参議院選挙制度最大の問題―自民党に下駄を履かせる「小中混合制」

参議院選挙制度は重大な問題を孕んだ選挙制度である。どのような選挙制度も多少の無理や限界はあるが、参議院選挙制度のそれは度を越している。
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参議院選挙制度は重大な問題を孕んだ選挙制度である。どのような選挙制度も多少の無理や限界はあるが、参議院選挙制度のそれは度を越している。『Voice』2012年5月号の時評「農村偏重を生み出す参院選挙制度」やデジタル版イミダスの解説「重大な欠陥をはらんだ参院の選挙制度」で参院選挙制度の問題点について整理しているが、ここではその中で最も重大な問題であるにもかかわらず、世の中一般に認識されておらず、一票の格差とは違ってメディア等で論じられることもない、小選挙区と中選挙区が混合された選挙区制(以下、小中混合制)について分析しておきたい。この制度により、自民党は他党に比べ参院選を有利に戦うことが可能となっている。

■小選挙区と中選挙区で異なる選挙結果

参議院選挙では、1回の通常選挙当たり73の議席を47の都道府県に区分した選挙区で選出し、48議席を全国を単位とする比例区で選出する。ここで焦点となるのはこの都道府県別選挙区である。この都道府県別選挙区は、1人区から5人区までに分けられる。1人区は小選挙区、2人区以上は中選挙区である。表1は、この内訳や統計をまとめたものである。

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この小選挙区と中選挙区は、異なる選挙結果を生む。小選挙区は「勝者総取り」の選挙制度である。得票数1位の候補以外には議席は渡らない。大政党に有利な制度である。一方、中選挙区はこれに比べて比例的な選挙結果を生む。定数が多くなるほど、小さな政党でも議席を獲得しやすくなる。

中選挙区と比例区は、比例的な選挙結果となる一方、小選挙区は勝ったほうが議席を独占する結果となる。このことから、参議院では1人区の結果が選挙結果全体の趨勢を決めると言われている。実際、2007年は1人区で勝った民主党が全体でも勝利してねじれ国会を呼び、2010年も1人区で勝った自民党が全体でも勝利しやはりねじれ国会を生み出している。

■自民党に有利となる構造

しかし、話はここで終わらない。小選挙区と中選挙区は、ある傾向にしたがって偏在している。人口規模の小さな県は小選挙区、人口規模の大きな都道府県は中選挙区となる。このことから必然的に、前者と後者を比較すれば前者は農村的で過疎化、高齢化が進み、公共事業に依存した地域が多く含まれ、後者は都市的で人口稠密で若年層が多い地域が多く含まれることになる。表2には、選挙区定数別に人口統計等のデータを示している。

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そして、この小選挙区と中選挙区の選挙結果の特徴、小選挙区地域と中選挙区地域の人口特性等の特徴から次のような選挙結果が生じることになる。

(1)農村に基盤を置く政党は、小選挙区の議席を勝者総取りし、中選挙区では議席を比例的に獲得する。

(2)都市に基盤を置く政党は、小選挙区で議席をほとんど獲得できず、中選挙区では議席を比例的に獲得する。

このような作用により、農村に基盤を置く自民党は、都市部に置く対抗政党に比較して参議院選挙を圧倒的に有利に戦うことができる。言い換えると、自民党はこの歪んだ参議院選挙制度の恩恵を受けているのである。

■1人区で極端な議席差を稼ぐ自民党

ただ、有利と言ってもどの程度かは、ここまでの説明ではわからないだろう。以下、実際のデータを確認していきたい。

図1は、各年の参議院通常選挙における選挙制度別の自民党議席率を示している。この図では、01年以降は公明党の議席数を含んでいる。また、自民党推薦候補も自民党に含めている。この図からは、全国区・比例区や中選挙区に比較して小選挙区で自民党が圧倒的な選挙結果を残していることがわかる。

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また図2は、各選挙制度で、自民党が無所属を含む他党にどれだけの議席差をつけたのかを示したグラフである。自民党は、全国区・比例区では他党に引き離されることがほとんどであり、中選挙区ではだいたい対等の勝負となっていることがわかる。これに対して小選挙区では、かなりの大差をつけることに成功しており、全国区・比例区、中選挙区で多少の差を付けられたとしてもその差を埋めることができているだけでなく、さらに差を引き離していることがわかる。表1に示したように、小選挙区(1人区)の人口割合は現在3割程度であるが、この3割の選挙区の結果で他の7割の選挙区の結果と、比例区の結果を覆しているわけである。

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そして、こうした議席差は、非常に「効率よく」生み出されている。図3は、各回の選挙ごとに、選挙区定数別に自民党候補の得票率と議席率を集計し、散布したものである(なお、この図では公明党を合算していない)。この図3からは、1人区、2人区、3人区以上いずれも得票率に比較して議席率が高くなる傾向が確認されるが、中でも1人区は極端に得票率以上の議席率が与えられていることがわかる。1人区と2人区の得票率の分布(横軸方向の広がり)は大きく違わないが、同じ50%程度の得票率だったとしても、2人区では60%程度の議席率、1人区では80~95%程度の議席率となっている。

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■農村の声を過剰に拡大する小中混合制

以上の議論とデータから、自民党は小中混合制により参院選で非常に有利となっていることは明らかである。この歪んだ参院選挙制度は、自民党一党優位体制を支えたひとつの装置であると言える。

また、近年の政治史に照らせば、2010年のねじれ国会の発生、そして12年衆院選での政権復帰のひとつの原動力となっている。仮に2010年参院選で、29あった1人区が、13の2人区と1つの3人区であったとすれば、図2に示される、他党につけた13議席差という大差は発生しなかっただろう。おそらく1-2議席程度の差しか得られず、民主党がこの選挙で勝利したはずである。

このような制度は、単に自民党に「下駄」を履かせ、同党に有利な状況を生みだすだけではない。定数不均衡以上に小県、農村地域の声を過剰に強化する装置ともなっている。1人区で勝利するため、2007年の民主党は小沢一郎代表が1人区行脚を行い、農村向けの政策をアピールした。自民党が1人区で安定した成績を残し続けるためには、やはり農村向けの政策をアピールする必要がある。国土強靭化の名の下に行われている現在の公共事業も、参院選挙対策であり1人区対策と言ってもよいだろう。

この参院選挙制度と同様の状況が生まれているのが、都道府県議会議員選挙である。郡部の1人区を保守系政治家が抑え、都市部では中小野党に交じり保守系政治家が一定の議席を占める。結果、多くの都道府県議会で保守系会派が多数を占め続けることになる。このように利益誘導を固定化する効果を持つ小中混合制は、改めたほうがよいだろう。

ではどうすればよいか。次のエントリで多少展望を述べておきたい。