NPOで働くことに、特別な使命感なんていらない〜セブンスピリット理事長 田中宏明さん

田中宏明さんは、スラムの子どもたちが音楽やスポーツを通して、社会の中での自分のあり方や他者を思いやる協調性を身につける「ライフスキル教育」に取り組んでいます。
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1、貧困から抜け出すためのライフスキル教育

法人セブンスピリットの活動について教えてください。

スラムの子どもたちが音楽やスポーツを通して、社会の中での自分のあり方や他者を思いやる協調性を身につける「ライフスキル教育」に取り組んでいます。

また、2012年2月よりセブンスピリットの主催事業としてスタートしたのがUUUオーケストラです。

日本の演奏家がフィリピンの子どもたちに楽器を教えたり、生のオーケストラに触れたことのない子ども達の前で定期的に演奏会を開いています。

みんなが目を輝かせて楽器を鳴らし、何百人もの観客が大きな拍手をしてくれる、日本にはないような熱い感動の虜になる人は多い。

音楽をあきらめかけていた日本人の演奏家にとっても、次へ進むきっかけの場になっています。

「音楽」と「スポーツ」のふたつを選んだ理由は何だったのでしょうか?

今のフィリピンの学校教育には、音楽や保健体育といった人間の情操面を養う科目が、ほとんど機能していないからです。

スラムの子どもたちが貧困から抜け出すには、路上で物乞いをしてただ時間を浪費するのではなく、情熱を傾けられるものがあれば、彼らは路上に出るのをヤメ、目標に向かって努力をするようになります。

僕自身も中学生のころにバスケットボールで教わった礼儀作法や道徳観が人生を変えました。

子ども達にとってそういう存在になり得るのが、音楽とスポーツだと、そう思ったからです。

学力を上げて良い会社に入る方法もありますが、勉強だけでは仕事に必要なチームワークは身に付きません。

私自身も、中学生の頃にバスケットボールで教わった礼儀作法や道徳観が人生を変えました。

だから、みんなが夢中になれる音楽とスポーツを通して、一人ひとりの人間性を育みたいのです。

2、一生お金に困らない生活を捨て、NPO設立へ

田中さんがフィリピンに来られたきっかけを教えて下さい

参加したかったドイツでのボランティアスタッフに応募するために英語が必要だったので、セブで語学留学をしたことがきっかけです。

僕は29歳まで東京でパチスロライターをしていました。

僕のいた業界というのはとても恵まれた環境で、僕自身も仕事に困る状況ではなかったので、好きな時に寝て好きな時に起きるという、ある意味で堕落した生活を送りながら月の半分だけ仕事をしていれば、同世代の何倍もお金をもらうことができました。

たぶん、このまま一生、食っていけるだろうなという感覚があったのですが、そんな時、旅で訪れた東南アジアで多くの貧困層の子どもたちと出会ったのです。

そこで見た、笑顔で物取りをする少年の姿に衝撃を受けました。

もし犯罪の後ろめたさがあったら、こんなに無邪気な笑顔が出るはずがない、そもそも犯罪という意識がないのだろうと思ったんです。

「この笑顔がもっと良い方向に出せたらいいのに」と思い、30歳から別の人生を歩むことにしました。

フィリピンに移住をされてから、どのような流れで今の団体を立ち上げるに至ったのでしょうか

フィリピン移住後、毎週のように孤児院に通うようになったのですが、そこで孤児院で音楽を教える日本人の学生に出会いました。

彼は僕にベネズエラで40年以上前から続く「エル・システマ」という、児童犯罪防止に絶大な効果をあげているスラムの子どもたちへの音楽教育について教えてくれました。

目の前の子どもたちに体験してもらいたくて、早速ふたりでそれをフィリピンの子どもに合うようにアレンジしてやろうという話に。

その流れで団体を立ち上げることになりました。

でも、僕は責任など背負うのが苦手なタイプ。

本当は組織の代表なんて柄じゃないのですが、作った以上知らないふりはできない。

だから、自分の強い意志で立ち上げたとかではなく、流れに身を任せていたらたどり着いたというのが正直な気持ちですね。

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3、世界中の子どもたちを救おうとは思っていない

同NPOというと、社会を変えようという強い意志を持って活動しているイメージがありますが、田中さんには押し付けがましさが感じられません

僕は使命感に駆り立てられて活動しているわけではないんですよ。

みんなどこかで、何か特別な理由がある人しかNPOの道に進まないと思い込んでいる。

たとえば、「なぜパチスロライターになったんですか?」と聞かれても、「パチスロが好きだったから」くらいの簡単な理由です。

それと同じで、単純にこの活動が楽しいからやっているだけ。必ずしも大それた理由がなくたっていいと思うんです。

コンビニ就職するのも、NPO就職するのも大した違いはないと思っていますから。

僕みたいな存在がいることで、NPOで働くことのハードルを下げたいですね。

今後の活動について教えてください

引き続きこの場所で、音楽とスポーツに限らず、子どもたちが主体的に何でも挑戦できる部活動のような環境を作っていきたいですね。

そもそも僕は、世界中の子どもたちを救おうとは思っていません。

結局は、目の前にいるセブンスピリットに来ている子しか救えない。

だからこそ、出来る限りたくさんの子どもたちが来られるように間口を広げようとしています。

ふらっと軽い気持ちで来てもらえる場なれば嬉しいです。

今、現地の大学とも連携しながら、セブンスピリットで学んだ子ども達が奨学金を受けて大学に通えるような、そんな道ができつつあります。

音楽やスポーツを通して子ども達が自然に成長し、自分の人生を変えていける。

そんな流れを作り出せたらいいですね。

スタジオで、大声で日本の曲を歌う子どもたちを見ましたが、とても楽しそうでした。

僕が今やっていることって、きっと巡り巡って自分や日本に小さな影響を与えているんです。

子どもたちは日本人に対する親近感が強いだろうから、将来日本人が旅行で来たら親切にしたり、彼らが海外に働くようになったら現地で日本人を助けてくれるかもしれない。

そんな風に繋がって欲しいですね。

田中宏明さんのプロフィール

田中宏明

NPO法人セブンスピリット理事長・全体統括

1981年1月13日 愛媛県生まれ。9年間フリーランスのライターとして活動し、30歳でフィリピンに語学留学。その後、世界各地の子ども施設への訪問・視察を経て、2012年2月にNPO法人セブンスピリットを設立。現在は理事長兼スポーツ担当として、子ども達とともに汗を流す毎日。

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取材・ライター

濱田 真里/Mari Hamada

ABROADERS 代表

海外で働く日本人に特化した取材・インタビューサイトの運営を6年間以上続けている。その経験から、もっと若い人たちに海外に興味を持って一歩を踏み出してもらうためには、現地のワクワクする情報が必要だ!と感じて『週刊アブローダーズ』を立ち上げる。好きな国はマレーシアとカンボジア。

週刊ABROADERSは、アジアで働きたい日本人のためのリアル情報サイトです。海外でいつか働いてみたいけど、現地の暮らしは一体どうなるのだろう?」という疑問に対し、現地情報や住んでいる人の声を発信します。そのことによって、アジアで働きたい日本人の背中を押し、「アジアで働く」という生き方の選択肢を増やすことを目指しています。

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