尖閣問題は出来レース

日中政府も尖閣には実利はないことを承知していている。尖閣諸島はナショナリズムに絡むシンボルに過ぎない。日本
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The sun rises as a flotilla of ships (not pictured) approaches a group of islands (C) known as Senkaku in Japanese and Diaoyu in Chinese, early on August 19, 2012. Nationalists raised Japanese flags on an island at the heart of a corrosive territorial row on August 19, sparking street protests in China and an angry reaction from Beijing. AFP PHOTO / Antoine Bouthier (Photo credit should read ANTOINE BOUTHIER/AFP/GettyImages)
AFP via Getty Images

■ 日中両方へのリップサービス

領土問題は、夫婦げんかのようなもので、他人が口を出してもロクなことにはならない。アメリカにとっての尖閣問題もそのようなものだ。無人島を巡って日中は争っているが、アメリカの本音は巻き込まれたくないというものだ。

だたし、巻き込まれない限りにおいて、アメリカは尖閣問題で利益を上げようとする頭もある。日本と中国双方に、いい顔をすることでそれぞれから利益を得られるためだ。

この点については、香港誌で閔之才さんが指摘している。※ 「アメリカは、尖閣問題で両国から利益を得ようソロバンを弾いている」ことを指摘するものだ。

閔さんは「米国はリップサービスで日中双方を満足させた」と書いている。アメリカには尖閣諸島について「3つの原則」を保っている。これは

1 尖閣諸島は日米安保の適用範囲

2 米国は日中の領土係争には関与しない

3 日中が冷静に処理することを望む

である。1で日本人を喜ばせ、2で中国人を喜ばせ、3でアメリカを巻き込まないようにするというものだ。

日中はともに、アメリカの掌の上で踊らされているということだ。実際に、アメリカの安全保障サイドによる発言「日米安保の範囲内」が、しばしば日本でニュースとなっていることを思い起こしてもらうと、納得できるだろう。

だが、アメリカの本音は、何の利益もない無人島問題に巻き込まれることは真っ平御免というものである。この点は、アメリカで影響力のある政治学者、レインさんが「中国(そして日本)にとって尖閣諸島の問題は高い戦略的、象徴的価値があるが、米国にとっては、本質的に戦略的価値はない」と明快に述べている。

当事国は必死だが、他国からみて大した問題ではない。そういうことだ。日中は尖閣諸島は自国のものだと主張している。国民国家にとって領土は神聖である。島を失えば、その政府は倒れる。本来はナショナリズムを抑えるべき日中政府も、領土問題では一歩も引けないわけだ。

しかし、他国から見ればどうでもよい。尖閣諸島は無人島である。尖閣諸島がどうなろうと、米国には何の影響もない。下手な介入をして、日中どちらかに30年50年100年恨まれるとなるとたまったものではない。

米国の尖閣諸島についての発言は、リップ・サービス程度に割り引かなければならない。安全保障サイドや保守誌は、たまにある米国の「日米安保の範囲内」を言質だと主張する。だが、米国は日中双方から利益を得ようとしているだけの話だということだ。

さらに言えば、日中政府も尖閣には実利はないことを承知している。尖閣諸島はナショナリズムに絡むシンボルに過ぎない。日本国民、中国国民のアイデンティティに絡むので日本政府、中国政府は妥協できないが、島やEEZには経済的実利はない。

だから、日中政府は睨み合いながらの現状放置を選択している。島を取られると戦争をしてでも取り返さなければならない。そうしないと政府は持たない。だが、取ったところで利用価値もない。互いに自分のものと主張する段階に留めるのが、現実的な知恵だということだ。

つまり、日中政府がやっているのは出来レースであり、米国もそれに乗っかっているといった程度である。

尖閣問題についてのニュースでは、感情的になるかもしれないが、多少は突き放して考えて見るべきだろう。

※ 閔之才「美国:一『魚』釣両国」『鏡報』426(香港,鏡報文化企業有限公司,2013.1)pp.16-19.

※※ レイン,クリストファー「パックス・アメリカーナの終焉後に来るべき世界像」『外交』(時事通信,2014.1)pp.20-25

尖閣問題 画像集
尖閣・尖閣諸島(01 of10)
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東京都が調査した尖閣諸島。右から魚釣島、北小島、南小島=2012年9月2日午後2時32分、沖縄県尖閣諸島沖[代表撮影] (credit:時事通信社)
南小島、北小島、魚釣島(02 of10)
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(手前から)南小島、北小島、魚釣島(海上自衛隊の哨戒機から撮影)[代表撮影] (credit:時事通信社)
尖閣・魚釣島(03 of10)
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東京都が調査する尖閣諸島の魚釣島=2012年9月2日午前8時45分、沖縄県尖閣諸島沖[代表撮影] (credit:時事通信社)
尖閣・魚釣島周辺を巡航する海上保安庁の巡視船(04 of10)
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尖閣諸島の魚釣島周辺を巡航する海上保安庁の巡視船=2021年9月2日午前8時42分、、沖縄県尖閣諸島沖[代表撮影] (credit:時事通信社)
尖閣・魚釣島周辺で調べる都の調査団(05 of10)
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尖閣諸島周辺の水質などを調べる東京都の調査団。奥に見えるのは魚釣島=2012年9月2日午前6時47分、沖縄県尖閣諸島沖[代表撮影] (credit:時事通信社)
尖閣・魚釣島周辺で水質を調べる都の調査団(06 of10)
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尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の地形や水質などを調べる東京都の調査団。奥に見える魚釣島には灯台が設置されている=2012年9月2日午前7時21分、沖縄県尖閣諸島沖[代表撮影] (credit:時事通信社)
尖閣・洞窟付近を調べる東京(07 of10)
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魚釣島の洞窟付近を調べる東京都の調査団ら=2012年9月2日午前、沖縄県尖閣諸島沖[代表撮影] (credit:時事通信社)
CHINA-JAPAN-DIPLOMACY-DISPUTE(08 of10)
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Anti-Japanese demonstrators march during a protest over the disputed Diaoyu islands, known as Senkaku in Japan, outside the Japanese Embassy in Beijing on September 12, 2012. China has dispatched two patrol ships to \"assert its sovereignty\" over islands at the centre of a row with Japan, state media said on September 11, as Tokyo completed its purchase of the disputed territory. AFP PHOTO / Mark RALSTON (credit:AFP時事)
CHINA-JAPAN-DIPLOMACY-DISPUTE(09 of10)
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Workers from Japanese company, Meiko Electronics (Wuhan) Limited, march with anti-Japan banners during a protest against Japan\'s \"nationalizing\" of Diaoyu Islands, also called Senkaku in Japan, in Wuhan, central China\'s Hubei province, on Septermber 18, 2012. Firms ranging from electronics giants Sony and Panasonic to Japan\'s three big carmakers -- Toyota, Honda and Nissan -- temporarily halted production at some or all of their China-based plants as anger erupted over a disputed island chain claimed by Tokyo and Beijing. CHINA OUT AFP PHOTO (credit:AFP時事)
2010十大ニュース・国内1/流出した中国漁船衝突映像(10 of10)
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沖縄・尖閣諸島沖で海上保安庁巡視船に中国漁船が衝突する状況を記録した映像。[国会に提出された動画より] (credit:時事通信社)