原発撤退が相次ぐアメリカ なぜ簡単に原発からの撤退を決められるのか

米国で原子力発電からの撤退が相次いでいる。理由は安全性への懸念ではなくコスト。シェールガス革命の影響で原発の発電コストの高さが際立つように…
|
Open Image Modal
MINERAL, VA - AUGUST 24: The North Anna Power Station operated by Dominion Energy remains offline after losing offsite power in the wake of yesterday's 5.8 earthquake August 24, 2011 near Mineral, Virginia. The epicenter of the quake, the East Coast's largest since 1944, was located a few miles outside of Mineral, a town of 430 people located about 50 miles west of Richmond and about 7 miles from the North Anna plant. (Photo by Scott Olson/Getty Images)
Getty

Open Image Modal

コスト高から原発撤退が相次ぐ米国。簡単に原発からの撤退を決められるのはナゼ?

米国で原子力発電からの撤退が相次いでいる。理由は安全性への懸念ではなくコスト。シェールガス革命の影響で原発の発電コストの高さが際立つようになってきた。また米国は日本と異なり、核燃料サイクルを構築しないシンプルなワンスルー方式を採用している。放射性廃棄物の再処理問題がなく、原子力産業が身軽という点も大きく影響している。また電力が自由化されており、電力会社が地域独占ではない点も、意思決定のスピードを速くしている。

米電力会社エンタジーは8月27日バーモント州のヤンキー原発を閉鎖すると発表した。閉鎖の理由は原発の発電コスト。

米国では安価なシェールガスの開発が進んでおり、近い将来エネルギーのほとんどを国内の石油や天然ガスで賄うことが可能とみられている。米国ではエネルギー価格の下落が進んでおり、試算方法にもよるが原発のコストは天然ガスの2倍近くにもなっている。

今年に入って米国ではヤンキー原発以外にも3つの原発が閉鎖を決定している。7月には米国の原子力発電事業に進出していたフランス電力公社が、原発の採算が合わなくなっていることを理由に米国市場からの撤退を決めた。

米国の電力会社がコストが高くなったからといって容易に原発から撤退できるのは、米国がワンスルー方式と呼ばれるシンプルな原子力政策を採用している点が大きい。

日本やフランスは、原発の使用済み燃料を再処理し、その中からプルトニウムを抽出、再度原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」の構築を目指している。このため、核燃料の再処理工場や高速増殖炉など、様々な付帯設備を開発する必要がある。

だがプルトニウムの取り扱いや高速増殖炉の運転には危険が伴うため、商業ベースに乗せるためには相当の技術開発を重ねる必要がある。現在、日本では青森県六ヶ所村に再処理施設を建設中だが相次ぐトラブルで操業開始が延期となっているほか、高速増殖炉もんじゅは運転を停止したままとなっている。再処理後に出てくる高レベル放射性廃棄物の最終処分場もまだ決まっていない。

これらの開発には何兆円もの国費が投入されており、簡単には撤退できない状況に追い込まれている。日本の原子力業界が何としても再稼働を急ぎたい背景にはこのような事情もある。

一方、米国はウランを原子炉で燃やした後は再処理せず、そのまま廃棄するワンスルー方式を採用している。危険な核燃料サイクル施設を建設する必要がなく、コストも安い。原発からの撤退は、単純に発電所の採算だけを考えればよいため、意思決定が容易だ。

米国における原子力開発に対する考え方はシンプルだ。核戦略上、原子力開発そのものは必須と考えており、この分野からの撤退はまったく考えていない。だが商用ベースの発電所については、民間ベースで純粋に経済合理性だけで判断すればよいというものである。

だが日本の場合、原子力開発については、建前上、核開発の技術蓄積のためとは公言できない事情があった。このためあくまで商業用原発を普及させることが主目的とされた。さらに原子力開発が推進された当時、エネルギーのほとんどを石油の輸入に依存していることについて、かなりの危機感があった。このため何が何でも核燃料サイクルを確立しなければならないという雰囲気が強く、米国ようなシンプルな方式はあまり検討されなかった。

原発問題には、安全保障(核戦略)、エネルギー自給、コスト、危険性という4つのファクターが存在しており、その他の発電技術とは大きく異なっている。原子力開発の是非について議論するためには、この4つのファクターのどれも欠かすことはできない。日本の原子力開発が迷走しているのは、この4つについて真正面から議論してこなかったツケといえるだろう。

【参考記事】

関連記事

アメリカの原発写真集
5.8 Earthquake Centered In Mineral, Virginia(01 of05)
Open Image Modal
MINERAL, VA - AUGUST 24: The North Anna Power Station operated by Dominion Energy remains offline after losing offsite power in the wake of yesterday\'s 5.8 earthquake August 24, 2011 near Mineral, Virginia. The epicenter of the quake, the East Coast\'s largest since 1944, was located a few miles outside of Mineral, a town of 430 people located about 50 miles west of Richmond and about 7 miles from the North Anna plant. (Photo by Scott Olson/Getty Images) (credit:Getty Images)
Vogtle nuclear power plant, Georgia, USA(02 of05)
Open Image Modal
(credit:Flickr:BlatantWorld.com)
Anniversary Of Nuclear Disaster At Three Mile Island Marked Near The Site(03 of05)
Open Image Modal
MIDDLETOWN, PA - MARCH 28: The Three Mile Island Nuclear Plant is seen in the early morning hours March 28, 2011 in Middletown, Pennsylvania. (Photo Jeff Fusco/Getty Images) (credit:Getty Images)
Unit 2 - Three Mile Island(04 of05)
Open Image Modal
(credit:Flickr:rowens27)
Shown here is a Humpback Whale (Megaptera novaeangliae) at Diablo Nuclear Power Plant(05 of05)
Open Image Modal
(credit:Flickr:mikebaird)
日本の主な原子力発電所と関連施設
北海道電力の泊原発(01 of18)
Open Image Modal
北海道電力の泊原子力発電所。右端が3号機(北海道泊村)\n\n撮影日:2012年05月05日 (credit:時事通信社)
東北電力東通原発 (02 of18)
Open Image Modal
敷地内に活断層があると指摘された東北電力の東通原子力発電所1号機の原子炉建屋(中央奥の白い建物)。右端の塔は排気筒。左端の茶色の建物は事務本館=2013年06月19日午後、青森県東通村 (credit:時事通信社)
東日本大震災・女川原子力発電所 (03 of18)
Open Image Modal
女川原子力発電所(宮城・女川町)\n\n撮影日:2011年04月12日 (credit:時事通信社)
福島第2原子力発電所(04 of18)
Open Image Modal
東京電力福島第2原子力発電所=5日、福島県楢葉町、富岡町(時事通信社チャーター機より)\n撮影日:2013年03月05日 (credit:時事通信社)
福島原発/福島第1原発の4号機(05 of18)
Open Image Modal
福島第1原発の4号機=15日午前11時48分、福島県大熊町[代表撮影]\n\n撮影日:2014年01月15日 (credit:時事通信社)
東海第2発電所(06 of18)
Open Image Modal
日本原子力発電の東海第2原子力発電所=5日、茨城県東海村(時事通信社チャーター機より)\n撮影日:2013年03月05日 (credit:時事通信社)
新潟県中越沖地震・柏崎刈羽原子力発電所(07 of18)
Open Image Modal
東京電力の柏崎刈羽原子力発電所。(左から)5,6,7号機(16日午後、新潟県柏崎市)[時事通信ヘリコプターより]\n撮影日:2007年07月16日 (credit:時事通信社)
浜岡原発と御前崎市街地(08 of18)
Open Image Modal
中部電力浜岡原子力発電所(奥)と御前崎市街地=2012年10月03日、静岡県 (credit:時事通信社)
志賀原発訴訟・志賀原発 (09 of18)
Open Image Modal
北陸電力の志賀原子力発電所。左側が2号機(石川・志賀町赤住)\n撮影日:2009年03月12日 (credit:時事通信社)
日本原電敦賀発電所(10 of18)
Open Image Modal
日本原子力発電敦賀発電所。左が日本初の軽水炉として1970(昭和45)年に営業運転を開始した1号機。右は2号機(福井・敦賀市明神町\n\n撮影日:2012年03月06日 (credit:時事通信社)
関西電力美浜発電所(11 of18)
Open Image Modal
敷地内の断層が活断層の疑いがあるとして、原子力規制委員会の調査対象となっている関西電力美浜原発(右から1号機、2号機、3号機)=8日午後、福井県美浜町 \n\n撮影日:2013年12月08日 (credit:時事通信社)
大飯原発(12 of18)
Open Image Modal
関西電力大飯原発3、4号機の建屋。写真左側では、敷地内断層調査のため試掘溝を掘削する工事が行われている=2013年06月15日午前、福井県おおい町 (credit:時事通信社)
関西電力高浜原子力発電所(13 of18)
Open Image Modal
関西電力高浜原発。右手前から1、2号機、左手前から3、4号機の建屋=27日、福井県高浜町\n\n2013年06月27日午前、福井県高浜町 (credit:時事通信社)
島根原発の1号機と2号機 (14 of18)
Open Image Modal
中国電力島根原発1号機(手前)と2号機(島根県松江市)\n\n撮影日:2011年11月28日 (credit:時事通信社)
四国電力伊方原子力発電所(15 of18)
Open Image Modal
佐田岬半島の瀬戸内海側にある四国電力伊方原子力発電所。頭が青色の建物が左から1号機、2号機、3号機=2012年11月18日、愛媛県西宇和郡伊方町 (credit:時事通信社)
玄海原発(16 of18)
Open Image Modal
九州電力玄海原子力発電所(奥)。左から4号機、3号機(佐賀・東松浦郡玄海町)\n\n撮影日:2011年05月24日 (credit:時事通信社)
川内原子力発電所 (17 of18)
Open Image Modal
再稼働の前提となる安全審査に絡む川内原発の現地調査で、九州電力(左側)から説明を受ける原子力規制委員会の委員ら=2013年09月20日午前、鹿児島県薩摩川内市[代表撮影]\n\n (credit:時事通信社)
高速増殖炉「もんじゅ」(18 of18)
Open Image Modal
日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」=2013年6月6日、福井県敦賀市 (credit:時事通信社)