「パナマ文書」で浮かんだ中国「革命家族」の「巨大利権共同体」

「紅二代」「紅三代」と呼ばれる人々が、党・政・財にまたがる巨大な「利権共同体」を構築している実態が、「パナマ文書」からは否が応でも浮かび上がってくる。
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非営利の報道機関『国際調査報道ジャーナリスト連合』(ICIJ)の調査によって、中米パナマの法律事務所から流出した電子ファイルをもとに、世界の政治家たちがタックスヘイブン(租税回避地)を利用している実態が暴かれ、国際社会を騒がせている。そのなかには、中国の最高指導部の現職あるいは元職の顔ぶれが多数含まれており、広く世界の関心を呼んだ。

どのような人物が、どのような形で、租税回避地を利用していたのかを丹念に追いかけてみると、実際には、革命世代の指導者の子孫である「紅二代」「紅三代」と呼ばれる人々が、党・政・財にまたがる巨大な「利権共同体」を構築している実態が、「パナマ文書」からは否が応でも浮かび上がってくる。

習近平の姉夫婦

パナマ文書には、現職や引退者も含めて最高指導層の党中央政治局常務委員クラス9人に関係する親族がリストに登場するとされるが、現職中最大の大物は、言うまでもなく、国家主席・習近平。本人の姉である斉橋橋と、その夫の鄧家貴が、カリブ海の英領バージン諸島の3社の役員兼株主であった。鄧家貴は、深圳を中心に不動産業で巨額の財を成し、香港で超高級マンションを開発し、オフショア・カンパニー(租税回避地に設立した法人)も有している。これらの会社は2007年から2009年にかけて設立されたが、習近平の出世に伴い、会社は解散・休止されたとされる。

習近平の姉夫婦の問題はすでに2014年のICIJの調査やメディアの報道から明らかにされており、この点で新しさはない。また、パナマ文書によれば、失脚した元重慶市党委書記の薄熙來の妻で、英国人殺害の罪で有罪判決を受けた谷開来がフランスの建築家と共同でオフショア会社を作っていたともされているが、これも今更という話であろう。

張高麗・筆頭副首相の娘、張小燕の夫である李聖潑が役員兼株主のオフショア会社も3社あった。李聖潑は香港・中国の有力企業である「信義ガラス集団」の跡継ぎであり、父親の李賢義は、全国政治協商会議の香港代表であり、深圳地区の不動産事業でも財を築いたとされる。李聖潑自身も、香港だけで十数社の企業で役員をしている。そのなかにオフショアの会社に関係していたところで、特に不思議はないだろう。

中国政界では有名な「政略結婚」

興味深かったのが、最高指導部で宣伝などを担当する序列5位の劉雲山・党政治局常務委員の義理の娘である賈麗青が役員兼株主を務める「Ultra Time」という2009年に登記された会社があったことだ。劉雲山の息子である劉楽飛と結婚している賈麗青は、元最高検察院検察長の賈春旺の娘であり、中国政界では有名な「政略結婚」の1つだとされている。

元国家主席・江沢民系の番頭としていまも隠然たる影響力を誇っている曽慶紅元国家副主席も、その弟の曾慶淮が、サモアに会社を持っていることが分かった。曾慶淮はかつて中国の文化部香港駐在員を務めたことがあり、香港芸術界の大物だと言われている。

さらに目を引いたのが、毛沢東の孫娘・孔東梅の夫である陳東昇がオフショア会社を有していることだった。ただし、これにはまったく意外性はなく、また、毛沢東の係累だから、ということも関係ないだろう。陳東昇は、飛ぶ鶏を落とす勢いで成長を続ける中国のオークションカンパニー「嘉徳国際」を起業した人物であり、ほかにも中国の大手保険会社を経営している富豪だ。元総書記の胡耀邦の3男の胡徳華もオフショア会社に関係していたというから、基本的には、派閥や対立関係などを超えた、「革命家族」の誰に対しても開かれた世界だったことが分かる。

強力無比の人間関係

李鵬・元首相の娘である李小琳が夫と実質的に所有していたのが「コフィック投資」。同社は欧州からの産業機器の輸入支援で利益を得ているという。電力畑に絶大な影響力を持っていた李鵬の娘であることから「電力一姐(ファースト電力レディ)」などと呼ばれる李小琳は、全国政治協商会議のメンバーなどを経験し、派手な化粧やブランド品を持ち歩いていることでも有名で、中国の電力関係企業で要職を務める。

そして、李小琳の夫である劉智源も「紅三代」の人物として知られており、祖父は革命前に国民党に処刑された劉伯堅という人物で、父親の劉虎生は、同じように革命運動で父親を失った李鵬と同じ時期に人材養成学校に入れられ、少年時代から親しかったとされる。ここからは、血で結びついた強力無比の人間関係がうかがえる。

賈慶林・元全国政治協商会議主席の孫娘である李紫丹は、スタンフォード大学に在籍していた2010年ごろ、バージン諸島に「Harvest Sun Trading」「Xin Sheng Investment」という2つの会社を保有していた。前者の会社は、中国の「時計王」と呼ばれる時計チェーン創始者・張瑜平から1米ドルで譲り受けたものとなっている。さらに今週、香港の『経済日報』が報じたところでは、昨年11月に香港の最高級住宅地である太平山の頂上にある豪邸を3.87億香港ドル(約50億円)で購入していたという。「Jasmine Li」という英語名で登記されており、身分証番号などから当人であることが確実視されている。

「織り込み済み」

中国は世界2位の経済大国だが、海外のタックスヘイブンなどに会社を持つことは厳しく規制されているのが建前だ。しかし、実態は、いわゆる革命エリートの家族を中心に、一般人の目の届かないタックスヘイブンで資産を保有し、利益を得ていることが明らかにされる格好となった。一部の人間たちが「革命の功労者」という中国での絶対的な功績によって、改革開放では「チャンス」を優先的に享受することになり、経済的利益をたっぷり得たような構図があることは言われていたが、このような情報を目の当たりすると、「やはり、そうだったか」と改めて納得させられる部分は少なくない。

これらの情報に対して、中国の主要メディアやスポークスマンは無視を決め込んでいる。主要公式メディアや各種SNSで報道管制が敷かれていることは言うまでもない。検索サイト『百度(バイドゥ)』で「巴拿马文件(パナマ文書)」と入力しても、「関係法令による、表示されない検索結果があります」と出てくる。大半の市民は、確かにパナマ文書について、詳しい情報を知り得ない状況にある。中国外交部の報道官も、外国メディアの問い合わせに「そのような根拠のはっきりしない話にはコメントできない」とだんまりを決め込んだ。

しかし、かといって、メディアや学者、作家などの知識層が知らないかといえば、そんなことはまったくない。非常に詳しく状況を掴んでいる。

最近、東京で中国の著名なオピニオンリーダーの1人と食事をする機会があったが、パナマ文書について、「もう全部知っている話。意外性が全然ないので、仲間内でもちょっと話題になったぐらいで、それで? という感じだ」と語るので、いささか拍子抜けした。

この数年の反腐敗闘争で明らかにされた巨額の不正などに比べれば、確かにそこまでのインパクトはない。しかし、これだけの巨大な利益共同体による構図が明らかになったことをすんなりと「織り込み済み」という感覚で受け止められるところに、中国の病の深さがあると言えるだろう。

中国は、改革開放によって毛沢東時代までの貧困から抜け出し、国家の経済水準は明らかに大きく向上した。しかし、富の分配については、いまだに大きな問題が残っていることは明らかだ。その成長過程における富の分配を阻害しているのが、この革命家族による鉄の結束を誇る利権共同体であるとするならば、「反腐敗闘争」を掲げる習近平指導部が立ち向かうべき相手であることは間違いない。ところが、その相手が自分自身であるということならば、そもそも闘争は成立しないのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。

野嶋剛

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。

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(2016年4月18日フォーサイトより転載)