「金澤はどうしたい?」上司が、がんの社員にかけた一言。がん治療と仕事をどう両立するか

「がんとの共生社会づくりを目指して」というテーマで開催された「ネクストリボン2020」では、がんになった社員と、そんな部下を支えた上司が体験談を語りました。
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金澤雄大さん(左)、春野直之さん(右)
朝日新聞社

日本では、生涯に2人に1人がかかると言われている「がん」。患者の3人に1人は20歳から64歳の「働く世代」です。

しかし近年では、医療の進歩によって、手術や抗がん剤、それに放射線による治療も、短期間の入院や通院で対応できるケースが増えているといいます。がんになっても、治療をしながら働き続けられる時代になりつつあるのです。

一方で、厚生労働省が2016年にまとめた資料では、がんになった労働者の約34%が依頼退職したり、解雇されていることが分かっていて、「がんと仕事との両立」には課題が残ります。

もしあなたが「がん」になったら、働き続けることができますかー。

がんとの共生社会づくりを目指して」というテーマで開催された「ネクストリボン2020」(2月4日・東京)では、がんになった社員と、そんな部下を支えた上司が体験談を語りました。

「部下」は、人材紹介事業の株式会社ジェイエイシーリクルートメントで働く金澤雄大さん(37歳)。「上司」は、2016年から金澤さんの上司となった春野直之さん(38歳)です。

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ネクストリボン
朝日新聞社

 2人の幼い娘を持つ働き盛りを襲ったがん。約5年間で3回の復職。

2014年11月。突然、脂汗がじっとり出て、立っていられないくらいの腹痛が金澤さんを襲った。病院に行くと盲腸との診断を受け、即日手術。すると同時に、ステージ2の虫垂がんであることが分かった。

約3か月の入院生活を経て、一度は会社に復帰。しかし、その後5年間にわたって肝臓などへの転移を2度経験した。

家には幼い娘が2人。2度目の転移が分かったときには不安から「深い穴に落ちるような感覚だった」という。

それでも金澤さんは、休職と復職を3度にわたって繰り返しながらも同じ職場で働き続けることができた。

金澤さんが、がんと闘病しながらも仕事を続けてこられた理由。それは、一人一人の社員の働き方を柔軟に認める職場の姿勢だった。

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金澤雄大さん
朝日新聞社

治療と仕事の両立を支えた「上司の一言」

金澤さんが最初のがんから復職したとき、一番の不安は体力面だった。これまで通り管理職として部下を見る精神的な余裕もなく、治療と仕事の両立に自信が持てなくなっていた。

そんなとき、当時の上司は金澤さんにこう問いかけたという。

「金澤はどうしたいんだ?」

金澤さんは、しばらくは時短勤務を希望すること、管理職を退きたいこと、残業時間を減らしたいこと、など正直な要望を上司に伝えた。

そんな要望に、上司は「いいよ」と即答。これまで通り成果を出すことを条件に、金澤さんが希望する働き方を認めた。その後上司が春野さんに代わっても、同じ働き方を認めてくれた。

現在は、がんサバイバーとしてのスピーカー活動などにも従事する金澤さん。治療に合わせて柔軟な働き方ができた自分のケースが、実は珍しいものだったことに気づいたという。

実際に、「がんの治療と仕事を両立する上で困難であったこと」を聞いた東京都福祉保健局の調査(2014年)では、「体調や治療の状況に応じた柔軟な勤務(勤務時間や勤務日数)ができない」(24.9%)、「体調や症状・障害に応じた仕事内容の調整ができない」(24.9%)、「治療・経過観察・通院目的の休暇・休業が取りづらい」(23.9%)などの問題が上位に上がっている。

「他のがん患者や企業を知る中で、自分がいかにスペシャルでミラクルな形で、自然と復職できていたかを知りました」金澤さんはそう話す。

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春野直之さん
朝日新聞社

上司「がん患者ではなく“時間に柔軟性が必要な仲間”という認識で接した」

時間ではなく成果で評価をする会社の評価制度も、金澤さんの「仕事と治療の両立」を後押ししたという。

「弊社は、業務プロセスは比較的社員に任されており『成果さえ出していればいい』という評価をします。そんな自由度の高さが、体力が落ちた時にはとてもありがたかったです」

金澤さんは、11時から16時がコアタイムのフレックス制度や、半日単位から取得できる有給制度などを体調や治療の日程などに合わせて使い分けた。

「仕事は、お客様に価値を提供してお金を頂くという行為。それは、お客様にとって僕がどういう病状にあるかは関係ありません」。3度目の復職をした2018年には、「年間優秀成績者」として社内で表彰された。

上司の春野さんも評価をする上で、金澤さんのことを「がん患者」として特別視したことはないと話す。

「前提としてなんですが、私は金澤のことを『がん患者』だと思ったことは一度もありません。いわゆる介護従事者とか妊娠中の方と同じ『時間に柔軟性が必要な仲間』という認識で接していました。かつ弊社は働いた時間ではなく、お客様に対しての価値提供で評価をしておりますので、つまるところ他の社員と全く同じような要望だったんです」

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Thomas Barwick via Getty Images

一人一人の違いを認め、企業の力にしていくというダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)が大切だと言われる現代。

しかし「ダイバーシティの担保はコストがかかる」というネガティブな声も聞こえる。

そんななか「個々の社員が成果を上げるには、どのような“柔軟性”が必要だろうか」と、企業としての営利を逆算しながら、社員のダイバーシティに向き合うジェイエイシーリクルートメントの姿が印象的だった。

労働人口がますます減るこの先、スキルや経験を持つ社員が、病気の治療を理由に会社を離れてしまうのは、会社として大きな損失だ。

ダイバーシティを「コスト」にするのではなく、上手く活かし「力」にしていく。そんな企業のあり方が今後求められる。