イギリスの国民投票後の世界はどうなるかを考えてみました

離脱派が勝ったとはいえ、何も変わらないという失望感や残念な思いが募るような状況が生まれる可能性は高いと思います。
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大変久しぶりにブログ記事を書きます。これまで国連で仕事をしていた際には対外的な発信がなかなかできなかったこと、また、一度文章を日常的に書くことを止めてしまうと、なかなか書こうという意欲がわいてこないということもあり、しばらく放置してしまいました。

しかし、本日のイギリスにおけるEU離脱を巡る国民投票は久しぶりにブログに書くだけのまとまった思考と考察が必要な問題であり、ツイッターなどでの短文では言い尽くせないこともあるので、思いつくままにコメントしたいと思います。

第一に、今回の国民投票は必ずしも法的拘束力があるものではなく、最終的な決定は議会でなされなければならない、ということを確認しておきたいと思います。イギリスには「議会主権」という概念があり、全ての国家的な決定は議会で行うことになっています。

とはいえ、今回の国民投票の結果を無視することはできず、いかに残留派が議会内には多いとはいえ、離脱する方向でこれからEUと交渉するということを決定することになると思います。

第二に、EUから離脱するためには長い時間がかかる交渉が必要となります。いみじくも離脱派が主張しているように、EUはあらゆる法律や政策の中に入り込んでおり、それらを解きほぐしながら、EUの影響を受けないようにするための調整をしていく必要があります。この時間がどのくらいかかるか全くわかりませんが、2年から3年くらいはかかるのではないかと思われます。

そうなると、今日離脱に投票をした人たちの感覚としてはせっかく国民投票をして離脱派が勝ったのに何も変わらないという状況が続く、という印象が強くなるのではないかと考えられます。

今回の国民投票に先立って、離脱派はEUからの独立やイギリスの自由を謳いましたが、具体的に離脱派が勝った後何が起こるのか、というビジョンを提示していたわけではなく、離脱派が勝ったとはいえ何も変わらないという失望感や残念な思いが募るような状況が生まれる可能性は高いと思います。

第三に、国民投票で離脱派が勝ったとしても現在の議会内の主流派は残留派が多いことです。今のキャメロン首相は国民投票での敗北を受けて首相を辞任するだろうと思いますが、そうなると後継の内閣が誰になるのか。

離脱派の中心であったボリス・ジョンソン議員を軸とした内閣が出来るとなると、イギリス独立党(UKIP)なども参加した内閣が出来ると思われますが、その内閣がEUと交渉をして、望ましい結論を得られるかどうか、またEUとの交渉以外の政治をきちんとマネージできるかどうかについては、やや疑問を持っています。これが離脱派に対する失望感とつながってしまう可能性も考えられます。

第四に、イギリスの総選挙は2011年の任期固定制議会法によって5年ごとに行われることになり、先の総選挙が2015年だったので、2020年までは選挙がない状態が続きます。しかし、EUとの交渉の進捗具合や国民の離脱派に対する失望が高まると、残留派が多くいる議会では解散の動議が出る可能性があります。

任期固定制議会法では下院(庶民院)の3分の2が同意すれば解散できることになるのですが、残留派だけで3分の2を取るのは難しいとはいえ、国民のムードが離脱派から離れていけば、総選挙になる可能性もあると考えています。

そうなると、離脱派の勢いが落ち、議会で残留派が3分の2をとれば総選挙となり、離脱交渉を続けるかどうかということが争点になった選挙になるかもしれない、と考えています。離脱派の勢いが落ちているのであれば残留派が優位に選挙を進め、多分政権交代を伴って、残留派が勝利するという形になるのではないかと考えます。そうなると離脱交渉が中断され、結局現状維持に戻る可能性もあるのではないかと思います。

もちろん、この間には様々なことが起こりうるので、このようなシナリオになる保証は一切ありませんが、一つの可能性として、これからのあり方を考える上での思考実験として考えてみました。

しかし、これは今回の国民投票で離脱派に票を投じた人たちの不満を解消する結果にはならないと思います。離脱派に投票しても上手くいかず、結局現状維持を選択したとはいえ、それは昨日と変わらない、不満を抱えた日常が続くだけ、と言うことになるわけです。

なので、今回の国民投票で見せた国民の不満はずっとくすぶり続け、よほどのこと(例えば想定外の経済成長など)がない限り、国民投票への欲求や不満のはけ口を求める声はこれからも続くように思います。

1973年にEUの前身であるEEC(欧州経済共同体)に加盟したイギリスだが、1975年にはヒース内閣(保守党)の下で国民投票を行っていた(結果はEEC残留)。その当時からイギリス、とりわけ保守党内部にはEurosceptics(欧州懐疑派)がずっと存在し、サッチャーも、メイジャーもこの欧州懐疑派の人達との戦いで疲弊し、政権をコントロールできなくなるという状況を経験していた。

今回もキャメロン首相はそうした保守党内の圧力に対抗するために国民投票に救いを求めたのだが、結局国民投票からも離脱を突き付けられ、にっちもさっちもいかなくなってしまいました。イギリスの政治はこれまでもずっと欧州懐疑派との緊張関係の下で続いており、それが今回の国民投票を経ても、まだ続くということは変わらないのだと思います。

そういう意味では、今回は歴史的な出来事ではありますが、1973年からずっと続く、イギリスとEUの間で起こってきたことの延長線上にある出来事だとも言えます。

なので、今回の国民投票の結果は衝撃的ではありますが、イギリスとEUの関係はこれからも続いていくものであり、その中で、この結果がどのようにイギリスに、そしてEUに影響していくのかを見ていく必要があるのではないかと考え、このような愚考を披露させていただきました。

(2016年6月24日「社会科学者として」より転載)