新専門医制度の何が問題なのか 〜巧妙に仕込まれたプログラム制の罠〜

1年延期された専門医制度が、最大の問題である「質」の担保をする事なく再び開始されようとしている。

1年延期された専門医制度が、最大の問題である「質」の担保をする事なく再び開始されようとしている。

私たちは、2018年からの専門医制度の開始に反対している。この制度に反対の声を上げた現場の医師たち数人とともに、ネット上でH30年開始反対の署名を集めており、4月1日現在1500人弱の署名が集まっている(1)。

一般国民にも、これから専門医取得を目指す若い医師や医学生にも極めてわかりにくいこの制度の何が問題なのだろうか。問題点は幾多もあるが、今回は日本専門医機構が導入しようとしている「プログラム制」に的をしぼってお伝えしたい。

結論から言うと、専門医機構は専門医を育てるための「プログラム制」を意図的に誤用しているのである。

今回の制度では、医学部を卒業した医師は、「原則として何らかの専門医になる事」になり、そのために「卒後5年プログラム制で研修する」とされている。これはアメリカの制度を参考にしていると思われる。アメリカの制度では、メディカルスクール卒業後、全員が何かしらの専門医のコースを取る事になっており、そこには、家庭医(family medicine)も専門医のコースの一つとして入っている。

機構のいうプログラム制とは何か、専門医制度新整備指針から引用する

1)研修プログラム制 研修プログラムに定められた到達目標を、年次ごと(例えば 3~5 年間)に定められた研修プログラムに則って研修を行い、専門医を養成するもので、一つの基幹施設のみでの完結型の研修ではなく、一つ以上の連携施設と研修施設群を作り循環型の研修を行うものとする。すなわち、一つの病院だけの研修を行うと、その病院の性質(地域性、医師の専門等)の偏りにより研修に偏りがでる可能性があるので、他の連携病院を必ず作り循環型の研修を行うものである(2)。

専門医になるのに、プログラムに沿って一定の研修を受ける事に何の問題があろうかと思われるかもしれない。ここに巧妙に仕組まれた罠がある。

欧米の制度では、通常専門医を養成するのは単一の医療機関が提供するプログラムで研修している。今回、基幹施設--連携施設で研修施設群を作り、循環型の研修を行うというのは、他国にはない日本ならではの方法なのである。

「一つの病院だけの研修を行うと、その病院の性質(地域性、医師の専門等)の偏りにより研修に偏りがでる可能性がある」と機構はいうが、随分おかしなことを言うものである。

短期でのローテートは「お客様状態」での研修となり、責任を持って医師を育てる事が出来ないために、むしろ専門医の「質」が担保されなくなる。

例えば、アメリカでは、ほぼ単一の医療機関でプログラムを提供するが、その医療機関で研修出来ない部分だけ、他の病院に行って研修するという。またどの医療機関が研修指定病院になるのかは手挙げ方式で、その病院で経験出来る症例数、指導医数、そして予算によって研修医の数が決まる。地域によって人数をコントロールするような事は一切していない。

また、女医にとっては、この制度はさらに深刻な問題をはらむ。そもそも日本で医師になるという事は、女性にとっては、子供を持って働きつづけるという当たり前の事がすでに高いハードルとなっている。

それが、結婚出産適齢期に、専門医制度により研修施設を転々としなければいけなくなる。現在でさえ、婚活、妊活、出産場所、保活、子育て等子供を産み育てる事が難しい社会である。

女医のパートナーは7割が医師であるが、事実上、女医がキャリアをあきらめて家事育児を担う事が多い状況下で、女医のキャリア形成はさらに困難になるであろう。

これでは専門医をあきらめるか、出産をあきらめるか、家庭が崩壊するかになってしまう。制度を決めた方々の中に、この事を想像出来る人がいたとは思えない。

何故、こんな事になってしまうのか。

一番の問題は、2013年の「専門医の在り方に関する検討会 報告書」にある(3)。これが専門医制度の「憲法」となってしまい、その後の議論は、なぜかすべてこの報告書の枠内で行われる前提になっている。

今回の機構の新整備指針も、当然報告書の枠内で決められているのである。そして、この報告書が、専門医制度の問題に、医師の地域偏在、診療科偏在の問題を入れてしまっているのであるから、当然制度は歪む。

地域医療に配慮し、基幹病院--連携施設という循環型の研修を行うことになった。都市部に研修の医師が集中しないように、都市部の研修人数に制限を設けた。地域においても連携病院にも人が行くように、「原則として、基幹施設での研修は 6 カ月以上とし、連携施設での研修は 3ヵ月未満とならないように努める」と事細かに枠組みを定めた。

このようにして、新整備指針では一見、地域医療に配慮したように見えるため、このままでは地域医療が崩壊してしまうと危惧していた医師会等からの賛同を得たが、これは専門医制度と関係のない、プログラム制の名を借りた地域、診療科偏在対策の定員管理制度である。

結果、厚労省は医学部の卒業生を容易に計画配置出来る道筋を作ったのである。

そして、一番肝心の専門医の「質」については、各学会に丸投げで実は何も決まっていない。参考にしたであろうアメリカの制度では、研修医療機関は、プログラムに沿って研修が行われているか、質が担保されているか、抜き打ちで評価される。

また研修医は、専門医の試験を受ける前のトレーニング期間、指導医からも下の医師からも時に医学生からも360度評価を受けながら研鑽に励むのである。そこには、学会に何年所属していなければならない、と言うような条件はない。また、医師のシフト制勤務が確立されており、男性医師も育休、産休を取る社会的土壌があるために、女性医師のみに過度な負担がかからないようになっている。

専門医機構は任意団体で、専門医になるかどうかは手上げ式だといわれているが、オプジーボの例を挙げるまでもなく、特定の薬の処方に専門医の資格が必須化される事は目に見えており、好むと好まざるとに関わらず、機構の背後にいる厚労省の意向を「忖度して」、医師は必ず何らかの専門医を取得するようになるだろう。

現に、専門医制度の「憲法」となってしまった2013年の「専門医の在り方に関する検討会 報告書」内の資料によると、実に95%もの医師が、専門医や認定医の資格を取りたいと答えている。

この制度は、プログラム制一つとっても大きな問題を抱えている。制度の先を見届けられない世代だけでこの制度を決めてはいけない。

現場の医師を入れての再議論が必要である。

(1)「新専門医制度」H30年度からの開始に反対します。

(2)専門医制度新整備指針

(3)専門医の在り方に関する検討会 報告書

(2017年4月13日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)