社内の「Maker」がものづくり大企業を変えるーMaker Faire Tokyo2014に見るMakerとメーカー

個人でも活動する社内のMakerが自社内で活躍の場を広げたり、Makerが企業の製品の卵を育てたりしていくーー。「Maker×メーカー」の関係は、今後も深まっていきそうだ。
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誰でもものづくりを楽しみ、消費者と生産者の垣根を超えるメイカーズムーブメントが注目されて久しい。ものづくり産業の構造を変える動きと言われてきたが、今月23〜24日に東京ビッグサイトで開催されたMakerのお祭り「Maker Faire Tokyo2014」では、個人で活動するMakerたちが大企業のものづくりの風土を変えつつある様子を感じた。

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Maker Faire Tokyo2014には、ものづくりを楽しむMakerや家族連れなど2日間で約1万3000人が訪れた。

「放課後」のものづくり活動を仕事に還元する

「Makerとメーカー(企業)の関係が変わろうとしている。対立するものではなく、掛け算する段階に入りつつある」----。

「Maker×メーカー 2014」と題したトークセッションの冒頭で、モデレータで情報科学技術大学院大学教授の小林茂氏は、個人でものづくりを楽しむMakerと、製造業などのものづくり企業との新しいつながりの関係を強調した。「Makerとメーカー(企業)を行ったり来たりする人も増えてきている」と小林氏は言う。

その代表が、トークセッションに登壇した田中章愛氏だ。品川に本社のある大手メーカーに勤務しながら、品川周辺でものづくりに携わる人たちと一緒にものづくりをする「品モノラボ」を主催している。また、マイコンボード「Arduino」の超小型互換機「8pino」を個人活動として開発。ひとりで企画、開発を行い、仲間のデザイナーや品モノラボなどのコミュニテイと協力しながら細部を詰め、今年8月には、販売にこぎつけた。

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MakerFaire Tokyo2014では、1日目は88分、2日目は16分でそれぞれ88個の8pinoを売り切った。

田中氏は、本業はもともとロボットエンジニア。だが、大企業では売れるとメドがたったものしか世に出ない上、自身が担当するのは工程の一部だ。「放課後活動では、本業でできないことを勉強する。プロトタイプを作って見通しをたてるのに最適だった。放課後活動は本業に還元するためにやっている」と言う。企画、デザイン、開発から量産までひとりでやってみたことで、改めて大企業の持つものづくりを実現する力を実感したと言う。

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「放課後ものづくりは"趣味"ではなく、本業でできないことを実験する場」と言う田中章愛氏。

企業内Makerが大企業に新しい風をもたらす

一方、個人Makerとしての活動が、勤務先の企業に新しい試みをもたらすことにつながった。

田中氏は今年4月からこれまでのロボットエンジニアに加えて、新規事業の立ち上げにも関わっている。きっかけは、放課後活動をする中で自身の中に育っていった問題意識だ。新規事業を生み出す方法として、品モノラボや自身の活動のように低コストで素早く出していくやり方を、大手メーカーでやってもいいのではないかーー。

そこで共通の知人の紹介で知り合った、事業戦略をたてる部署の先輩に相談したところ、意気投合。田中氏と共にアイデアを膨らませ、社長に提案。トントン拍子で今年4月には、田中氏のアイデアを取り入れ、新規事業を素早く立ち上げるための部署が立ち上がった。自身もその部署に所属することになり、提案してくれた先輩は今の上司だ。今年8月には、社内外のものづくりに関わる人たちが集まり、さまざまなアイデアを出し合うためのスペースもオープンさせた。

大手メーカーがMaker Faireに出展するわけ

今回のMaker Faire Tokyoでは、これまでと比べて大手メーカーの出展ブースの存在感が際立っていた。今年の出展者数は約300組で昨年より約50組増。多くが個人で活動するMakerらによる出展だが、うちスポンサー(企業)出展は36組と昨年の17組から2倍以上になっている。大手メーカーやものづくり系スタートアップの出展が目立った。

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Make: Tokyo Meeting/ Maker Faire Tokyo出展者数と入場者数の推移。

(2011年11月までは入場無料イベントとして実施。オライリー・ジャパンの資料を元に作成)

東芝は、無線LAN内蔵メモリ「FlashAir」のブースを出展。FlashAirはデジカメとスマートフォンの間でデータをやりとりする用途で購入されることが多いが、東芝ではこれをMakerたちが電子工作やものづくりに活用して欲しいと、普及活動をしている。

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ブースには、Makerたちが作ったFlashAirを使った作品が並んでいた。

普及活動の一貫として、FlashAirを使った電子工作やものづくりを支援するウェブサイトを作った。Makerたちにものづくりのアイデアを投稿してもらっている。今回のMaker Faire Tokyoへの出展にあたり、FlashAirを使ったものづくりの情報をまとめた「FlashAirの同人誌」と題した小冊子を作ることになった。その際、ウェブサイトに投稿をしているMakerたちに執筆依頼をしたところ、偶然にもFlashAirとは別部署の自社の社員だったという。

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Makerたちに電子工作として楽しんでもらうために、東芝は同人誌を作った。

Maker Faire Tokyoへの出展で期待するのは、メーカーに勤務しながら個人でものづくりを楽しむ社内Makerへのアプローチだ。東芝ブースの担当者は、「企業で働きながら個人でものづくりを楽しむ人たちがFlashAirの用途を広げて、それを仕事のほうにも還元して欲しい。今は消費者向けだが、B to Bにもつながれば」と説明する。

ソニーは、新規事業のMESH Projectを紹介するブースを出展。プログラミングなしでコンピュータの画面上でクリックやドラッグをするだけで、センサーやLEDライト、電源などの機能を持つ小型のブロック状デバイスを互いに連携させたり操作させたりできる。まだ開発途上で、事業化が具体的に決まっているわけではないが、今年5月に米カリフォルニア州で開催されたMaker Faire Bay Areaへの出展を皮切りに国内外の展示会やイベント、ワークショップに展示をしてユーザーからのフィードバックを得ている。このような試みはソニーとしても初という。

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MESH Projectのブロックを使うと、毎日同じ時間にカメラが起動するようにセットしたり、人が通るとLEDが光るようにしたり、といったことが誰でも簡単にできる。

MESH Projectを担当するソニーの萩原丈博氏は「Maker ×メーカー2014」にも登壇。「ベイエリアへ出展するときはビクビクしていた。世の中で受け入れられるのか。企業内のクローズドな環境で不安要素を潰していくという、これまでの検証をせずに出すことになる」(萩原氏)。ただ、実際に出展してみると「嬉しかったのはフィードバックがあること。例えば、個人が家で使う用途を想定していたが、ソフトウェアのデベロッパーからのニーズがあることがわかった」と手応えを感じているようだ。

メーカーに勤務する研究者やエンジニアはもともと電子工作やものづくりが好きで、個人でMakerとして活動する人も多い。田中氏も「大企業にいながら個人で作っている人は多い。ただ、会社の外でやっていることはよくないことと見られる風潮があるので、やっていることを言いたがらない」と言う。

個人でも活動する社内のMakerが自社内で活躍の場を広げたり、Makerが企業の製品の卵を育てたりしていくーー。「Maker×メーカー」の関係は、今後も深まっていきそうだ。