聞くと誰もが怖いものを連想すると思うんですけど、日野から見せられた企画は、妖怪なのにギャグとか、昼間の明るいイメージのものだったので、「これは新しいな!」と思って、すごく新鮮でした。「"売る"って、こういうことか」と思いましたね。

複数の企業を巻き込むチームワーク

要はスケジュール

―今回、『妖怪ウォッチ』を作る中で、最も苦労されたのはどんなところでしたか?

日野:社内では何といってもスケジュールですね。もうかつてないくらい多くのスタッフを投入しないと終わらなくて。クロスメディアって、絶対に何がなんでもスケジュールを守らないといけないんですよ。おもちゃの発売やアニメのスタートの時期など、段階的にスケジュールが決まっているので、誰かが足並みをずらすと、みんなが転けてしまう。ゲームだけだとたまに遅れることもあるのですが、クロスメディアでは許されないので。

本村:逆に言うと、スケジュール以外にはないですね。でも自分たちで首を絞めているところもあって。いろんなところからアイデアが生まれるので、ギリギリまで新しいアイデアを詰め込もうとしてしまうんです。前から決まっていたもので"できたら終わり"とすると、旬な感じじゃなくなるので。

日野:ほんと、新鮮な料理を作っている感じですよね。だいたいゲームって3〜4ヶ月前になったら、最終デバッグに入っているはずなのに、『妖怪ウォッチ』に関しては数週間前でもいじっているっていう、かなりヤバい橋を渡っていました。

時間をかけて勝ち取った信頼

―クロスメディアは3作品目ということですが、1作目の時から他社との連携は最初からうまくいっていましたか?

日野:とんでもない!最初はクロスメディアプロジェクトを成功させるんだという感じではなく、普通のクライアントと制作会社の関係というか、ゲーム会社がアニメ制作を仕切る事にアニメ制作会社側も違和感があったようです。「ひとつのチームとして面白いものを作りましょう!」と言い続けて来て、やっと今回うまくいったんです。

―なるほど。これまでの土台があったからこそ『妖怪ウォッチ』が成功したのですね。

日野:そうですね。1作品目の『イナズマイレブン』シリーズも国内外で累計770万本以上出荷しているので、成功といえば成功だったんですけど、クロスメディアプロジェクト側の立場からみると成功したイメージではなく、2作品目の『ダンボール戦機』は、メンバーの意識は上がってきていたけど、今度は結果がそれほどついてこなかった。でも、その過程で、ゲーム業界のクリエイティブを他の業界の人たちが少しずつ見直してくれるようになって、1作品目より2作品目、2作品目よりも3作品目の方がやりやすくなって、今は異業種間の壁のようなものは、一切なくなりました。みんなが楽しくやって、満足して、プロジェクトの結果も出たという、本当の意味での成功は、『妖怪ウォッチ』が初めてだと思いますね。

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成功の秘訣は、子どもたちと真剣に向き合ったこと

―本村さんが『妖怪ウォッチ』を作る上で一番面白いところはどこですか?

本村:ゲームの中に『妖怪ウォッチ』っていう世界ができあがっていくところですね。『妖怪ウォッチ』では町自体が主人公になるくらい、リアルに感じられる"箱庭"を一生懸命作っているんです。なので、子どもたちがゲームの中の遊び場で遊んでくれるのをイメージしながら作っていて、1で評判がよかったところを2ではもっと手応えを感じながら作り込んでいました。それに、ゲームを作りながら毎週アニメの放送があるので、ゲームの方で考えた妖怪がアニメで活躍したりするのを見るのも、すごく楽しいです。

日野:キャラクターがひとり歩きするからね。自分たちが考えたものに、いろんな人のアイデアが乗って、さらに面白くなっていくので。

―子どもたちの声は取り入れるんですか?

本村:もちろんです。主人公が小学生なので、子どもたちの悩みや今の流行をチームで調べたりして。ぼくにもちょうど小学生の子どもがいるので、どこが面白かったか聞いたりしながら、作っています。

―"子どもたちを見る"というのは、難しいことなんですか?

日野:ほとんどのプランナーって、会社の稟議を通すために、大人の目線をクリアする必要があることが多いですね。"周りの大人がみんな反対しても、子どもたちが面白いと思うものを作る"という考え方で作れてきたのは、幸せなことだと思います。ぼくは若い頃から企画をたくさん考えてきましたが、ボツを食らったことがないんです。つまり、上司の顔をイメージせずに、子どもたちの顔だけ思い浮かべていれば良い。プランナーとして幸せだなと思う点ですね。

変化に応じた強いチームにするために

―本村さんが他のタイトル含め、これからチャレンジしてみたいことは何ですか?

本村:今はやりたいことがあれば、全部『妖怪ウォッチ』に注ぎ込める幸せな状態なので、『妖怪ウォッチ』のこと以外は考えられないんですけど、『妖怪ウォッチ』については、どれだけまた新しいものを入れられるかが次の勝負だと思うので、子どもたちにそっぽ向かれないよう、これからもどんどん攻めていきたいなと思います。

―今後も新しいタイトルを出されていくと思いますが、今回の成功を踏まえて維持したいところ変えたいところなどあれば教えてください。

日野:『妖怪ウォッチ』って、ものすごく子どもたちをちゃんと見て作れたタイトルだったんです。これがこれだけうまくいったということは、やはり見ないといけないのは最終的に子どもたちだったんだなというのを、再認識させてもらいました。つくりたいものをつくるのではなく、子どもたちの状況を把握して、ゲームやアニメのなかで何が起こったら面白いんだろうと徹底的に考えて作れたタイトルだったので、今後もそこをしっかりやっていきたいですね。

『妖怪ウォッチ』で楽しくモノを作るという究極の理想に近づいてきたので、こういうラインを『妖怪ウォッチ』以外でも作っていかないといけないなと思っています。『妖怪ウォッチ』のように、ヒットした上でチームのやる気も満々という状態を、会社全体や会社以外のところでも実現していきたいですね。

(執筆:野本纏花/撮影:小野正樹)

(この記事は2014年11月11日ベストチームオブザイヤー「全員が「悪ノリ」を楽しむ「妖怪ウォッチ」プロジェクトチーム――試行錯誤から生まれた徹底した子ども目線より転載しました。)