風営法で立ち入り、同行はOK?「法的にグレー」と専門家【新型コロナ】

風営法に基づく警察の立ち入りに同行する行政の調査が、夜の繁華街で進んでいる。事実上コロナ対策が目的だが、法律上認められるのか?識者に聞いた。
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風営法に基づく警視庁の立ち入りと合同で、新型コロナウイルス感染防止対策の周知のため歌舞伎町の店舗に向かう東京都の職員ら=7月24日午後、東京都新宿区
時事通信社

接待を伴う飲食店や風俗店が建ち並ぶ夜の繁華街で、風営法に基づく警察の立ち入りに、コロナ対策の目的で同行する行政の調査が始まった。菅義偉官房長官は、7月19日の民放番組で、ホストクラブやキャバクラに対して風営法に基づく警察の立ち入り調査を進める考えを示した。東京都や大阪府でも対策の動きが進む。事実上コロナを理由とした立ち入りは、風営法上、認められるのか?風俗店やキャバクラの健全化に取り組む「グラディアトル法律事務所」の若林翔弁護士に尋ねた。

 

■「目的の範囲内」には当たらない

風営法に基づき警察が立ち入り調査できるのは、どのようなケースか?

風営法37条は、風俗営業所などに関し「警察職員は、同法の施行に必要な限度において、立ち入ることができる」と規定している。

警察庁が2018年に各都道府県警に通達した「風営法の解釈運用基準」は、立ち入りができる範囲について「法の目的の範囲内で必要最低限で行わなければならない」と定め、「保健衛生上の見地から調理場の検査を行う」などのケースは認められない、と例示している

「施行に必要な限度」や「目的の範囲内」とは、具体的にどのような場合を指すのか。

若林氏によると、店舗の設備や構造が基準を満たしているか、従業員の名簿を作成しているかといった法律遵守の実態を調査する場合などが典型的なケースという。

菅官房長官は、7月19日のフジテレビの報道番組「日曜報道 THE PRIME」で「ホストクラブ、キャバクラなどに風営法で立ち入りできるので、そうしたことを思い切ってやっていく必要がある」と発言。NHKニュースによると、大阪府の吉村洋文知事も20日、警察が風営法に基づいて繁華街の店舗に立ち入る際、事業者に感染防止策の徹底を促す方針を表明。東京都の小池百合子知事も、22日の記者会見で「警視庁と都庁が連携し、風俗営業の店に対して感染予防の徹底を図る」との考えを示した。

 

■法的に「グレー」

そもそも、コロナの感染拡大防止を目的とする立ち入りに、風営法を適用できるのか。

若林氏は、解釈運用基準が「犯罪捜査の目的や他の行政目的のために行うことはできない」と明記していることに触れ、「明らかに風営法の目的とは異なり、認められない」と指摘する。

一方、東京都は、風営法に基づく警察の立ち入り調査に都の職員が同行し、「任意」での調査を求める手法を取る。大阪府の方針もこれと同様だ。

この手法に対し、若林氏は「違法性が疑われる店舗に立ち入ることは当然法に適っている」とする一方、「都の立ち入りの真の目的は、コロナの感染拡大防止。実質的には任意と言えず、法的に“グレー”だと考えます」と話す。

 

■「権力濫用」の危機感

立ち入りを実施する際、裁判所など他機関の許可は必要ない。そのため警察が職権を濫用しないよう、解釈運用基準は、実施に当たって「国民の基本的人権を不当に侵害しないように注意する必要がある」「正当に営業している者に対して無用な負担をかけることがあってはならない」ことを明記している。

若林氏は「コロナを理由とする立ち入りは、こうした運用基準に反し、権力の濫用です。法治国家の原則に反してとても危ういと考えます」と警鐘を鳴らす。

「コロナ対策での立ち入りが必要ならば、法改正をして根拠となる法律を成立させるという真っ当な手続きを踏んでから実行するべきです。風営法違反の疑いがなくても、警察の判断で店舗にどんどん立ち入ることは法律上は可能です。だからこそ、運用基準で職権の濫用を明確に禁じているのに、法の網を潜るような行為がすでに行われていることを非常に危惧しています」