「たった紙一枚で人の意識はこんなに変わる」渋谷区パートナーシップ証明書から2年

「たった紙一枚で人の意識はこんなに変わるんだと思った」
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2015年11月、渋谷区で同性カップルのパートナーシップを証明する「パートナーシップ証明書」の交付が始まった。ちょうど2年がたった昨日、渋谷・男女平等ダイバーシティセンター「アイリス」で、パートナーシップ証明実態報告調査会が行われた。

■公正証書を作成するプロセスが、二人の関係を見つめ直す機会になった

渋谷区総務部男女平等・ダイバーシティ推進担当課長の永田龍太郎氏によると、渋谷区では11月1日時点で24組のカップルに証明書を交付している。そのうちの取得者12名、取得を検討中4名の計16名の方に対して、今回、渋谷区とLGBT関連のNPO、学術研究者グループが共同でインタビュー調査を行った。

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NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀氏
松岡宗嗣

「交際開始年が、一番古い方で1977年からのカップルがいました。それぞれのカップルのストーリーを聞くと目頭が熱くなってきます」と話すのは、NPO法人虹色ダイバーシティ代表理事の村木真紀氏。

証明書を取得したカップルへのインタビューから、「行政による後ろ盾があるという安心感」によって「社会からの"承認されている"と感じる」人が多かったと話す。また、「公正証書を作成するプロセスが、二人の間の関係を見つめ直す機会になった」という声もあった。

■証明書取得は、周囲に「本気だよ」と伝えるため

別日には、実際にパートナーシップ証明書を取得した5組のカップルと長谷部健渋谷区長との懇親会が行われた。

なぜ証明書を取得したのか。交際9年目の男性同士のカップルは「それまで困難を感じたことはあまりなかったが、家のローンを組むときに『夫婦ではないためどちらか一方でないと組めない』ということを知った。その後、生命保険の受け取り人を同性パートナーに指定できるという話を聞いて証明書を取得しようと思った」という人や、交際3年目の女性同士のカップルは「両親やまわりのひとに、自分たちの関係が『本気だよ、気の迷いじゃないよ』というのをアピールするため」と話した。

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パートナーシップ証明書を取得した方と長谷部健渋谷区長との懇親会
松岡宗嗣

渋谷区のパートナーシップ証明書は、世田谷区等、他の自治体とは異なり公正証書の作成が必要だ。それに伴い、例えば渋谷区が規定する内容で公正証書を作ると1.5〜5万円程度費用が発生する。 他の自治体と比べて渋谷区のパートナーシップ証明書取得者は戸籍上男性の方が多く、本人とパートナーの年収の合算が400万円を満たないカップルはいなかった。 男性同士のカップルは「結婚しようと思ったら、色々かかるコストのうちの一つと思うことができるけど、平等という観点からだとどうかなとは思う 」「法律をかえるために第一歩としてこれは良いこと、ありがたいことだと思う」と話した。

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パートナーシップ証明書を取得したカップル
松岡宗嗣

■ たった紙一枚で人の意識はこんなに変わるんだと思った

今回の実態調査に対して、学術研究チーム、国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおり氏は「たった紙一枚で人の意識はこんなに変わるんだと思った」と証明書の意義を語った。

「日本ではじめてこういった証明書が発行されて、それを取得した人に直接話をきいたということはすごいこと。今後は、生活がどうなっているか、制度を使ったカップルと制度を使っていないカップルの比較、異性間と同性間の比較なども行っていきたい」

同じく学術研究チーム、金沢大学人間社会研究域法学系教授の名古道功氏は「これまで男女という2つの性、そして異性婚が大前提として法律が作られてきた。これを根本的に見直していく必要性が出てきているんじゃないか。法律の分野に突きつけられた課題ではないかなと考えている」と語った。

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長谷部健渋谷区長
松岡宗嗣

なぜ、あえて公正証書の仕組みにしたのか、長谷部区長は「なるべく結婚と同等にしたいという思いから公正証書にした」と話す。

「費用の面でハードルが高いのではと想定していた。実際に取得した方と話すと、思ったよりそこはハードルにはなっていないようだと感じたが、補助等も含めて今後検討していきたい」

調査では、証明書を取得したカップルだけでなく、企業に対してもインタビューが行われた。民間企業からは、渋谷区の取り組みは公正証書に基づいている点が、同性パートナーシップ対応において依拠しやすいという点で評価されている。

実際に証明書を取得した方のなかに、別の区にある病院に入院した際、手術に家族の同席が必要だったが、同性のパートナーではダメだと断られ医者とトラブルになったという方がいた。その時パートナーシップ証明書を持って行ったところ再度検討してくれて、結局パートナーの同席が可能になったそう。

保険会社でも、公正証書とパートナーシップ証明書によって、死亡保険の受取人を同性パートナーに指定できるというのが標準的だ。パートナーシップ制度が導入されていない自治体や企業でも、公正証書があれば場合によっては今後同性パートナーを認定するところは増えていくかもしれない。

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松岡宗嗣

■多くの人に知ってもらって、世の中の空気を変えていきたい

今回、証明書を取得した人の中には、自治体のパートナーシップ制度に加えて「単身者がもっと生活しやすいとか、子どもを育てやすくしてあげてほしい」という声もあがった。

長谷部区長は「今回はパートナーがいる方々が享受できる仕組み。思春期に悩む方も多いと伺っているので、相談対応なども重点に考えていく必要性がある」

「渦はまわりはじめたので、どんどん大きくしていく。多くの人にこの取り組みを知っていただいて、世の中の空気を変えていきたい」と今後の意気込みを語った。

現在パートナーシップ制度を導入している自治体は渋谷区、世田谷区を始め全国で6つ。11月1日時点で合計134組のカップルがこれらの制度を利用している。

台湾では今年5月に「同性婚が認められていない現行の民法は違憲」と判断され、2年以内に修正することが決まった。日本と比較して自治体数は異なれど、2015年時点で11の都市、人口のうち約80%の自治体で同性パートナーシップ制度が施行されている。

日本でもこれからパートナーシップ制度を導入する自治体が増えていくだろう。各自治体での取り組みが最終的には国レベルでの法制度につながるのかどうか、今後に期待したい。