民間主導でICTを使える人材を―藤沢烈

ICTの利活用でいえば、漠然と普及させるのではなく、住民の生活に役立つのか、役立つにしても使ってもらうにはどうすればいいかを考え、アイデアをカタチにしていく手腕が必要です。それには"お上任せ"ではなく自分たちの手でこの街を再生させるんだ、という意気込みが第一歩。
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ICTによる真の地域活性化のために、「ヒト」への投資を提言する「ネットと地域活性化を考える会」。連載第3弾は、一般社団法人RCF復興支援チーム代表理事の藤沢烈さんが、東北・被災地での経験から提言します。

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震災からまもなく3年になります。私たちは発生直後から現地に入り、行政や企業、NPO等と連携しながら生活や産業の立て直し等、ステージに合わせた取り組みを進めてきました。この2年ほどはいわば「復旧」。これからは、街づくりや産業育成等、本格的な「復興」に入りつつあります。この間、ICTは私たちの取り組みに欠かせませんでした。

■取り組みを風化させないために

ICTの大きな利点は人をつなげられること。全国のサポーターからの知恵やノウハウを被災地の方々に提供することができます。私達も関わっているグーグルを中心に始めた復興プロジェクト「イノベーション東北」では、岩手県釜石市の水産事業会社と東京のウェブマーケティングの専門家を結び付けて、インターネットでの販路開拓を支援しました。このような個別の結びつきは連帯感を生みます。テレビや新聞の被災地報道が風化したとしても、サポーターは、被災地で頑張る「友人」や「仲間」のため、長く応援できます。

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その一方で、ICTの利活用を巡る行政の予算配分がヒトよりモノ重視になっている現状があります。日本の行政予算は単年度で作られるため、中長期でプロジェクトを検討しづらくなり、コストも先行しがちです。これだと補助金ありきの事業が増え、健全な運営ができません。本来なら民間の事業のように、一定量の投資をして、その中から適宜予算を使っていくよう効果を測定するのが望ましいでしょう。その方が採算的かつ持続的な支援が可能になります。

■「ラストワンマイル」がカギ

真の産業復興事業には持続性の要素が伴っていることが必須です。そのためには市場価値のある商品やサービスの市場価値を高めることが重要です。先述した水産加工会社ではブイヤベースの新商品を開発し、今では県外から注文が相次ぐ人気商品になっています。ただそうした事例を増やすにはネットだけでは完結しません。現地に中長期入り込んで、ポテンシャルのある事業者を発掘し、全国のサポーターと結ぶ、できればビジネスモデルも含めた全体像を描けるプロデューサーやコーディネーターの存在が必要です。

その思いを強くしたのは、私自身に苦い経験があるからです。活動当初は、バックボーンであるコンサルタントの経験を活かして、分析や企画に特化するつもりでしたが、うまくいきませんでした。現地の事情は中に入り込まないと分かりませんし、情報も日に日に変化します。例えばICTを使った優れたアイデアを考えるだけでは駄目で、現地に合わせてツールを調整したり、使い方をガイドしたりする必要があります。成果のための「ラストワンマイル」を繋ぐための人手が必要だったのです。そうした反省から、私たちは現地に人を送り込んでいます。現在は現地に行っている人材を含め、マネジメントの出来る人材は40名程ですが、2020年までには1000人のコーディネーターを展開したいと考えています。

■人材と被災地マッチングの重要性

その意味で被災地に有為な人材が集まるように力を入れています。復興庁のプロジェクト「WORK FOR 東北」では、企業の人材が一定期間、そのスキルを必要とする被災地の自治体や企業等に派遣されるよう調整しており、これもお手伝いさせてもらっています。実は人材と被災地を結ぶ上でネットの役割は大きい。自治体のハローワークよりも東京で周知しやすく、被災地企業のニッチなニーズにも応えられます。

ただ、最も重要なのは人材スキルと現地ニーズを見極めること。そのうえで丁寧なマッチングが必要です。震災後、ボランティアなどで「とにかく被災地の役に立ちたい」との意気込みで現地入りしたものの、「こんなはずではなかった」と帰っていく方もいました。派遣先の県で有能な専門知識を持った人材が雑用に追われることもありました。復旧期と復興期では現地ニーズが変化することもあり、求められている人材像、スキルと合致しなかったわけです。また、お互いにとっての不幸を避けるためには、人材を送った後のマネジメントが実は重要です。私たちは企業の人材管理と同じく、派遣した方たちに対してMBO(目標管理)を適宜行い、ニーズの確認や見直し、現地での期待値調整も行っています。

■人材が育つ一歩目とは

こうしたコーディネーションを行い、目標をしっかり管理できるマネジメント型人材は、まだまだ不足しています。ICTの利活用でいえば、漠然と普及させるのではなく、住民の生活に役立つのか、役立つにしても使ってもらうにはどうすればいいかを考え、アイデアをカタチにしていく手腕が必要です。それには"お上任せ"ではなく自分たちの手でこの街を再生させるんだ、という意気込みが第一歩。リーダーシップを持った人材は現地でも十分に育ちます。そうした人材の後押しが国や自治体の役割になっていくと考えます。

震災復興 画像集
東日本大震災・手を合わせる女性 (01 of23)
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東日本大震災から2年半を迎え、多数の犠牲者が出た宮城県南三陸町の防災庁舎前で手を合わせる女性=11日午後 \n\n撮影日: 2013/09/11 (credit:時事通信社)
気仙沼に秋の味覚(02 of23)
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東日本大震災から2年半の11日、宮城県気仙沼市の気仙沼漁港で今季初のサンマが水揚げされた。北海道沖で捕れた約80トンを水揚げしたのは第六安洋丸(同県石巻市)。同港に係留中、津波で陸に打ち上げられたが、修理して出漁している。漁労長は「今年は群れが薄くて苦労したが、大きいものが捕れてほっとしている」と話した。 \n\n撮影日: 2013/09/11 (credit:時事通信社)
東日本大震災・第十八共徳丸とコスモス(03 of23)
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朝日に照らされる「第十八共徳丸」とコスモス=11日午前、宮城県気仙沼市 \n\n撮影日: 2013/09/11 (credit:時事通信社)
東日本大震災・2年半ぶりに灯った明かり (04 of23)
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宮城県石巻市の長面(ながつら)、尾崎(おのさき)地区に25日、東日本大震災以来約2年半ぶりに電気が届いた。同地区は居住が認められない「災害危険区域」だが、仕事などで日中滞在する住民らにとっては待望のライフライン。東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域を除いた被災地では最後の復旧となった。水産業に従事する小川英樹さん(32歳、中央)は「電気がきたことによって、できる作業の幅が広がる。これが復興の第一歩」と作業場に灯った明かりを見上げた。 \n\n撮影日: 2013/08/25 (credit:時事通信社)
大熊町のJR大野駅構内 (05 of23)
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立ち入りが規制されている福島第1原発がある福島県大熊町のJR常磐線大野駅構内。 \n\n撮影日: 2013/08/15 (credit:時事通信社)
漁業の復興・生イカの水揚げ (06 of23)
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日本有数の漁獲量を誇る八戸漁港の市場に水揚げされる生鮮スルメイカ。東日本大震災の被害から復興が進むものの、円安による原油価格の高騰が漁業関係者の痛手となっている=1日午後、青森県八戸市 \n\n撮影日: 2013/08/01 (credit:時事通信社)
仙台七夕まつり (07 of23)
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商店街に鮮やかな吹き流しが飾られた「仙台七夕まつり」。今年のテーマは、東日本大震災の復興への思いと、全国の支援者の気持ちをつなげていくとの意味を込めた「つなぐ」=6日夜、宮城県仙台市内 \n\n撮影日: 2013/08/06 (credit:時事通信社)
jlp15031626(08 of23)
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(credit:時事通信社)
スイカ割りで祝う3年ぶり海開き (09 of23)
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東日本大震災以来3年ぶりの海開きで行われたスイカ割り大会=7月28日、茨城県北茨城市の磯原二ツ島海水浴場 \n\n撮影日: 2013/07/28 (credit:時事通信社)
被災地つなぐ1000キロリレー (10 of23)
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東日本大震災の被災地をランニングと自転車で駆け抜ける「未来(あした)への道1000キロ縦断リレー」が行われている。25日に青森県八戸市を出発し、約700人のランナーが東京(8月7日)までたすきをつなぐ。30日はバルセロナ五輪金メダリストの岩崎恭子さんらが津波の爪痕が残る宮城県南三陸町の防災庁舎前を通過した(写真)。コースは東京五輪が実現した場合の聖火リレーのルートを想定している。 \n\n撮影日: 2013/07/30 (credit:時事通信社)
日本酒を購入する安倍首相 (11 of23)
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「南三陸さんさん商店街」で日本酒を購入する安倍晋三首相=29日午後、宮城県南三陸町[代表撮影] \n\n撮影日: 2013/07/29 (credit:時事通信社)
3年ぶりに復活したトコヤッサイ (12 of23)
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東日本大震災で開催が途切れ、3年ぶりに復活した創作踊り「トコヤッサイ」のコンテスト=27日午後、宮城県南三陸町 \n\n撮影日: 2013/07/27 (credit:時事通信社)
成長する松の苗木 (13 of23)
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高田松原の松ぼっくりから採れた種から育った松の苗木=3日、岩手県陸前高田市 \n\n撮影日: 2013/07/03 (credit:時事通信社)
福島の海水浴場 (14 of23)
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東日本大震災のがれき撤去が終わり、3年ぶりに海開きした四倉海水浴場。東京電力福島第1原発事故による放射能汚染水漏れの風評被害で訪れる海水浴客もまばら=15日午前、福島県いわき市 \n\n撮影日: 2013/07/15 (credit:時事通信社)
福島県いわき市で3年ぶりの海開き (15 of23)
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東日本大震災のがれき撤去が終わり、3年ぶりに海開きした四倉海水浴場。打ち寄せる波に子どもたちが歓声を上げていた=15日午前、福島県いわき市 \n\n撮影日: 2013/07/15 (credit:時事通信社)
プロ野球球宴・黙とうする全セマスコットキャラクター (16 of23)
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試合前、東日本大震災の犠牲者に黙とうをささげる全セのマスコットキャラクター=22日、福島・いわきグリーンスタジアム \n\n撮影日: 2013/07/22 (credit:時事通信社)
漁業の復興・サメの水揚げ (17 of23)
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東日本大震災の津波で被災した気仙沼港に水揚げされたモウカザメ。高級食材のフカヒレが切り取られ、身は加工食品などの原料となる=5月23日午前、宮城県気仙沼市の気仙沼漁港 \n\n撮影日: 2013/05/23 (credit:時事通信社)
「千年希望の丘」が完成 (18 of23)
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東日本大震災の津波で生じたがれきを使い造成された「千年希望の丘」。津波の勢いを弱めるための防災拠点、震災の教訓を後世に伝える公園の役割も持たせる=9日午前、宮城県岩沼市 \n\n撮影日: 2013/06/09 (credit:時事通信社)
飛行するブルーインパルス (19 of23)
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「東北六魂祭」で、上空に白いスモークでハートマークを描く航空自衛隊の「ブルーインパルス」=1日午後、福島市 \n\n撮影日: 2013/06/01 (credit:時事通信社)
飛行するブルーインパルス (20 of23)
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東北六魂祭パレードが行われる国道4号の上空を飛行するブルーインパルス=1日午後、福島市 \n\n撮影日: 2013/06/01 (credit:時事通信社)
パレードの青森ねぶた (21 of23)
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福島市で2日間にわたり行われた「東北六魂祭」が2日、閉幕した。福島わらじまつりや青森ねぶた祭など東北6県の夏祭りが勢ぞろいし、東日本大震災の鎮魂と復興を祈った。来場者数は計25万人に上った。写真は2日目のパレードに登場した青森ねぶた=2日午後、福島市 \n\n撮影日: 2013/06/02 (credit:時事通信社)
六魂祭の山形花笠まつり (22 of23)
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東北六魂祭2日目のパレードで、練り歩く山形花笠まつりの踊り子=2日午後、福島市 \n\n撮影日: 2013/06/02 (credit:時事通信社)
被災地の仮設商店街 (23 of23)
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東日本大震災の被災地で営業する仮設商店街=5月23日、宮城県気仙沼市 \n\n撮影日: 2013/05/23 (credit:時事通信社)