白内障は、日本でも高齢者に多い目の病気だ。一度罹ると目のレンズが曇ってしまい、放置すれば失明してしまう。しかし、適切な治療(短時間の眼内レンズ挿入手術)を施せば劇的に視力を改善することができる。
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白内障は、日本でも高齢者に多い目の病気だ。一度罹ると目のレンズが曇ってしまい、放置すれば失明してしまう。

しかし、適切な治療(短時間の眼内レンズ挿入手術)を施せば劇的に視力を改善することができる。日本の白内障治療技術は世界でも最高だ。

白内障は、糖尿病などの生活習慣病の増加に伴って、特に発展途上国で急増している。

特徴的なことは、日本とは違い、40代の比較的若い年齢で発症することだ。世帯はもちろん、社会・経済的にも大きな負担となっている。

ミャンマーもその例外ではない。ミャンマーの失明率は世界でも最も高く、うち約70%が白内障が原因だ。強い紫外線と増加する糖尿病によって、重症な白内障に苦しむ人々が増えている。

ミャンマー政府も白内障対策は最優先課題としている。しかし、同国では手術が可能な医師や施設の不足、白内障診療に必要な医療機器不足等のために、約60万症例の白内障患者が手術を受けることができていない。

ミャンマーは発展途上国の医療の典型で、公立病院は無料だが質の悪いレンズが用いられ、富裕層は民間クリニックやシンガポールで高額な治療を受けている。

今回ミャンマー政府からの要請を受け、私たちはロート製薬等と協力しミャンマーにおける白内障治療のためのプロジェクトを開始した。もちろん医療機材を供与しただけでは、現地に白内障治療の技術は根付かない。また、全てを無償で供与することは事業の継続性に大きな課題がある。

そこで、今回は、機材の供与と同時に、日本人医師による白内障手術の指導、眼科医などの人材の育成、日本企業との連携による質の良い眼内レンズの現地での展開を軸に、事業としての継続性を担保しながらも、白内障治療にアクセスが難しい貧困層にできるだけ多くの治療を施したいという欲張りなプロジェクトだ。

手術の指導のために白羽の矢が立ったのは服部匡志医師だ。彼は、ベトナム等で1万人以上の患者に無料で眼科手術を施し多くの人々を失明から救ってきた医師である。

服部医師は、次世代レンズ挿入手術が可能な日本製の中古の機材を自ら持参した。ロート製薬からはインドネシア生産のレンズを供与いただいた。日本政府も支援。

僕らはクリスマスに盛り上がるヤンゴン眼科病院に閉じこもり、連日、手術を行った。服部医師は、難しい網膜の症例も現地の医師にできるだけ手術を経験させながらうまくフォローする。

日本式医療への期待はとても高い。クリスマスイブに遠方のシャン州から2日かけて来た糖尿病性網膜症で両眼失明直前のおばあさんもその一人だ。幸いにも服部医師の手術で回復しつつある。彼女とその家族は涙を流して喜んだ。

まさに、「目に見える」支援だ。

保健医療は国境に関わり無く、また、政治信条に関係なく受け入れられる。そして、世界中で日本式医療への憧れは大きい。

僕らの夢はミャンマー全土に日本式の良い医療をできるだけ安価で多くの人に届けることである。

その最初の一歩を踏み出せたことを、ヤンゴンの屋台で、クリスマスの夜に医療チームの皆で乾杯した。