仮想と現実が重なる「メタ観光」。その魅力を旅のプロたちが語った #アタラシイ時間

「ひとつの場所が複数の意味を持ちうるというのが、すごく面白い」
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旅でもスマホが欠かせなくなった(イメージ写真)
Caiaimage/Paul Bradbury via Getty Images

旅行や観光は、この10年でガラリと変わった。

ガイドブックを買って、紙の地図を頼りに、現地に向かう方法から、スマホで情報を得る方法に変わってきた。

私も、大好きなロンドンに行く時は「AtoZ」というマップが欠かせなかったが、今はスマホのおかげで迷子にもならず、町歩きを楽しむようになり、「AtoZ」も本棚に眠ったままになってしまった。

スマホで検索した場所が、「ポケモンGO」のキャラクターがいるスポットだと分かったり、映画やアニメに出てきた特別な場所としてInstagramで紹介されていたりすることもある。

土地などの「現実世界」のレイヤーの上に「映画」「アニメ」「ゲーム」といった「仮想世界」のレイヤーが重なることで、その場所の新たな魅力を引き出しているーーともいえる。そんな「リアル」と「仮想」のコンテンツを両方楽しむ旅のありかたが最近、「メタ(多層)観光」と呼ばれるようになった。

■「メタ観光」という旅のスタイル

「メタ観光」の価値や課題についてゲストが語り合うイベント「世界目線で考える メタ観光編」(タイムアウト東京主催)が5月17日、都内で開かれた。

「メタ観光」の名付け親で、旅行サイト「トリップアドバイザー」代表取締役の牧野友衛さんをはじめ、牧野さんとともにメタ観光を提唱している、KADOKAWA 2021年室エグゼクティブプロデューサー・担当部長の玉置泰紀さん、タイムアウト東京代表取締役の伏谷博之さんが登壇。さらに、スペシャルゲストとして、アソビジョン代表取締役・慶應義塾大学研究員の國友尚さんも参加した。

牧野さんが冒頭、「メタ観光」の例として挙げたのは、映画で登場する日本のスポットだった。

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牧野友衛さん
タイムアウト東京提供

「キル・ビル」(クエンティン・タランティーノ監督)に登場し、外国人観光客の人気スポットとなったのは、麻布のダイニングレストラン「権八」。「SAYURI」(ロブ・マーシャル監督)で登場した京都の伏見稲荷。最近では日本が舞台とされる『犬ヶ島』(ウェス・アンダーソン監督)も公開された。

そして東京を舞台にした映画『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督)。ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンが出会うシーンに使われたのは、新宿の高級ホテル「パークハイアット東京」のバーだ。

このバーは、外国の人から見るととても「TOKYO的」で魅力的に映るのだろう。アメリカから旅行できた友人たちに「どこに行きたい?」と聞くと、築地の寿司とともに、ここに行ってみたいとリクエストされたことがある。私もソフィア・コッポラの作品は大好きだが、東京がロケ地となっているこの作品は、特別に思い入れが強い。

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キル・ビルに登場した権八の店内
権八の公式サイトから
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『犬ヶ島』5月25日全国ロードショー/配給:20世紀FOX映画
©2018 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

ただ、牧野さんや玉置さんは、こうした映画という単一のコンテンツだけでない多様さが「メタ観光」の魅力だと話した。

「映画、アニメを見てその舞台になった場所に行くこと自体は、そもそもあったと思うんですが、もはやひとつの場所が複数の意味を持ちうるというのが、すごく面白い」(牧野さん)

「シングル・イシューで物語とか意味を乗せてそこに人を呼んでくる『コンテンツツーリズム』という観光モデルは今までもあった。メタ観光はシングルではなく、複数、そして多層的であるのが重要です」(玉置さん)

アニメや映画の舞台となった土地を訪れる旅は「聖地巡礼」と呼ばれるが、2人の話から考えると、それ自体はすでに目新しくなくなったのかもしれない。スマホで簡単にプラスαの情報が得られることで、聖地巡礼が目的で訪れた場所で、ほかの魅力を偶然見つけて楽しむことができるようになった。それこそが「メタ(多層)」と呼ばれるゆえんであり、偶然やセレンディピティも「メタ観光」の魅力である。

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「メタ観光」と、そのキーワードになる「タグ付け」の意味
タイムアウト東京提供

■「ブラタモリ」もメタ観光

玉置さんが、メタ観光の実践例として挙げたのはNHKのテレビ番組『ブラタモリ』。タモリさんがぶらぶらと歩きながら、地学や歴史といったタモリさんの「関心」のフィルターでその土地を眺めていく。目につくまま、という、連続性のなさが番組の魅力でもある。

仮に、もしこれが地学だけのアプローチだったら、ただの教育番組になってしまい、エンターテイメント性は薄れてしまうだろう。タモリさんの多層的なフィルターを通して発信された情報を受け取り、今まで興味を持つことがなかった場所への好奇心が刺激されていく――と玉置さんは指摘した。

玉置さんが挙げたような、情報の連続性のなさの長所については、牧野さんも認めつつ、情報を整理した上で「魅力」に高めていく必要性もあると指摘した。

「その土地にあるストーリーや魅力、その情報はまだバラバラになっている状態。それを可視化できるようにして束ねていくこと。そうすればメタ観光はより豊かなものになっていく」

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NHK「ブラタモリ」公式サイトから

■「アニメ」の経済効果を観光につなげる

2017年、日本を訪れた外国からの旅行客は2870万人にのぼり、過去最高を更新した。この成長がさらに続くには、日本のオリジナルカルチャーである「アニメ」がキーワードとなりそうだ。

「聖地巡礼」などのアニメツーリズムを出版ビジネスに取り入れた実績がある玉置さんが、トークでそのポテンシャルに触れた。

「海外から日本を訪れる人たちの4.8%が映画、アニメゆかりの地を訪れ、楽しんでいる。アニメや日本のポップカルチャーが好きで日本を訪れた観光客が、ほかの地域も観光することでさらに広がりが作れる」

日本のアニメがもたらす観光面での経済効果は、確かに見逃せない。アニメ「らき☆すた」で、主人公の双子が住んでいるという設定だった鷺宮神社(埼玉県久喜市)は、初詣だけで50万を超す人が訪れる。テレビでの放映は2007年に終わっているにもかかわらず、その波が継続している。「らき☆すた」のように、リアルな土地の風景が、映像作品の中でそのまま使われている作品は、メタ観光と相性がいいといえる。

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玉置泰紀さん
タイムアウト東京提供

「らき☆すた」のような成功例がある一方、観光として成立させるためには幾つかの条件をクリアしなければいけない。玉置さんはその点にも触れた。「どんなアニメでも(観光的に)成功するわけではない。作品が放映中だったり、地元に町おこしに熱意がある人が必要だったり、コンテンツを活用することへの原作者の理解もがないと難しい」

鷺宮神社のある埼玉県久喜市もそうだが、アニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台になった茨城県大洗町など、地元の人々が盛り上げに積極的だったところに成功の鍵がある、と玉置さんは言う。

住民をいかに巻き込んでソーシャルムーブメントを生み出すか、アニメやキャラクターなどのコンテンツの利用権などを企業側がどれだけ解放し、その盛り上げているローカルな人々に利益が還元されているかも重要だという。その土地でサービスを提供する側の喜びは、間接的にそこを訪れる人々の満足度にも繋がっている。

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人気アニメ「らき☆すた」のキャラクターを描いたみこしが地元の祭りにお目見え。多くのファンが町を訪れるようになった。地元もこの人気を地域おこしに活用した。
時事通信社

■場所の「再評価」は、サンプリング音楽のようなもの

トークの終盤、伏谷さんが、観光の課題を音楽に例えて解説した。

ダブミュージックやハウスミュージックは、既存の曲をサンプリングして新たなビートやサウンドを生み出す。その曲が評価されれば、サンプリングされたオリジナル曲も再評価され、CDが売れたり、レコード盤などが高値で取引されたりして、失われた価値の再評価や波及効果を生み出す。

それと同じように、観光地も価値が再評価されるような工夫が必要となってくる、と伏谷さんはいう。「ただ新しいものを作ればいいってことではなくて、既存の観光資源に新しい意味づけをして読み替える必要がある」

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伏谷博之さん(右端)
タイムアウト東京提供

Yahoo知恵袋やヤフオクといった、一般の人々の投稿で成り立つようなメディアを作り、数々のメタ・データを活用しながら、新規事業を立ち上げてきた経験がある國友さんからは、再評価されるための課題を指摘する意見が出た。「その土地に根付いているものを可視化していく際の弱点は、地元にいる人々にその地元の価値が何か見えてないことだと思う」

トークでは、「タグ」「タグ付け」という言葉がよく使われた。メタ観光につながる、価値付けとなるキーワードのひとつだ。ある場所を訪れたとき、SNSでハッシュタグなどをつけて共有すると、訪れるきっかけになった番組名や映画のタイトルが、場所を意味づけし、価値を高める。拡散していくことで意味合いが強まり、ほかの人が行く動機づけにもつながっていく。

SNSでタグが刺さる人たちにとっては、その魅力はその場所を訪れる動機になるが、住民

にとってはごく日常の当たり前の風景となっている、と國友さんはいい、タグ付けの重要性を改めてこう強調した。

「東京や都市の人たちがそのローカルな場所へ行って、ここが素晴らしいよって可視化して、タグ付けすることができたら、それが発展につながる」

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國友尚さん
タイムアウト東京提供

國友さんは「メタ観光」が抱える課題もあげた。

「メタっていうのは観光をしたいと思っている人たちにとって、一つのキーワードでしかないので、それをストーリーで繋げてあげるのが極めて大切。映画やアニメはもともとストーリーがあるので、メタ観光と相性がいい。でもそうじゃない、文脈がないキーワードが出てきた時にどう人を動かすかが重要なんです」

そして、まさに文脈がないキーワードのひとつとしてポケモンGOを例示した。文脈がないにもかかわらず、成功し、定着したのはすごく特殊な例だと言える。

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2016年11月11日、宮城県石巻市でスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」のレアポケモンが出現した。ゲームの公式ツイッターは、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島各県の沿岸部で「ラプラス」の出現率が上がっていると告知。石巻市の中心部では雨の中、スマホを手にラプラスを探し求める人が相次いだ。翌日は県主催のゲーム関連イベントが沿岸部で開催された。県の担当者は「運営会社がイベントに合わせて企画してくれたのでは」と驚いた様子だった。
時事通信社

受け皿を整える課題もある。

京都など1年を通じて混雑する観光地では、観光客を分散させるために夜の「ナイトタイム・エコノミー」に力を入れるなどの工夫が必要だ、と伏谷さんは指摘した。また、國友さんは、地方の観光地などで、言語など、海外からの観光客を受け入れるのに必要な態勢が整っていない現状もあげた。

4人の話を聞きながら、観光が過渡期を迎えているいま、「メタ観光」が持つ可能性は未知数ではあるものの、とても大きなものに思えた。経済的な効果はもちろんだが、一部の人には強い引力も持っている。これまで知られていなかったタグが増えれば増えるほど、そのタグを探求する醍醐味や好奇心も刺激される。目的地ありき、の旅から興味からひもづいた旅に変わっていき、さらに楽しくなっていくだろう。

今まで何気なく通過していた道や、スポットにも、もしかしたら自分に刺さるタグがあるかもしれない。何気なく訪れた場所がワクワクする場所に変わる魔法のような「メタ観光」に、これからも注目していきたい。

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タイムアウト東京提供

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