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もしも首都直下地震が起こったら? 3.11を教訓にした災害対策のいま

震災の記憶を「風化させない」から「制度に落とし込む」へ
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東日本大震災から8年が経った。

東日本大震災を機に、行政や企業は防災対策に取り組んでいる。しかし、「防災対策で重要なのは、多くの人の生死がかかる災害時の対策です。まだまだ東日本大震災の教訓を生かしているとは言えない」。東京大学で防災研究に取り組む関谷直也准教授はこう話す。いま、どのような対策を進めればいいのか。

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関谷直也さん。1975年新潟生まれ。東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授(災害情報論、社会心理学)。東京大学卓越研究員、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター客員准教授を兼務。東洋大学社会学部准教授、東京大学特任准教授等を経て現職
宮下マキ / HuffPost

――2011年3月11日の東日本大震災後に、防災対策の機運が高まりました。注目しているものはありますか。

関谷:確かに震災以降、社会の防災意識は高くなったと思います。しかし、「防災」といっても多様なレイヤーがあります。特に進んだのは災害後の対策です。

例えば、災害が起きた後に備えて、食料を備蓄しておいたり、電池を確保しておいたりするといった日常生活に早く戻れるようにする対策は多くの企業や家庭でも取り入れていると思います。これらは安心感にもつながり、たいへん重要であることは間違いありません。

携帯電話も使えない、インフラの整備にも時間がかかる、情報も届かず、食料も早々に尽きていくという状況が想定されます。企業、行政、そして個人も災害対策は、本来は、もっとも過酷な災害を想定すべきだと思います。

 

災害直後の情報公開はなぜ必要か?

そこで、私が注目しているのは大きな災害直後にNTTドコモが公開している復旧エリアマップです。これを見ると、携帯電話がどこで使えて、どこで使えなくなっているのかがわかります。

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ドコモが災害後に公開している復旧エリアマップ
NTTドコモ

つまり、これは携帯電話の復旧エリアであると同時に被災状況の目安にもなるマップなのです。家族や親族が住んでいるエリアがどのような状況か参考にすることができます。

企業の災害対策、特に大規模災害で一番大事なことは、企業が持っている情報をうまく公開することです。電気、ガス、通信、道路情報、流通、小売といった多くの情報を持っている企業は、利用者のビッグデータを持っています。

このビッグデータは、被災直後から被災状況の確認、自衛隊の救助情報のためにも使うことができます。

大規模災害では、行政や自治体がすべての情報を把握し、アナウンスできるわけではありません。民間企業の力も極めて大事です。各企業が力を発揮できるのは、本来は、災害直後からです。人の生死に直結する情報を持っています。

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関谷直也さん
宮下マキ / HuffPost

東日本大震災後、ビッグデータ解析の技術は進歩しました。「技術的には可能だけど、企業のしがらみや制度的にできない」という状況をどう越えていくかが喫緊の課題です。企業の復興支援も、日常生活の延長にある災害対策も重要ですが、被災直後の情報発信も重要であるということは強調したいと思います。

情報を出し合えば、減災につながるかもしれない。企業だけではなく、地域でも、そうした意識は必要です。

 

もしも、首都直下地震が起きたら?

――地域でいえば、先日、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町で防災学習条例が成立したというニュースがありました。震災の記憶を語り継いでいくという意味合いもあるそうです。3.11を機に防災教育も進んできたように思います。企業の対策もさらに進める必要がありそうです。他に考えることはありますか。

関谷:それで言えば、東日本大震災直後の被災地で、ガソリンが著しく不足したという事実が案外知られていないということがあります。

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石戸諭さん
宮下マキ / HuffPost

――えっ! 私も新聞記者時代に、東日本大震災直後に現地取材しましたが、被災地ではみんなが困っていました。やっとガソリンが入荷してくるという日にガソリンスタンドに並んだ車の列をよく覚えています。

関谷:そうですよね。被災地では、多くの人々の記憶に残っていますが、都市圏では忘れられています。大きな災害が起きるとガソリンの運搬網は破壊され、車での輸送が止まる。車が使えなくなると、物資が届かなくなるという状況に陥るということです。

首都直下地震を想像してみてください。火災や建物の倒壊などによる道路の閉塞に加えて、ガソリンがなくなれば、運搬網そのものが破壊されますよね。東日本大震災時の帰宅困難者が約600万人ですので、首都直下地震ではそれ以上でしょう。

みんなが平時と比べて、一食分、余計に食料を買ったら、首都圏ではすぐになくなります。もともと、コンビニエンスストアはバックヤードに食料品をストックせず、運搬によりこまめに入荷する方式をとっています。これは、緻密な都市の流通構造の中でこそ機能する。

ガソリンがなくなれば、運搬網そのものが破壊されますよね。食糧不足は解消されないままかなり長期化することが予想されます。

都市の流通構造は高効率であるがために、どこかひとつでも機能不全に陥るとすべてがストップしてしまうのです。東日本大震災の直後の時期に被災地で活躍しているのはLPガスで走るタクシーでした。ですが、ガソリン以外の動力の確保といった議論も進んでいませんね。

場合によっては、首都圏から地方へ疎開しなければならなくなるでしょう。関東大震災の時に多くの人が疎開したように。

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宮下マキ / HuffPost

――一部のメディア企業では、東日本大震災以降に、局内にガソリンスタンドを作って備蓄するなど、災害に備えた取り組みを強化しているところもあるようです。TBSテレビは、取材車両用に10日ほど持つように備蓄できるようにしているそうです。少しずつではありますが、3.11の教訓を生かした根本的な取り組みと言えますね。

関谷:そうですね。3.11の風化が進んでいますが、これは致し方ない面もあります。災害対策という観点から見れば、風化を防ぐことも大事ですが、経験を制度や教訓にどう落とし込むかが大事です。

――大事なのは根本ですね。ついつい、私も含めたメディアは根本ではなく、その時々の表面的な対策ばかりを取り上げてしまいます。ですが、評価すべきは根本的なものです。教訓を生かすために、企業ができることはたくさんありますね。

関谷:その通りです。携帯電話が使えない、日常生活を支えているインフラがすべて使えないという東日本大震災クラスの災害で何ができるのか。一番は、できるだけ多くの人が救われるような仕組み、制度、情報を作っていくことです。そこを忘れてはいけません。

 

東日本大震災の教訓を生かした災害対策

NTTドコモは、東日本大震災後に、通信の確保、被災エリアへの迅速な対応、災害時における利便性の向上を目的とした新たな災害対策に乗り出した。

通信サービスの早期復旧はもちろん、安否確認のための「災害用伝言板」の操作性を向上したり、避難所に、無料の充電サービスやWi-Fiを提供したりするなど、被災者一人ひとりに向けた対策が行われている。

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NTTドコモは、他社の携帯電話も複数台同時に充電可能な災害対応充電器(マルチチャージャ)を避難所に提供した。
NTTドコモ

今回、関谷氏が説明した「復旧エリアマップ」についても、公開時間の短縮や視認性の向上など、機能拡充に力を入れているそうだ。

2018年9月に起きた北海道胆振東部地震では、道内の全域が停電となるブラックアウトが発生したことが大きな問題となった。NTTドコモは東日本大震災の教訓から、広域エリアをカバーする大ゾーン基地局に加え、停電時のバッテリー対策にも力を入れたことで、ネットワークの被害を抑えることができた。

自然災害の多い日本において、携帯電話が使えなくなり、困った経験をした人は多いだろう。NTTドコモの災害対策は、まさに教訓を生かした取り組みだ。

 

3.11復興のいま

復興庁が2019年1月に発表したデータによると東日本大震災で47万人にのぼった避難者は5万4000人まで減り、大きな被災をした福島、宮城、岩手3県の生産の水準は、ほぼ回復した。農地では89%で営農再開ができる状況が整い、水産加工施設は96%で業務が再開した。

沿岸部の風景は様変わりした。被災地を車で走れば、高台工事によってできた盛り土を見ることができる。住民の話を聞けば見慣れた風景を取り戻すことができないことの悲しみ、変化についていけないという声は決して少なくはない。

「復興」というのは、数字だけで捉えられるものではない。現地を訪れ、話に耳を傾ける。そして、8年を経た今に「教訓を生かす」というのも、また次世代に向けた「復興」への取り組みのひとつだ。

 

(取材・執筆:石戸諭 撮影:宮下マキ 編集:川崎絵美)

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